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連載
番外編 両親たちの甘い夜
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「ねえあなた。どういうことか説明していただけますかしら?」
妻が王宮から戻ってくるなり私に詰め寄ってきた。
「どういうことかと問われてもだな……」
淑女らしい笑みを浮かべているのにも関わらず、とんでもない威圧感が……いやいや。
「クリステアはイディカをラースのように食用として使えるか検証してみると言っていただけのはずなのに、どうして新メニューがいくつも出来上がっているのですか!」
「どうしてそれを……ああ、レオン様か」
屋敷に戻ってすぐに私の元へやってきたらしいのに耳が早い、と思ったが試食会の後さっさと王宮へ転移していったレオン様の仕業かと思い当たる。
まったく、あの聖獣様は私の秘蔵の酒を散々飲み散らかした挙句、新作料理をひととおりおかわりし、土産まで持ち帰りおって。
お陰で、カルド殿下が潜伏先として使っていた商隊に追加でイディカの納品を頼むはめになったのだぞ?
その結果が妻からの尋問とは割に合わないではないか!
「ええ、お茶会の席にレオン様が乱入なさって、その時に教えていただきましたの。私、初耳でしたので急遽お茶会を中断して戻りましたのよ?」
「……別に、中断はせずともよいのではないか?」
「まああ! あなたは愛娘の新作をたらふく召し上がってさぞかし満足でしょうね?」
い、いかん。妻の機嫌を損ねたらしばらく冷戦状態になりかねん。
「す、すまない。しかし……」
それもこれもレオン様を足止めするために酒盛りに付き合っていたせいでクリステアの行動が逐一私の元に届かなかったからで……うむ、これはバレると余計まずい。
私だって気付かぬうちになぜか新作が何品もできていたのだ。
これにはクリステアが料理の才があるがゆえか知らぬが驚いた。
しかも、見学するだけのはずのカルド殿下まで調理を手伝っていたし。
……このことをアンが知ったら「何という不敬を……!」と頭を抱えるやもしれぬ。
これも黙っておくか。
「……私だって、初めこそクリステアが料理なんて、淑女らしくないと反対もしましたわ。ですが、領地に引きこもらざるを得ない境遇を嘆いていたあの子が、あんなにも生き生きと楽しそうに料理をして、私たちに嬉しそうに振る舞ってくれるのを見たら、もう……親として見守るしかありませんもの」
「アン……」
わかる、わかるぞ。
あの子は「大好きなお父様に召し上がっていただきたくて」と手料理を振る舞ってくれたのだ。
愛娘の手料理を心ゆくまで、しかもそれが絶品ともいえる美味なる料理を食べられる貴族の親がどれだけいると思う⁉︎
ドリスタン王国ではきっと私だけだ!
それゆえに「悪食令嬢」などと戯言をほざく輩が湧いて出たことにははらわたが煮えくりかえる思いだったが。
そりゃあ、家畜の餌であるラースを食べたと知った時はなんてことをしたのだと仰天したが、知らずに塩おにぎりを食べた時は素直に美味いと思ったのだから、その時の感想が全てなのだと切り替えたら、使用人をはじめとして領民たちの食事情が改善した。
今思えば、クリステアのしたことは初めこそ奇行とも受け取られかねなかったが、今ではドリスタン王国内の領地のほとんどで平民が主だとはいえラースが食べられている。
土地の問題で小麦が育たず、ラースを主に栽培していた領地からは今やエリスフィード公爵家は救世主だと社交シーズンの度に感謝されているほどだ。
そのクリステアが、今度は国境を超え遠くサモナールまで食の改善に寄与するとは思わないではないか。
イディカをラースのように食用として可能なように調理法を編み出し、さらに美味しく食べられるようメニューを開発、とどめに製粉しその調理法まで……いかん、今までのこともアレだが、ここ数日のことだけで我が娘はとんでもない偉業を成し遂げているのではないか⁉︎
「……た、あなた? 聞いてらして?」
「はっ⁉︎ ……あ、ああ、すまない。君の母としての愛に感動していたところだ」
「……もう。あなたったら」
呆れたような顔から一転、柔らかく微笑んだ我が妻は、私の隣に座り私の肩にもたれてきた。
