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スパイスの次は
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サモナール国おもてなし騒動から数ヶ月経った。
制服も夏服に変わり……と言っても、ジャケットは羽織らずベストにローブを羽織るだけなのだけど暑いものは暑い。
私のローブには裏地に体温調節の魔法陣が組み込まれているので、ブローチ部分に魔力を注げばひんやりした状態を保つことができる。
マリエルちゃんも「私も真似していい⁉︎」とちくちく頑張って裏地に刺繍していたから今は快適な模様。
そんな感じで比較的穏やか? に時は流れていたのだけど……
あれから、香辛料やカカオは順調に取引が行われてドリスタン王国の食は格段に向上したと言ってもいい。
何故かというと、エリスフィード公爵領でオリジナルスパイスの販売を始めたから。
サモナール国と取引したレシピは向こうを立ててサモナール国専売にしたけれど、これを肉に振りかけて揉み込んで焼くだけでプロの味!的なハーブ塩とかスパイス塩とかはサモナール国にレシピ売ってないもんねー!
ふはは!
初めはメイヤー商会で販売を……と思っていたのだけど、マリエルちゃんに「これ以上は父が過労で倒れます」と青い顔で辞退されてしまったので渋々諦め、エリスフィード公爵領印のベーコンに続く商品として売り出したのだ。
いやー……これがまあ、売れに売れましたよ。
まずは冒険者向けに小瓶に詰めたものをテスト販売したのだけど、びっくりするくらい爆売れした。
何なら、冒険者ギルド近くにある酒場や宿屋でも積極的に使う店が増え、それが宣伝効果となりさらに売れた。
しかも、唐辛子やチリペッパーなどが多めのスパイスを購入した冒険者が運悪く遭遇した自分より格上の魔物と戦闘時、苦し紛れにそれを投げつけ、あまりの刺激に苦しみ出したところに止めを刺したことで「魔物退治にも使える」としてそのスパイスが一時期欠品続きになったほどだ。
……そういう意図で調合したんじゃないんだけどなー?
そして冒険者たちが依頼を受けて護衛した商人がそれを見逃すわけもなく。
大量買いして他領に持ち込まれ、王都でももちろん大流行りした。
サモナール国はその恩恵を受け笑いが止まらないとか何とか。
「それにしても……」
「ええ……」
「飽きたわね……」
「ですね……」
マリエルちゃんと私はゲンナリして言った。
とにかくどこへいってもスパイスを効かせた料理ばかりなのだ。
昔のこってりギトギト料理ばかりだった頃を思えばハーブやスパイスには薬効がある分魔力が比較的早く回復しやすいこともあり、幾分食べやすいだけまだまし……だけど、いかんせん同じような味が続くと飽きるってもんよ。
私たちは自分たちで食事をコントロールできるからまだいいけど、休日こっそり食べ歩きしただけでそう感じたのだ。
まあ、私たちはこのブームの前からスパイス三昧だったから余計そうなのかもしれないけれど。
「他の人はあれで飽きたりしないのかしら?」
「うーん、辺境の領地では今頃流行り始めたところでしょうから……まだまだ続きそうな勢いですね」
「ええ……?」
「最近では一般寮の食堂でも導入されたみたいですよ? 量少なめでも満足感があるから大助かりなんだそうで」
情報通なマリエルちゃんによると、食事量を減らしても以前と変わらない程度に魔力回復できるから特に女子生徒に歓迎されているそう。意外なことに。
男子生徒はたくさん食べるのは変わらないけれど、より多くの魔力を得やすくなったと特に騎士科の生徒たちに好評なのだそうだ。
「それにしても、もうちょっと工夫しないと濃い味付けや香りが苦手な人にはきついでしょうに」
「ですよねぇ」
売り出した側の私が言うのも何だけども。
我が領地のベーコン工房勤務のアッシュに調合したハーブやスパイスは使えないかと試作を頼んだのだけど、不用意にスパイス瓶の中身を嗅いだ途端むせまくってたのよね。
「す、すみません。ゲホッ! お、俺にはし、刺激がちょっと……強いみたいですが、何とか、やってみま……ゲホッ」
……涙目でスパイスを受け取ってくれたけどすまんかった。
「例のカフェの牛丼メニューは相変わらず人気ですが、最近はスパイスを持ち込んで辛めにアレンジして食べる生徒がいるみたいですし」
何⁉︎
それは意外と美味しそ……じゃない。
ついにあそこにまでスパイスの魔の手が……?
いやその仕掛け人ですけどね、私。
「……カフェに新作を売り込みにいきましょうか」
「え? またひと騒動起こす気ですか⁉︎」
私の提案にマリエルちゃんが「うえ⁉︎ まじで⁉︎」みたいな反応をした。失敬な。
「なんで騒動が起きるの前提なのよ。こってりメニュー、スパイシーメニューときたら、さっぱりメニューが選択肢にあってもいいでしょう?」
「いやまあ、そうなんですけどぉ……」
マリエルちゃんが「クリステアさんの場合、騒動も一緒に付いてくるっていうかぁ……」ってぶつぶつ言っている。とんだ誤解だ。
そんな言い方だと、私が騒動を引き連れてきてるみたいじゃないの。
私は! 巻き込まれてるだけ! なの!
