転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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何事なの⁉︎

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王都の転移部屋から領地の転移部屋に移動した私たちは、あらかじめ用意するよう頼んでいた馬車に乗り込んだ。

……人数が増えたからもう一台急いで用意してもらったんだけどね、さすがエリスフィード公爵家の使用人、さほど待つことはなかった。

お父様に「こちらの馬車に乗って今回の魔導具について説明しなさい」と言われたけれど「私、お友だちとおしゃべりしながら行きたいです」と言って回避した。

後でガルバノおじさまに同じ説明をするのだから、道中まで質問ぜめされるのは勘弁してもらいたい。

「あの、昨日おっしゃっていた魔導具のことなんですけど、私なんかが手伝えることってあるのでしょうか……?」

マリエルちゃんが恐る恐る聞いてきた。

「あるわ。むしろマリエルさんだけが頼りなのよ……!」
「え、私だけってそんな、めちゃくちゃプレッシャーなんですけど⁉︎ 料理に関しては私はノータッチであることが成功の秘訣ですからね⁉︎」

私はそんなふうに焦るマリエルちゃんにインベントリからある用紙を手渡した。

「へ?」
「これを見て欲しいの」

「え、何ですこれ? ごはんを自動で盛る機械ですか? え、違う。氷?……あっ! これって……」

「いい加減完成させようと思って」

マリエルちゃんに見せたのは、下向きに開いたこの字の棚のようなものの下に少し深さがある皿があり、棚の上には四角い箱のようなものが置かれている。

その四角い箱の横に線をひっぱり「氷」、その箱の横に手回しのハンドルが書かれていて、「ここをグルグルと回せば、この下から削られた氷が出てくる」と書いてある。

そう、かき氷器である。
過去何回かおじさまにチャレンジしていただいたのだけれど、私の拙い図解では説明が覚束なくて失敗続きなのよね……
終いには「氷魔法じゃいかんのか?」と言われる始末。

そりゃね、できますよ?
前世のかき氷を意識してイメージすればゴリ押しで作ることは可能ですよ?

でもね、私みたいに魔力お化けでもない限りめちゃくちゃ繊細な魔法と、完成形を明確にイメージしないといけないでしょう?
色々頑張らなきゃいけないのに労力のわりにできたのはかき氷って……ねぇ?

とりあえず今はガルバノおじさま印のめちゃくちゃよく切れるスライサーを使えばふわふわのかき氷が作れる。

でもあれ、すごく手が疲れるのよねぇ。
鰹節削るのとおなじ要領で削るのだけど、理想的な量の山をを削り終えた頃には、下の方は早くも溶け始めてるしさぁ……

そんなわけで、今度こそ誰でも手軽に作れるかき氷器を作り出してやるのだ。

そして毎回失敗しては「ワシが至らんばかりにすまなんだな。嬢ちゃんが今年こそはと楽しみにしておったのに……」とおじさまをショボンとさせるのに終止符を打つのだ。

あとまあ、シャリシャリのとか、ふわふわのとか、いろんなかき氷が食べてみたい。

「……というわけで、この図でこれがどういう用途の魔導具なのかかを理解してくれるマリエルさんだからこそお願いしたいのよ」

「いやいや。私への期待値が高すぎますってば」
マリエルちゃんが焦っているけれど、私の図解を見て「これがあれば作るのは簡単ですよ」とは決して言わなかったよね?

それどころか「この人どうして絵に関してはこんなにできない子なんだろう……?」みたいな残念な表情してたの気づいてたからね?
絵が下手なのは昔、何なら前世からですよ! ぐぬう。

ちなみに、セイにヤハトゥールではかき氷はあるのかと聞いたところ、夏の氷は貴重なので水分補給と涼を取るのはもっぱらすいかやまくわうりなどを井戸水で冷やしていただくのだそう。

これには私とマリエルちゃんが「いいなぁー!」と羨ましがったので、来年用に種を取り寄せることになったのだった。

その流れでヤハトゥールの暑気払いについて話がはずむうちに馬車が職人街の端で馬車を止めた。

「ずいぶんと楽しい時間を過ごしていたみたいだね」
「ええまあ……ヤハトゥールでは夏をどのように過ごしていたのか教わっていましたの」

お父様の馬車に乗っていたお兄様が先回りして馬車を降りる私をエスコートしてくださった。マリエルちゃんはセイにエスコートされおたついていた。
マリエルちゃん、淑女科のおさらい決定よ!

「へえ、例えばどんなものがあったのかい?」
「そうですわね……窓や扉を夏と冬で変えたりとか、通りに水を撒いて気温を下げるとか」

ドリスタン王国でもカーテンや寝具などのファブリックを季節ごとに変えたりはするけれど、障子など建具を季節に合わせて変えたりはしないわね。

そういえば雪を見るために障子の下の方がガラスになっている雪見障子とかあったなあ。
京都の町家暮らしを紹介する番組で、年二回の建具替えをするのを素敵だなぁと眺めていたのだけれど、それぞれの季節を快適に過ごすための工夫だったのよね。

通りに水を撒く打ち水は、現代日本では蒸し暑くなって逆効果になる場合もあるから要注意だけれど、これも昔からの先人の知恵ってやつよね。

「文化が違うと方法も違って興味深いね。さあ、着いたよ」

おしゃべりしながら歩いたからか、あっという間にガルバノおじさまのお店兼住居に着いた。

「む、閉まっているな。またか……」
お父様が渋面をつくり、固く閉められた扉を睨む。

おじさまは夜に深酒して昼前に起きるパターンが多いからねぇ。
とは言え、おじさまにはお手紙で事前に知らせておいたから、昨夜はそんなに飲んでいないだろうと思ったのだけど。

「おお、もう来ておったか。すまんすまん」
「おじさま!」
背後からドスドスと歩いてきたガルバノおじさまの声に反応して振り返ると、両肩に人を抱えていた。

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