転生令嬢は庶民の味に飢えている

柚木原みやこ(みやこ)

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連載

かき氷器を作ろう! そのニ

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「……うん? こりゃなんじゃ?」
ガルバノおじさまがスケッチの中のひとつを見て怪訝な表情を浮かべた。

「ん? なんだこれ、魔獣を模写したのか?」
おじさまの声に反応してオーウェンさんも同じものを見たらしく、同様に疑問の声を上げた。

「えっ魔獣? ……そんなもの、どこにもありませんけど?」
おじさまたちが見ていたページをくまなく探してみたけれど、どれもかき氷器のスケッチばかりで、魔獣なんてどこにも描かれてはいなかった。

「え、私そんなもの描いた覚えは……あっ」
マリエルちゃんが何かに気づいたようで、しまった!って顔をした。

「え、どこに?」
「いやここにいるだろ」
何のことかさっぱりわからない私に、オーウェンさんがある箇所を指差した。

「……これもかき氷器ですけど?」
そこには、前世のかき氷器の一つが描かれていていた。

くまさんの顔を模した本体で、ハンドルを回すと目がキョロキョロと左右に揺れる仕様の可愛いかき氷器だ。

マリエルちゃんと「真白ましろの顔でこれ作ったら可愛いのでは?」なんて盛り上がったやつだわね。
……あ、そういうことか。

「ええと、これはハンドルを回した時に目が動いたら可愛いんじゃないかって、マリエルさんと話していた時のスケッチですわ。真白ましろがモデルなので魔獣じゃありませんわよ」

「おれ、かきごおりきになるの?」
真白ましろが興味津々にスケッチブックを覗き込んだけれど、頭部だけのデフォルメだったからか、機嫌を損ねてしまった。
あちゃー。

「我の分はないのか?」
黒銀くろがねも生首モチーフはともかく自分が取り上げられなかったのが面白くない様子。

うーむ、帰ったらモフモフ強化タイムを開催せねば。

「……この機能は必要なのか?」
「いえ、これは遊びのようなものですわ。ハンドルを回す動力を利用するだけですし、これなら作る人もそれをみている人も楽しめるかなと思いまして」

実際、前世ではおばあちゃん家にあったのだけど、毎年夏休みになったら出してもらって作るのが楽しみだったのよね。

そして、何味のシロップで食べるか毎回悩んだものよ。
……大人になって、あのシロップが実は色が違うだけで全部同じ味だったと知って愕然としたのはここだけの話である(遠い目)。

「ク、クリステアさん……?」
「……ハッ! と、とりあえずこの機能は考えないものとして、シンプルな機能のみで作ってくださいませんこと?」
「そ、そうですね! でしたら、この形がよいかと!」

前世の記憶を頼りにあまりにも具体的に描きすぎておじさまとオーウェンさんに不信感を抱かせてしまったかもしれない。
私とマリエルちゃんは慌ててごまかすように話を詰めていった。

「……ふむ。この程度ならわしだけで作れるじゃろ。残念だったの、オーウェン」
おじさまがにやりと笑いながらオーウェンさんに言った。

オーウェンさん、どうやら昨夜の飲み会で私が来ることを知ったらしく「きっと今回も天才魔導具師である俺の力が必要になるに違いないから俺も行く!」と言って聞かなかったらしい。

だから、おじさまは酔い潰れたオーウェンさんを抱えてきたのか……

「いやいやいや。俺ならもっと簡単に、精度を上げられるぜ。ハンドルなんてモンを回さなくても魔力を通すだけで水魔法と氷魔法を組み合わせて氷の用意なしでも作れるし、仕上がりも雪のような食感から凍りかけのシャリっとしたの、それに……そうだな、口に入れると空気のようにふわりと溶けるのとか」

えっ、それって最高では⁉︎
進化系かき氷とか楽しみ放題なのでは⁉︎

「お前さん、気軽にあれこれと並べ立てておるが、それだけの機能を持たせるとしたらかなり強力な水属性と氷属性の魔石が必要じゃろうが。魔法陣も相当複雑なもんになるじゃろ」

