転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

文字の大きさ
404 / 423
連載

かき氷器を作ろう! その一

しおりを挟む
「おお、もう来とったか。待たせてすまんな」
私たちの存在に気づいたおじさまは呵呵と笑いながら店の前に到着するなり両肩の人たちをどさりと降ろした。

「いったぁい! んもう、もっと優しく運びなさいよね!」
「うぐ……」

「ティリエさん⁉︎ それに、オーウェンさんも⁉︎」
ガルバノおじさまに担がれてきたのは、オネエルフの冒険者ギルドマスターのティリエリエさんと、魔導具師のオーウェンさんだった。

「すまんなぁ。今朝方までこいつらと一緒に飲んどったんだが、情けないことに二人とも潰れちまったからしかたなく連れ帰ってきたところよ」

「ガルバノ、此奴らなど酒場に捨て置けばよいものを。なぜ連れてきた?」

お父様が苦々しい表情でティリエさんを睨みつけながら言い放つ。
お父様、辛辣ぅ!

「おん? お主も来とったんか。まあそう言ってやるな。オーウェンはどのみち呼ぶことになるんだし、ティリエにしても後から押しかけてくるじゃろうから結局一緒のことじゃろ」

「ちょっとぉ! ワタシの扱いが雑すぎない⁉︎」
「日頃の行いだろうが。そら、さっさとギルドに行くがいい。ギルマスが遊び呆けていては示しがつかんだろうが」

抗議の声をあげるティリエさんに向かってお父様はシッシッと手を振り追い返そうとする。何という塩対応。

「んもう! 冷たいんだから! でもアナタが来てるならちょうどいいわ。話があるから一緒にギルドまで来てちょうだい」
「断る」

「領主のアナタに用事なんだから来てもらうわよ!」
「だが断る。今日は休暇で来ているのでな」

「そんなこと言うならワタシだって今日はお休みにしちゃうわよーだ!」
「お前なぁ……」

プンスコしているティリエさんに頭が痛いとばかりに額に手を当てるお父様を見て、マリエルちゃんが頬を紅潮させていた。
「オネエルフ攻めの堅物領主受けサイコー!」とでも考えているのだろう。

「……マリエルさん?」
「ヒエッ! は、はははいぃ! すみません!」
無詠唱の氷魔法で背中に氷を一粒落としてみましたが何か。
朝から気温も妄想も暑いみたいだから、クールダウンにちょうどいいと思います。

まったくもう、生もので妄想は自重しなさいと言ってるのに……
しかも、今回はお父様が絡むとなるとさすがに身内としては看過できないからね?

お父様はお母様とラブラブですのであしからず。

「クリステア」
「はい⁉︎」
「私はこのダメギルマスを冒険者ギルドに連行するついでに話を聞いてくる。ノーマンがいるから大丈夫とは思うが、くれぐれも暴走はしないように」
「……はい」

暴走なんて失礼ね、今回はかき氷器の製造をお願いしに来ただけなんだから、暴走する要素なんてこれっぽっちもないのに。

「ノーマン、其方一人には荷が重いかもしれぬが、できる限り早めに戻るから後を頼む」
「わかりました」

いやいやいや。荷が重いってどういうことですかね⁉︎
お兄様も神妙な面持ちで頷いてるのはどうして⁉︎

そこは「そんなに心配することなんてありませんよ。クリステアを信用しましょう」とか言うところでは⁉︎

腑に落ちないながらも、冒険者ギルドに向かうお父様と腕を組もうとして跳ね除けられるティリエさんを見送り、私たちはガルバノおじさまの工房に入った。

「それで、今回ワシは何を作ればええんかのう?」
ガルバノおじさまはまだへばっているオーウェンさんを工房内のソファに放り投げ、どっかとおじさま専用の椅子に座り込んで言った。

……オーウェンさん、大丈夫かな?

「ええと、今回は以前お願いしたものの実現しなかったかき氷器ですわ」
かき氷器と聞いて、初めははて? とすぐには思い出せなかったようだけど、記憶を手繰り寄せ何とか思い出したようで、パン! と膝を叩いた。

「おお、あれか! あれはワシの理解が及ばずすまんかった」
「あはは、あれは私の説明が悪かったからで……」
主に私の図解がアレなせいでしたね、はい。

「でも今回はマリエルさんの協力を得て、何とか説明が可能になると思いますわ。ね、マリエルさん?」

「は、はい! あの、これなんですが……」
マリエルちゃんは持参したスケッチブックを取り出し、かき氷器のイメージスケッチを見せた。

マリエルちゃんもかき氷器の詳しい仕組みはわからなかったけれど、前世の記憶を頼りに何種類もかき氷器のイラストを描いてくれた。

「ここに氷の塊を入れて、このハンドルを回すと氷が削れて下の受け皿に削れた氷が落ちてきます。多分、ハンドルを回して上から押し付けながら氷を回して、下に据え付けられた刃に当たって削れて落ちるという流れなのだと思うのですが……」

「ほうほう、なるほどな。このハンドルを回すことで氷に回転と圧がかかり、刃はカンナと同じように据えたらいけるか? それなら……」

ブツブツと仕組みからかき氷器の中のパーツを割り出している様子のおじさまの隣に、ようやく復活した様子のオーウェンさんがスケッチを覗き込む。

「こりゃあ随分と単純な作りの道具だな。魔法陣を組み込めば魔力を流すだけで細かく砕いた氷が出てくる魔導具は作れると思うぞ?」

そりゃ、変態的な魔導具オタクのオーウェンさんなら簡単に作っちゃいそうだけどね。
それって、氷属性の魔石とか、めちゃくちゃ複雑な魔法陣とか、要するにお高いんでしょう……?

---------------------------
キリが悪いのですが、長くなりそうなのでここまで。

いつもコメントやエール・いいねをポチッとありがとうございます( ´ ▽ ` ) 
執筆の励みになっております~!
しおりを挟む
感想 3,547

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【完結・全3話】不細工だと捨てられましたが、貴方の代わりに呪いを受けていました。もう代わりは辞めます。呪いの処理はご自身で!

酒本 アズサ
恋愛
「お前のような不細工な婚約者がいるなんて恥ずかしいんだよ。今頃婚約破棄の書状がお前の家に届いているだろうさ」 年頃の男女が集められた王家主催のお茶会でそう言ったのは、幼い頃からの婚約者セザール様。 確かに私は見た目がよくない、血色は悪く、肌も髪もかさついている上、目も落ちくぼんでみっともない。 だけどこれはあの日呪われたセザール様を助けたい一心で、身代わりになる魔導具を使った結果なのに。 当時は私に申し訳なさそうにしながらも感謝していたのに、時と共に忘れてしまわれたのですね。 結局婚約破棄されてしまった私は、抱き続けていた恋心と共に身代わりの魔導具も捨てます。 当然呪いは本来の標的に向かいますからね? 日に日に本来の美しさを取り戻す私とは対照的に、セザール様は……。 恩を忘れた愚かな婚約者には同情しません!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。