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元凶の正体
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いきなり現れた(かのように見えた)カルド殿下の存在に戸惑いを隠せない魔導具コースの生徒たちを当の本人は気にすることなく、諍いの原因となった魔導具を様々なアングルから舐め回すように観察していた。
「あの、この方はどなたでしょうか……?」
先程の最上級生が案内してきたレイモンド王太子殿下に問いかける。
まあ、そうよね。
いかにも異国の風貌をした人が興味津々で自分たちが開発中の魔導具を見つめているわけだし。
「こちらの客人は、サモナール国からお越しの大使だ。先程の失態を謝罪し、彼の質問に答えたまえ」
レイモンド王太子殿下の言葉にその場にいた生徒たちが慌てて席を立ち、礼をとった。
「よ、ようこそお越しくださいました。先程はお見苦しいところをお見せしてしまい……」
代表として質問してきた彼が挨拶と謝罪の言葉を続けようとすると、カルド殿下がそれを制した。
「ああ、気にしなくていい。職人や技術者は自分なりのこだわりや美学があるものと理解している。より良いものを生み出すための衝突は避けて通れるものではないし、大いに結構。やるならとことんやればいい」
え、喧嘩上等とか不穏では?
「ただし、ひたすら相手を否定するだけの衝突は良い結果を生み出さない。聡明な君たちならどうすれば解決するのか、改善点はいくらでも考えられるだろうし、その中から最善の案を選び取れるはずだ。そうだろう?」
「……は、はい!」
「未来の魔導具師たちに期待しているよ。さあ、続きを頑張ってくれたまえ」
カルド殿下がにこりと微笑むと、その場にいた生徒たちはやる気に満ちた顔でそれぞれの席に戻り作業を再開した。
うーわー、これまでどっちかというと素に近いだろう姿のカルド殿下しか見てないからか、王子様然としたふるまいに違和感しかないのだけど⁇
でも板についてる感じではあるし、人目を引くエキゾチックなイケメンだから他の人からしたら王族オーラみたいなのを感じちゃうかも。
ここにいる生徒たちはそんな人物に自分たちのことを肯定され応援までされたわけだからやる気にもなるってもんよね。
現にさっきまで死んだ魚のような目をしてる生徒も多かったのに、今は生き生きとやる気に満ちて作業してるよ……
人の気持ちを乗せるのが上手いっていうか、人の上に立つのに慣れてる感じ。
そういえばカルド殿下って、まだ若そうのに領主なんだった。慣れてるわけだよ。
「ところで、揉めていた原因のこれは何の魔導具だ?」
私がなるほどと納得していると、カルド殿下は再び元凶の魔導具を様々な角度から眺め倒していた。
「あ、それは学園内で営業しているカフェから依頼されているラースを加工する魔導具です。でもちょっと調整に手こずってまして……」
「え」
「は?」
「ラ、ラースを⁉︎」
ラースを加工って、それって精米機よね?
料理長はまだ市場には出回ってないって言ってたのに……て、学園内のカフェからの依頼品て……依頼主がバレバレなのだけど⁉︎
「え、え? は、はい。ラースを加工する道具です」
私たち見学組が色めき立ったので、その様子に困惑しながらも担当の生徒が説明を始めた。
「ここからラースを入れて、動力となる魔力を流すと、表皮である茶色の皮をこそぎ取り、風を送ってこのように中の実とこそいだ皮を分別するのですが……」
おおお!
担当者が手に取って見せたのは精米されたお米とぬかではないですか!
え、魔導具コースの生徒すごい!
独自でここまで作り上げているとかすごい!
「こそぎ方にムラがあるので繊細な動作が可能なように魔法陣の調整が必要なのと、調理場に設置するためにさらなる小型化が必要で……」
確かに、前世の田舎によくあるコイン精米機に比べたら小さいものの、大きめの冷蔵庫のような大きさで調理場に置くには存在感がありすぎた。
「ふむ、確かにそのようだな。エリスフィード公爵家にあったのはもっと小さく使い勝手が良さそうだった」
カルド殿下が生徒の説明を聞き、思い出したようにポロッと口にした。
「え?」
「エリスフィード公爵家⁉︎ ……そうか、ラース食を啓蒙した領地……ならば、すでに開発していてもおかしくはない」
今度は生徒たちがどよめき始め、私やお兄様の存在に気づいた。
「そこにいるのはエリスフィード公爵家の……! ノーマン様! 今の話は本当ですか⁉︎」
担当の生徒がお兄様に詰め寄る。
私の存在にも気づいているけれど、背後に控える黒銀と真白の威圧に近寄れない様子。
うちの白黒コンビがすまんかった。
「ええと……どうだったかな。僕は厨房に関わることは詳しくないから。気になるようなら実家に聞いてみてもいいけど」
「お願いしま……」
「クリステア嬢!」
「⁉︎」
お兄様がこの場での面倒事は避けようと後日情報提供する形を取ろうとしたところでいきなり矛先が私に向いた。
声の主の方を見るとツカツカと私に近寄ってきたのはロニー様だった。
その様子を見た黒銀と真白がすかさず私の前に出て、ロニー様に立ち塞がった。
「……ッ⁉︎ そ、そこをどいてくれませんか? 僕はクリステア嬢に話があるんだ!」
ロニー様、軽く威圧をかけられているせいか、足がガクガク震えているのに、キッと二人を睨んで言い切った。
ひえ……度胸あるぅ。
「気安く我が主に近寄ることは罷り成らぬ。下がるがいい」
「くりすてあになれなれしくちかよったらようしゃしないよ?」
ちょ、こらこら二人ともいたいけな少年を威嚇するのはやめなさぁい‼︎
---------------------------
いつもコメントやエール・いいねをポチッとありがとうございます( ´ ▽ ` )
執筆の励みになっております~!