「……今日振る舞われた新作は、全て君の分を確保してあるとも。もちろん、私の分もな」
「あら、あなたはもう散々召し上がったのでしょう? ずるいわ」
拗ねたように私を睨むアンは、いつもより可愛らしく見える。
「……ふ、仕方ない。私の分も君に分けてやろう」
「まあ、それはだめよ。クリステアの考案した料理はどれも美味しいもの。食べすぎて太っちゃうわ」
「ははは、君は少し太っても魅力的だと思うが……いや、すまん。失言だった」
いかん、美に関して貪欲な妻に迂闊な発言は不和に繋がる。気をつけねば。
「……とにかく今夜はクリステアの料理を存分に食べるといい。その後にしっかり運動すれば問題ない」
「いやだわ、あなたやノーマンみたいに剣の練習でもしろというの?」
確かに、淑女たるアンは魔術には長けているが剣術など体術は不慣れだからな。
かといって、私の苦手なダンスに付き合わされるのは得策ではない。
「ふむ、そうだな……食後のデザートにチョコレートはいかがかな? 私たちのために少し確保してあるんだが」
「まあ……ふふ。そうね、今夜のデザートはチョコレートと軽くお酒をいただこうかしら?」
私の誘いに、アンがほんのりと頬を染めて答える。
その愛らしさに私は思わず顎をついと引き上げ、自らの唇を寄せた。
ああ、今日はいい日だ。
---------------------------
そういえばママンの番外編を書いてからこれも書こう書こうと思って忘れてました(汗)
このまま書き忘れたりアップするタイミングを逃す前に……!ということで急遽番外編です!
クリステアの喪女の拗らせっぷりに反してその両親はラブラブという……
クリステアかつ「解せぬ」
いつもコメントやエール・いいねをポチッとありがとうございます( ´ ▽ ` )
執筆の励みになっております~!
妻が王宮から戻ってくるなり私に詰め寄ってきた。
「どういうことかと問われてもだな……」
淑女らしい笑みを浮かべているのにも関わらず、とんでもない威圧感が……いやいや。
「クリステアはイディカをラースのように食用として使えるか検証してみると言っていただけのはずなのに、どうして新メニューがいくつも出来上がっているのですか!」
「どうしてそれを……ああ、レオン様か」
屋敷に戻ってすぐに私の元へやってきたらしいのに耳が早い、と思ったが試食会の後さっさと王宮へ転移していったレオン様の仕業かと思い当たる。
まったく、あの聖獣様は私の秘蔵の酒を散々飲み散らかした挙句、新作料理をひととおりおかわりし、土産まで持ち帰りおって。
お陰で、カルド殿下が潜伏先として使っていた商隊に追加でイディカの納品を頼むはめになったのだぞ?
その結果が妻からの尋問とは割に合わないではないか!
「ええ、お茶会の席にレオン様が乱入なさって、その時に教えていただきましたの。私、初耳でしたので急遽お茶会を中断して戻りましたのよ?」
「……別に、中断はせずともよいのではないか?」
「まああ! あなたは愛娘の新作をたらふく召し上がってさぞかし満足でしょうね?」
い、いかん。妻の機嫌を損ねたらしばらく冷戦状態になりかねん。
「す、すまない。しかし……」
それもこれもレオン様を足止めするために酒盛りに付き合っていたせいでクリステアの行動が逐一私の元に届かなかったからで……うむ、これはバレると余計まずい。
私だって気付かぬうちになぜか新作が何品もできていたのだ。
これにはクリステアが料理の才があるがゆえか知らぬが驚いた。
しかも、見学するだけのはずのカルド殿下まで調理を手伝っていたし。
……このことをアンが知ったら「何という不敬を……!」と頭を抱えるやもしれぬ。
これも黙っておくか。
「……私だって、初めこそクリステアが料理なんて、淑女らしくないと反対もしましたわ。ですが、領地に引きこもらざるを得ない境遇を嘆いていたあの子が、あんなにも生き生きと楽しそうに料理をして、私たちに嬉しそうに振る舞ってくれるのを見たら、もう……親として見守るしかありませんもの」
「アン……」
わかる、わかるぞ。
あの子は「大好きなお父様に召し上がっていただきたくて」と手料理を振る舞ってくれたのだ。
愛娘の手料理を心ゆくまで、しかもそれが絶品ともいえる美味なる料理を食べられる貴族の親がどれだけいると思う⁉︎
ドリスタン王国ではきっと私だけだ!
