落ちこぼれ仮聖女ですが、王国随一の魔道士に溺愛されました

六花心碧

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本編

15.ノイラート家

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 “変”な自分についてあまり考えたくなくて、夜会までの間はずっと魔法研究に没頭していた。要請道具を作るのに加え、新しい魔法道具を作るのに朝から晩まで根を詰めて作業していたら数日があっという間に過ぎた。


 今日はいよいよ夜会の日だ。

 レニとエメラルド塔を出て、今はドレスやアクセサリーが並べられたノイラート家の客間にいる。想像以上に豪勢な雰囲気にそわそわしていると、レニが美しい貴婦人を連れてきて紹介してくれた。

「リシャ、こちらは侍女のマリアよ」

 清楚なドレスを着た優しそうな貴婦人が話しかけてくる。

「まあ! お話は伺っておりますわ」
 そう言いながらとびっきりの笑顔で私に目配せをする。

 レニはマリアさんに私の事情を話してくれているようだ。
 異世界から来たってことを知っているのなら気が楽だなあ、よかった。

「初めまして、リシャと申します」
「まあ、可愛らしいお嬢様ですこと。体格もレニ様と同じ位だからドレスや靴は問題なさそうですね、少し丈が余りそうなので高めのお靴にいたしましょう」

 明るくテキパキと準備を進めてくれるマリアさんは明るくて大らかで、包み込んでくれるような温かさを感じる。


「ありがとうございます」
「お年もレニ様と同じ位ですか? そうしたらこちらのドレスがいいかしら」

 たくさん並ぶドレスの中から3着ほど見繕って私に見せてくれる。

 うーん、どういうドレスが適しているのかは分からないけど、年齢は正確に伝えておかないとね……。


「あ、あの、私は30歳なんですが、その年齢でもおかしくないものを……」
「まあ、そうでしたか」

 マリアさんは驚いたように目をぱちくりさせている。
 この世界の人たちは顔が整い過ぎていていまいち年齢不詳だ。

 貴族ゆえに立ち居振る舞いも洗練されているものだから年上にも見えるし、美し過ぎる顔立ちから逆にすごく若くも見える。

 女性の結婚適齢期が19、20歳らしいこの世界の価値観では、アラサーでなんの取り柄もない私など宇宙人みたいなものだろうか……。

「リシャは背も低めだし童顔だからすごく若く見えるよね」

 隣でメイドさんたちに囲まれてドレスを着ているレニは顔だけ向けて言う。

 ここではよく言われる言葉だ。最初の頃は年齢を言うと驚かれてばかりだったが、最近はもう慣れっこ。


 日本では身長も顔も標準だったからいまいちピンとこないけど、ここの人たちは男性はとにかく大きく体格の良い人ばかりだし、女性も全体的に身長が高めだ。

 顔も整った落ち着いた雰囲気の人ばかりだから、そんな中に入った私はどうやら年齢よりも若く見られるらしい。

 確かに日本人は海外の人から若く見られることが多かったりするから、それと同じような感覚なのかもしれない。

 しかもここに転移する少し前に美容院で前髪を切ったら自分でも笑っちゃうほど幼くなってしまったのだ。アレルギーがあるから染めることができなくて、日本人らしい黒髪が物凄く学生感を醸し出していたのだ。

 色気なんて言葉からさらに程遠くなってしまって自分でもちょっと落ち込んだっけ。

 ハニカ様に魔法で髪色をライトゴールドにしてもらっているけれど、全くもって印象が変わらないのは色の問題じゃないってことかしら……。

「そうかな」
「うん、10歳は若く見える。いやそれ以上かも」

 にこやかに笑って言うレニはとても大人びた表情をしている。

 私たちって年齢差はあるものの、外見だけみればとってもいいバランスかも、と思うとなんだか可笑しかった。

 心強い友人であり時には可愛い妹のようにも思えて、レニと出会えて本当に良かったとつくづく思う。


「ええ、ええ、美しいからとてもお若く見えますよ。その美しさが引き立つようなコーディネートにいたしましょう」

 マリアさんは満面の笑みで私を褒めてくれる。


「ねえマリア、リシャにこの世界や貴族社会についていろいろと教えてあげてね」
「ええ、もちろんです」

 マリアさんは手際よく私の支度をしながら貴族社会について教えてくれた。


「いいですか、リシャ様。このサランド王国には三大侯爵家と呼ばれる御三家があるのです。レニ様がお生まれになったこのノイラート家、ティナ令嬢が生まれたヴェルナー家、そして魔法研究所の所長が養子となったウォード家なのです」

 突然ナジェの話題が出てびっくりした。


「養子……そっか、だからどこかやさぐれてる感じがするのかな」
「やさぐれ……??」

 あ、貴族令嬢のレニがそんな言葉知るわけないか。

「地位も名誉もあらゆるものを持っているのに、なんだか満たされてないっていうか、どうでも良さそうな感じっていうか」
「うーん、所長は元々貴族じゃないこともあって、そのせいで相当な苦労もしているはずだから、リシャはそれを感じるのかな」

 レニの話によると、現在の王太子がまだ小さかった頃、お忍びで出かけたラガの街で襲われそうになっているところを、当時そこに住んでいたナジェが魔法で助けたことから始まるらしい。

 ナジェ自身もその魔力がどれほど凄いものだということに気づいていなかったようで、だったら王宮で学んだらどうかという提案を受けたという。

 あれよあれよという間に才能が開花したものの、平民だったためにウォード侯爵家へ養子に入り現在の地位を確立したのだとか。


 そういうことだったのね……!!
 だからナジェはラガの街を気にかけていたんだ。

 最初に会った時も、魔石を仕入れたあの日も、いつもみんなを治癒するために出向いていたんだね。


  彼がこの王宮のエメラルド塔であそこまで昇り詰めるには、きっと想像も絶するような大変な道のりだったのに違いない。

 この世界に来て貴族と平民の違いについて私はおおよそ理解していた。

 スピンたちのことを思い出して胸がズキリと痛む。
 おそらく、ラガの街に向けられる目はそれ以上に厳しいものがあるだろう。

 ナジェはなんて優しくて、強い人なんだろう。
 ……ちょっとやさぐれてるけどね。

 普段の彼の様子を思い出し、私はふふっと笑ってしまう。


「ウォード家の主人は変わり者でねえ。面白い人なんですよ」
 昔からウォード侯爵家とは交流があるらしく、マリアさんは楽しそうに言う。

 そっか、ナジェの家族がいい人そうでよかった。なぜかホッとしている自分がいた。

「さあ、できましたよ」
 そう言ってマリアさんが姿見を私の近くに寄せてくれる。

 鏡に映る綺麗に着飾った自分が、まるで自分じゃないみたいでぽーっとしてしまった。

「リシャ、本当に綺麗よ」
 レニが優しい声で言ってくれる。

「レニ、ありがとう」

 私も精一杯の笑顔で答えた。
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