やっと春の陽気になりましたね。
しかし、強風と黄砂で「目が! 目がああぁ~!」と内心軽くム◯カ状態でした……(´・ω・`)
「あの、この方はどなたでしょうか……?」
先程の最上級生が案内してきたレイモンド王太子殿下に問いかける。
まあ、そうよね。
いかにも異国の風貌をした人が興味津々で自分たちが開発中の魔導具を見つめているわけだし。
「こちらの客人は、サモナール国からお越しの大使だ。先程の失態を謝罪し、彼の質問に答えたまえ」
レイモンド王太子殿下の言葉にその場にいた生徒たちが慌てて席を立ち、礼をとった。
「よ、ようこそお越しくださいました。先程はお見苦しいところをお見せしてしまい……」
代表として質問してきた彼が挨拶と謝罪の言葉を続けようとすると、カルド殿下がそれを制した。
「ああ、気にしなくていい。職人や技術者は自分なりのこだわりや美学があるものと理解している。より良いものを生み出すための衝突は避けて通れるものではないし、大いに結構。やるならとことんやればいい」
え、喧嘩上等とか不穏では?
「ただし、ひたすら相手を否定するだけの衝突は良い結果を生み出さない。聡明な君たちならどうすれば解決するのか、改善点はいくらでも考えられるだろうし、その中から最善の案を選び取れるはずだ。そうだろう?」
「……は、はい!」
「未来の魔導具師たちに期待しているよ。さあ、続きを頑張ってくれたまえ」
カルド殿下がにこりと微笑むと、その場にいた生徒たちはやる気に満ちた顔でそれぞれの席に戻り作業を再開した。
うーわー、これまでどっちかというと素に近いだろう姿のカルド殿下しか見てないからか、王子様然としたふるまいに違和感しかないのだけど⁇
でも板についてる感じではあるし、人目を引くエキゾチックなイケメンだから他の人からしたら王族オーラみたいなのを感じちゃうかも。
ここにいる生徒たちはそんな人物に自分たちのことを肯定され応援までされたわけだからやる気にもなるってもんよね。
現にさっきまで死んだ魚のような目をしてる生徒も多かったのに、今は生き生きとやる気に満ちて作業してるよ……
人の気持ちを乗せるのが上手いっていうか、人の上に立つのに慣れてる感じ。
そういえばカルド殿下って、まだ若そうのに領主なんだった。慣れてるわけだよ。
「ところで、揉めていた原因のこれは何の魔導具だ?」
私がなるほどと納得していると、カルド殿下は再び元凶の魔導具を様々な角度から眺め倒していた。
「あ、それは学園内で営業しているカフェから依頼されているラースを加工する魔導具です。でもちょっと調整に手こずってまして……」
「え」
「は?」
「ラ、ラースを⁉︎」
ラースを加工って、それって精米機よね?
料理長はまだ市場には出回ってないって言ってたのに……て、学園内のカフェからの依頼品て……依頼主がバレバレなのだけど⁉︎
「え、え? は、はい。ラースを加工する道具です」
私たち見学組が色めき立ったので、その様子に困惑しながらも担当の生徒が説明を始めた。
「ここからラースを入れて、動力となる魔力を流すと、表皮である茶色の皮をこそぎ取り、風を送ってこのように中の実とこそいだ皮を分別するのですが……」
おおお!
担当者が手に取って見せたのは精米されたお米とぬかではないですか!
え、魔導具コースの生徒すごい!
独自でここまで作り上げているとかすごい!
「こそぎ方にムラがあるので繊細な動作が可能なように魔法陣の調整が必要なのと、調理場に設置するためにさらなる小型化が必要で……」
確かに、前世の田舎によくあるコイン精米機に比べたら小さいものの、大きめの冷蔵庫のような大きさで調理場に置くには存在感がありすぎた。
「ふむ、確かにそのようだな。エリスフィード公爵家にあったのはもっと小さく使い勝手が良さそうだった」
カルド殿下が生徒の説明を聞き、思い出したようにポロッと口にした。
「え?」
「エリスフィード公爵家⁉︎ ……そうか、ラース食を啓蒙した領地……ならば、すでに開発していてもおかしくはない」
今度は生徒たちがどよめき始め、私やお兄様の存在に気づいた。
「そこにいるのはエリスフィード公爵家の……! ノーマン様! 今の話は本当ですか⁉︎」
担当の生徒がお兄様に詰め寄る。
私の存在にも気づいているけれど、背後に控える黒銀と真白の威圧に近寄れない様子。
うちの白黒コンビがすまんかった。
「ええと……どうだったかな。僕は厨房に関わることは詳しくないから。気になるようなら実家に聞いてみてもいいけど」
「お願いしま……」
「クリステア嬢!」
「⁉︎」
お兄様がこの場での面倒事は避けようと後日情報提供する形を取ろうとしたところでいきなり矛先が私に向いた。
声の主の方を見るとツカツカと私に近寄ってきたのはロニー様だった。
その様子を見た黒銀と真白がすかさず私の前に出て、ロニー様に立ち塞がった。
「……ッ⁉︎ そ、そこをどいてくれませんか? 僕はクリステア嬢に話があるんだ!」
ロニー様、軽く威圧をかけられているせいか、足がガクガク震えているのに、キッと二人を睨んで言い切った。
ひえ……度胸あるぅ。
「気安く我が主に近寄ることは罷り成らぬ。下がるがいい」
「くりすてあになれなれしくちかよったらようしゃしないよ?」
ちょ、こらこら二人ともいたいけな少年を威嚇するのはやめなさぁい‼︎
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しかし、強風と黄砂で「目が! 目がああぁ~!」と内心軽くム◯カ状態でした……(´・ω・`)
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