転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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うっそだろ……⁉︎

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その後、ぎこちない空気のまま残り数コースの案内を終えた。

カルド殿下はこのままお忍びで初めて出会った時の屋台に向かい、商隊の様子を確認してから王宮に戻るとのことで、私たちは学園の門までお見送りすることになった。

お兄様やレイモンド王太子殿下はあらかじめカルド殿下にその旨を聞いており、私と一緒に見送りをしたらそのまま寮に戻るそう。

門に向かうと王宮の護衛騎士が待機していた。
途中で王宮の馬車から普通の馬車に乗り換え、平服を着た護衛騎士と交代するんだって。
いやぁ、護衛騎士の皆様、お疲れ様です……

馬車に乗り込む直前に、カルド殿下は改めて私に向き直って謝意を告げた。

「それじゃ、この度は大変世話になった。礼として後日公爵家に香辛料を届けるから受け取ってくれ」

「え、よろしいのですか?」

「もちろんだ。求婚は今のところ諦めるが、取引は今後も継続してもらいたいからな」

「……求婚のことは今後も諦めてくださいませ。ええと、そういうことでしたら香辛料は遠慮なく頂戴いたしますわ。カルド殿下、お元気で」

「はは、つれないな。これからもサモナール国の特使として引き続きドリスタン王国を訪れる予定だ。その時は滞在先をエリスフィード公爵家に頼むとしよう。新しいイディカ料理を期待してるぞ」

「ええ⁉︎」

「じゃあな!」

「え、ちょ……」

「クリステア嬢、お世話になったっす! また美味いイディカ料理よろしくっす!」

「ちょ、待っ……!」

カルド殿下とティカさんは颯爽と馬車に乗り込み、去ってしまった。

「嘘でしょ……」

我が家がサモナール国特使の滞在先に認定されてしまった……だと⁉︎

イディカ料理はラース共々これからも研究及び新作レシピ開発するつもりではあるけれど、それを当てにされるのは困るんですが⁉︎

「テア、大丈夫だよ。父上に断っていただくようお願いするから」

うっそだろ……と途方に暮れていたら、お兄様が優しく微笑んでお断りしてくれると断言してくれた。

やっぱりお兄様、頼りになるぅ!

「クリステア嬢! 大丈夫だ。カルド殿下は王宮に滞在させるから安心してほしい」

「レイモンド王太子殿下……ありがとうございます」

レイモンド王太子殿下も気の毒に思ったのか、防波堤になってくれるみたい。
ありがたや~!

「クリステア嬢」

「はい?」

「その……だな。クリステア嬢は一夫多妻が嫌だと言っていたが」

「ええ、まあ。そういうのはどうも生理的に受け入れがたいと言いますか……私だけを思ってくださる方と添い遂げられたら素敵だな、と思います。貴族の娘が何を言うのだと思われるでしょうが」

まあ、私も人並みに憧れはあるのよ?
少女漫画みたいな恋愛とか。
前世からの喪女体質が邪魔してるけど。

今は自分も周囲も若すぎて、恋愛脳にならないだけで。
イケオジは好きだけど、枯れ専ってわけでもないから恋愛対象外だし。

……そう考えたら、今世も恋愛できるか不安になってきた。
え、私、大丈夫……?

「クリステア嬢は一途なのだな。そういうところはとても好ましいと思う。俺も、妃にするならそんな令嬢がいいと思っている」

「え……」

レイモンド王太子殿下が私を真剣な表情で見つめるからドキッとした。

「……殿下は王太子として世継ぎを残す義務がありますから、側妃は必要でしょう?」

そう言ってお兄様が私の隣に立った。
ん? 黒銀くろがね真白ましろは後ろから威圧してない?
ちょっと落ち着こう?

それにしてもそうか。
レイモンド王太子殿下は王妃の他に少なくとも第二、第三まで側妃が認められてるんだよね。ドリスタン王国の歴史とかで読んだ記憶があるわ。なんならそれ以上の側妃がいたこともあったとか……全くもってけしからん。

「……俺は、陛下と母上のように仲睦まじい関係が理想だと思ってる。だから側妃は別にいなくても構わないと思って……」

「……不敬を承知で申し上げますが、お二人が仲睦まじいことで殿下お一人しか御子が生まれなかったではありませんか。殿下の代では必ず側妃を、と臣下から望まれているのは殿下もご存知ですよね?」

「……っ、それは……」

レイモンド王太子殿下が辛そうに私たちから目を背けた。

……そうなんだよね。
陛下がリリー様以外に妻を迎えなかったために、レイモンド王太子殿下お一人しか生まれておらず、自動的にお世継ぎは殿下だけだからと立太子したのだ。

そのことについて、臣下からは側妃を迎えて王位継承者を増やせと突き上げを喰らったのだけど、陛下はガンとして首を縦に振らなかったそうだ。

その点は陛下を評価したいと思うけれど、その分レイモンド王太子殿下にしわ寄せが来ていることを考えるとマイナス評価になってしまうわけで。

「……まあ、陛下がリリアーナ王妃殿下を大事にしてくださらなければ、母上も父上も黙ってはいませんでしょうが」

「うっ……!」

それはそう。

私のお母様は陛下の元婚約者だったのだけど、お母様と陛下は学園でリリー様と出会ってお母様はリリー様と親友になり、陛下はリリー様と恋に落ちたそうだ。

お母様は幼い頃からお父様に密かに恋をしていたのだけれど、当時王太子だった陛下と年齢と家格が釣り合うとして婚約者に定められていたためその恋は諦めていたのですって。

そして、お父様もどうやら同じように諦めていたらしいの。うふふ、純愛よねぇ。

そんなわけで、正直なところ陛下との婚約が破棄になったのは二人にとって渡りに船ではあったのよ。

だけど、一応は合意の上とはいえ婚約破棄しお母様の親友のリリー様と結ばれたのだから、ホイホイ側妃など迎えられたらお母様の面子は丸潰れだったはず。

ましてやお母様を側妃に、なんてふざけたことを抜かしたアホな臣下がいたらしいから、お父様が即プロポーズして婚約したそうな。

お父様、やるぅ!

……おっと、話が逸れた。
そんなことを思い出している間に、レイモンド王太子殿下がしおしおと打ちひしがれていた。

まあ、両親がラブラブなのにそのしわ寄せで二人も娶れとゴリ押しされるのは、両親の夫婦仲が良いのを見て育ち理想だと思ってたのなら酷ではあるわよね……

「僕は、クリステアただ一人をずっと想ってきました。誰にも譲るつもりはありませんし、例え殿下を相手にしても引く気はありませんよ」

……ちょ、お兄様⁉︎
レイモンド王太子殿下に戦線布告的な発言だけど、どう聞いても私に熱烈な告白をしてるようにしか聞こえないのですけど⁉︎

……だめだ、顔が熱くなってきた。
「……テア⁉︎」

情けないことに、私はその場でのぼせて気絶してしまったのだった。
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