転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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連載

かき氷器を作ろう! その一

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「おお、もう来とったか。待たせてすまんな」
私たちの存在に気づいたおじさまは呵呵と笑いながら店の前に到着するなり両肩の人たちをどさりと降ろした。

「いったぁい! んもう、もっと優しく運びなさいよね!」
「うぐ……」

「ティリエさん⁉︎ それに、オーウェンさんも⁉︎」
ガルバノおじさまに担がれてきたのは、オネエルフの冒険者ギルドマスターのティリエリエさんと、魔導具師のオーウェンさんだった。

「すまんなぁ。今朝方までこいつらと一緒に飲んどったんだが、情けないことに二人とも潰れちまったからしかたなく連れ帰ってきたところよ」

「ガルバノ、此奴らなど酒場に捨て置けばよいものを。なぜ連れてきた?」

お父様が苦々しい表情でティリエさんを睨みつけながら言い放つ。
お父様、辛辣ぅ!

「おん? お主も来とったんか。まあそう言ってやるな。オーウェンはどのみち呼ぶことになるんだし、ティリエにしても後から押しかけてくるじゃろうから結局一緒のことじゃろ」

「ちょっとぉ! ワタシの扱いが雑すぎない⁉︎」
「日頃の行いだろうが。そら、さっさとギルドに行くがいい。ギルマスが遊び呆けていては示しがつかんだろうが」

抗議の声をあげるティリエさんに向かってお父様はシッシッと手を振り追い返そうとする。何という塩対応。

「んもう! 冷たいんだから! でもアナタが来てるならちょうどいいわ。話があるから一緒にギルドまで来てちょうだい」
「断る」

「領主のアナタに用事なんだから来てもらうわよ!」
「だが断る。今日は休暇で来ているのでな」

「そんなこと言うならワタシだって今日はお休みにしちゃうわよーだ!」
「お前なぁ……」

プンスコしているティリエさんに頭が痛いとばかりに額に手を当てるお父様を見て、マリエルちゃんが頬を紅潮させていた。
「オネエルフ攻めの堅物領主受けサイコー!」とでも考えているのだろう。

「……マリエルさん?」
「ヒエッ! は、はははいぃ! すみません!」
無詠唱の氷魔法で背中に氷を一粒落としてみましたが何か。
朝から気温も妄想も暑いみたいだから、クールダウンにちょうどいいと思います。

まったくもう、生もので妄想は自重しなさいと言ってるのに……
しかも、今回はお父様が絡むとなるとさすがに身内としては看過できないからね?

お父様はお母様とラブラブですのであしからず。

「クリステア」
「はい⁉︎」
「私はこのダメギルマスを冒険者ギルドに連行するついでに話を聞いてくる。ノーマンがいるから大丈夫とは思うが、くれぐれも暴走はしないように」
「……はい」

暴走なんて失礼ね、今回はかき氷器の製造をお願いしに来ただけなんだから、暴走する要素なんてこれっぽっちもないのに。

「ノーマン、其方一人には荷が重いかもしれぬが、できる限り早めに戻るから後を頼む」
「わかりました」

いやいやいや。荷が重いってどういうことですかね⁉︎
お兄様も神妙な面持ちで頷いてるのはどうして⁉︎

そこは「そんなに心配することなんてありませんよ。クリステアを信用しましょう」とか言うところでは⁉︎

腑に落ちないながらも、冒険者ギルドに向かうお父様と腕を組もうとして跳ね除けられるティリエさんを見送り、私たちはガルバノおじさまの工房に入った。

「それで、今回ワシは何を作ればええんかのう?」
ガルバノおじさまはまだへばっているオーウェンさんを工房内のソファに放り投げ、どっかとおじさま専用の椅子に座り込んで言った。

……オーウェンさん、大丈夫かな?

「ええと、今回は以前お願いしたものの実現しなかったかき氷器ですわ」
かき氷器と聞いて、初めははて? とすぐには思い出せなかったようだけど、記憶を手繰り寄せ何とか思い出したようで、パン! と膝を叩いた。

「おお、あれか! あれはワシの理解が及ばずすまんかった」
「あはは、あれは私の説明が悪かったからで……」
主に私の図解がアレなせいでしたね、はい。

「でも今回はマリエルさんの協力を得て、何とか説明が可能になると思いますわ。ね、マリエルさん?」

「は、はい! あの、これなんですが……」
マリエルちゃんは持参したスケッチブックを取り出し、かき氷器のイメージスケッチを見せた。

マリエルちゃんもかき氷器の詳しい仕組みはわからなかったけれど、前世の記憶を頼りに何種類もかき氷器のイラストを描いてくれた。

「ここに氷の塊を入れて、このハンドルを回すと氷が削れて下の受け皿に削れた氷が落ちてきます。多分、ハンドルを回して上から押し付けながら氷を回して、下に据え付けられた刃に当たって削れて落ちるという流れなのだと思うのですが……」

「ほうほう、なるほどな。このハンドルを回すことで氷に回転と圧がかかり、刃はカンナと同じように据えたらいけるか? それなら……」

ブツブツと仕組みからかき氷器の中のパーツを割り出している様子のおじさまの隣に、ようやく復活した様子のオーウェンさんがスケッチを覗き込む。

「こりゃあ随分と単純な作りの道具だな。魔法陣を組み込めば魔力を流すだけで細かく砕いた氷が出てくる魔導具は作れると思うぞ?」

そりゃ、変態的な魔導具オタクのオーウェンさんなら簡単に作っちゃいそうだけどね。
それって、氷属性の魔石とか、めちゃくちゃ複雑な魔法陣とか、要するにお高いんでしょう……?

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キリが悪いのですが、長くなりそうなのでここまで。

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