それゆえに「悪食令嬢」などと戯言をほざく輩が湧いて出たことにははらわたが煮えくりかえる思いだったが。
そりゃあ、家畜の餌であるラースを食べたと知った時はなんてことをしたのだと仰天したが、知らずに塩おにぎりを食べた時は素直に美味いと思ったのだから、その時の感想が全てなのだと切り替えたら、使用人をはじめとして領民たちの食事情が改善した。
今思えば、クリステアのしたことは初めこそ奇行とも受け取られかねなかったが、今ではドリスタン王国内の領地のほとんどで平民が主だとはいえラースが食べられている。
土地の問題で小麦が育たず、ラースを主に栽培していた領地からは今やエリスフィード公爵家は救世主だと社交シーズンの度に感謝されているほどだ。
そのクリステアが、今度は国境を超え遠くサモナールまで食の改善に寄与するとは思わないではないか。
イディカをラースのように食用として可能なように調理法を編み出し、さらに美味しく食べられるようメニューを開発、とどめに製粉しその調理法まで……いかん、今までのこともアレだが、ここ数日のことだけで我が娘はとんでもない偉業を成し遂げているのではないか⁉︎
「……た、あなた? 聞いてらして?」
「はっ⁉︎ ……あ、ああ、すまない。君の母としての愛に感動していたところだ」
「……もう。あなたったら」
呆れたような顔から一転、柔らかく微笑んだ我が妻は、私の隣に座り私の肩にもたれてきた。
「……今日振る舞われた新作は、全て君の分を確保してあるとも。もちろん、私の分もな」
「あら、あなたはもう散々召し上がったのでしょう? ずるいわ」
拗ねたように私を睨むアンは、いつもより可愛らしく見える。
「……ふ、仕方ない。私の分も君に分けてやろう」
「まあ、それはだめよ。クリステアの考案した料理はどれも美味しいもの。食べすぎて太っちゃうわ」
「ははは、君は少し太っても魅力的だと思うが……いや、すまん。失言だった」
いかん、美に関して貪欲な妻に迂闊な発言は不和に繋がる。気をつけねば。
「……とにかく今夜はクリステアの料理を存分に食べるといい。その後にしっかり運動すれば問題ない」
「いやだわ、あなたやノーマンみたいに剣の練習でもしろというの?」
確かに、淑女たるアンは魔術には長けているが剣術など体術は不慣れだからな。
かといって、私の苦手なダンスに付き合わされるのは得策ではない。
「ふむ、そうだな……食後のデザートにチョコレートはいかがかな? 私たちのために少し確保してあるんだが」
「まあ……ふふ。そうね、今夜のデザートはチョコレートと軽くお酒をいただこうかしら?」
私の誘いに、アンがほんのりと頬を染めて答える。
その愛らしさに私は思わず顎をついと引き上げ、自らの唇を寄せた。
ああ、今日はいい日だ。
---------------------------
そういえばママンの番外編を書いてからこれも書こう書こうと思って忘れてました(汗)
このまま書き忘れたりアップするタイミングを逃す前に……!ということで急遽番外編です!
クリステアの喪女の拗らせっぷりに反してその両親はラブラブという……
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