「まあそれはさて置き、最近すっかり暑くなってきたでしょう? 暑さを吹き飛ばすのにスパイシーな料理もいいけれど、食欲がなかったり、あっさりしたものが食べたい人だっているでしょう? マリエルさんは食べたくない?」
「う、食べたい……かも」
「ふふふ、そうよね? よぉし、早速食堂に移動してメニューを考えましょうか!」
「あああ……クリステアさん、お手柔らかに。でも期待してます……!」
私はマリエルちゃんと一緒に意気揚々と食堂へ向かったのだった。
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制服も夏服に変わり……と言っても、ジャケットは羽織らずベストにローブを羽織るだけなのだけど暑いものは暑い。
私のローブには裏地に体温調節の魔法陣が組み込まれているので、ブローチ部分に魔力を注げばひんやりした状態を保つことができる。
マリエルちゃんも「私も真似していい⁉︎」とちくちく頑張って裏地に刺繍していたから今は快適な模様。
そんな感じで比較的穏やか? に時は流れていたのだけど……
あれから、香辛料やカカオは順調に取引が行われてドリスタン王国の食は格段に向上したと言ってもいい。
何故かというと、エリスフィード公爵領でオリジナルスパイスの販売を始めたから。
サモナール国と取引したレシピは向こうを立ててサモナール国専売にしたけれど、これを肉に振りかけて揉み込んで焼くだけでプロの味!的なハーブ塩とかスパイス塩とかはサモナール国にレシピ売ってないもんねー!
ふはは!
初めはメイヤー商会で販売を……と思っていたのだけど、マリエルちゃんに「これ以上は父が過労で倒れます」と青い顔で辞退されてしまったので渋々諦め、エリスフィード公爵領印のベーコンに続く商品として売り出したのだ。
いやー……これがまあ、売れに売れましたよ。
まずは冒険者向けに小瓶に詰めたものをテスト販売したのだけど、びっくりするくらい爆売れした。
何なら、冒険者ギルド近くにある酒場や宿屋でも積極的に使う店が増え、それが宣伝効果となりさらに売れた。
しかも、唐辛子やチリペッパーなどが多めのスパイスを購入した冒険者が運悪く遭遇した自分より格上の魔物と戦闘時、苦し紛れにそれを投げつけ、あまりの刺激に苦しみ出したところに止めを刺したことで「魔物退治にも使える」としてそのスパイスが一時期欠品続きになったほどだ。
……そういう意図で調合したんじゃないんだけどなー?
そして冒険者たちが依頼を受けて護衛した商人がそれを見逃すわけもなく。
大量買いして他領に持ち込まれ、王都でももちろん大流行りした。
サモナール国はその恩恵を受け笑いが止まらないとか何とか。
「それにしても……」
「ええ……」
「飽きたわね……」
「ですね……」
マリエルちゃんと私はゲンナリして言った。
とにかくどこへいってもスパイスを効かせた料理ばかりなのだ。
昔のこってりギトギト料理ばかりだった頃を思えばハーブやスパイスには薬効がある分魔力が比較的早く回復しやすいこともあり、幾分食べやすいだけまだまし……だけど、いかんせん同じような味が続くと飽きるってもんよ。
私たちは自分たちで食事をコントロールできるからまだいいけど、休日こっそり食べ歩きしただけでそう感じたのだ。
まあ、私たちはこのブームの前からスパイス三昧だったから余計そうなのかもしれないけれど。
「他の人はあれで飽きたりしないのかしら?」
「うーん、辺境の領地では今頃流行り始めたところでしょうから……まだまだ続きそうな勢いですね」
「ええ……?」
「最近では一般寮の食堂でも導入されたみたいですよ? 量少なめでも満足感があるから大助かりなんだそうで」
情報通なマリエルちゃんによると、食事量を減らしても以前と変わらない程度に魔力回復できるから特に女子生徒に歓迎されているそう。意外なことに。
男子生徒はたくさん食べるのは変わらないけれど、より多くの魔力を得やすくなったと特に騎士科の生徒たちに好評なのだそうだ。
「それにしても、もうちょっと工夫しないと濃い味付けや香りが苦手な人にはきついでしょうに」
「ですよねぇ」
売り出した側の私が言うのも何だけども。
我が領地のベーコン工房勤務のアッシュに調合したハーブやスパイスは使えないかと試作を頼んだのだけど、不用意にスパイス瓶の中身を嗅いだ途端むせまくってたのよね。
「す、すみません。ゲホッ! お、俺にはし、刺激がちょっと……強いみたいですが、何とか、やってみま……ゲホッ」
……涙目でスパイスを受け取ってくれたけどすまんかった。
「例のカフェの牛丼メニューは相変わらず人気ですが、最近はスパイスを持ち込んで辛めにアレンジして食べる生徒がいるみたいですし」
何⁉︎
それは意外と美味しそ……じゃない。
ついにあそこにまでスパイスの魔の手が……?
いやその仕掛け人ですけどね、私。
「……カフェに新作を売り込みにいきましょうか」
「え? またひと騒動起こす気ですか⁉︎」
私の提案にマリエルちゃんが「うえ⁉︎ まじで⁉︎」みたいな反応をした。失敬な。
「なんで騒動が起きるの前提なのよ。こってりメニュー、スパイシーメニューときたら、さっぱりメニューが選択肢にあってもいいでしょう?」
「いやまあ、そうなんですけどぉ……」
マリエルちゃんが「クリステアさんの場合、騒動も一緒に付いてくるっていうかぁ……」ってぶつぶつ言っている。とんだ誤解だ。
そんな言い方だと、私が騒動を引き連れてきてるみたいじゃないの。
私は! 巻き込まれてるだけ! なの!
「まあそれはさて置き、最近すっかり暑くなってきたでしょう? 暑さを吹き飛ばすのにスパイシーな料理もいいけれど、食欲がなかったり、あっさりしたものが食べたい人だっているでしょう? マリエルさんは食べたくない?」
「う、食べたい……かも」
「ふふふ、そうよね? よぉし、早速食堂に移動してメニューを考えましょうか!」
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