「う、それは……ま、魔石はクリステア嬢の契約聖獣がいいのを持ってそうだし、魔法陣は俺なら書ける! ……多分!」

多分なのかい!
でも氷の仕上がりに変化をつけるのは、それぞれ魔法陣も書き換えなきゃだし、切り替えるための機能とか、魔力を流した途端手まで凍りついたりしないように安全なものにしなきゃとか、色々大変だろうし……

「それに、嬢ちゃんから予算を聞いとらん。お前が張り切れば張り切るだけ予算は跳ね上がるからの」

……あっ、そうですよね。
すみません、オーウェンさんの出番は今回なしってことで。

私が今回は飲食店でも使えるように安価に納めたいのでとやんわりと断ったのだけど、オーウェンさんは引かなかった。

「いんや、俺は作る! 俺が作ったのが気に入れば、それはクリステア嬢専用にすればいいだけのこったろ⁉︎ な?」

な? じゃないんですよ。
そんな高機能で高価な魔導具を成人前の子どもに買わせるなんて……

「……お願いします」

「っしゃ! まかせとけ!」

……くっ、ふわふわかき氷に屈してしまった。
だって、色々楽しめそうなんだもん。

こんな時、レシピやなんやかんやで小金を稼いでてよかったとしみじみ思うのだった。

マリエルちゃんが「えっ? 正気ですか⁉︎」って顔で私を見たけど、お値段聞いてからの方がよかったですかね……早まった?

「んー、それじゃあこれ、あずけとく」
真白ましろがインベントリから大きな魔石を取り出してテーブルにゴトリと置いた。

「……ッ! こ、これはっ」
オーウェンさんがテーブルにしがみつくようにして魔石を凝視する。

「こおりぞくせいのませき。おれのまりょくできょうかしてあるからふつうのよりじょうぶ」

「おおおおお⁉︎ こ、これを使ってもいいのですか⁉︎」
オーウェンさん、目が血走ってますよ。

「くりすてあのためにつかうんならね。それいがいにつかったらゆるさないから」
「も、もちろんですッ!ありがとうございます!」
オーウェンさんが平伏した。いやもうそれそのまま五体投地しかねないほどの土下座だよね⁉︎

「……ならば、我はこれを提供しよう」
黒銀くろがねも懐から、いやインベントリからだね、大きな魔石を取り出して氷の魔石の隣に置いた。

「こ、こここれは水属性の魔石⁉︎ しかも、かなり高ランクの……‼︎」
「水竜の魔石だ。昔倒したのを拾ったまま忘れておったものだ」
水竜って……ドラゴン⁉︎
昔倒したってまじで言ってます⁉︎

「す、すいりゅ……っ⁉︎ うーん……」
「わっ!」
「きゃあ! オーウェンさん⁉︎」
オーウェンさん、興奮のあまり気絶しちゃった……

「おい、しっかりせんか。……まったく」
おじさまがゆさゆさとオーウェンさんを揺り起こそうとするも気絶したままだったので、しかたなさそうにオーウェンさんをひょいと抱え上げ、そのままソファに放り投げた。

黒銀くろがね殿。水竜の魔石なんぞ市場にそう出てくるもんじゃない。こいつならどうにか扱えるじゃろうが、出すものは程々のモンにしといてくれんかの」

「相わかった。それでは他のものと交換するか?」
「ダメだッ! それを使わせてくださいお願いしますっ!」

黒銀くろがねが片付けようと手を伸ばした瞬間、オーウェンさんがカッと目を覚ましてそのままスライディング土下座した。

「お……おう。わかった。ならば、主のために励めよ」
「ハハーッ!」
オーウェンさんが額を床に擦り付けて答えた。

……黒銀くろがねがドン引きする姿って激レアなんですが。

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