落ちこぼれ仮聖女ですが、王国随一の魔道士に溺愛されました

六花心碧

文字の大きさ
52 / 63
続編

9、かわいい求婚

しおりを挟む

 あれから本当に眠ってしまった私を、ナジェは部屋まで運んでくれたようだった。

 朝、目覚めて気づいた置き手紙で知る。

 うっかり寝てしまうなんて、恥ずかしい……。
 私そんなに疲れてたのかな…………。

 確かにここのところ色々ありすぎて、心休まる時間がなかったのかも。


 なぜだか今日は、研究室に行くのが億劫になっている。


 ……いけない、いけない!
 弱気になってる!

 こんなの私らしくないぞ!
 私は顔をペチペチと軽く叩き、気合を入れて準備して研究室へと向かった。



 研究室に入ると、ナジェとハニカ様とレニが魔法石の保管庫を確認しながら、なにやら相談している。

「じゃあ、今回は多めに仕入れないとですね!」
「ええ、パドラス国の使節団がいる間はその分も必要になるでしょうから」
「そうだな」
「では所長、今日は私がミレイ様をお連れしてギルドまで行ってきます」
「ああ、頼む」

 あ、魔法石が切れたのかな。
 ってことは、仕入れてくるまでは他の作業をしてた方がよさそうね。
 そう思いながら3人の近くに行く。


 そこへちょうどミレイもやってきた。

「ナイジェル様、昨日教えてもらった魔法、もうできるようになってきました~」
 ミレイは可愛い笑顔でナジェの傍に寄っていく。

「そうか、よくやった」
 ナジェは無表情のままさらっと答える。

 ハニカ様はミレイに向かって落ち着いた様子で言った。
「ミレイ様、今日は私とギルドに行っていただきます。聖女用の魔法道具を作るための魔法石を直接確認してもらう必要があるのです」

「は~い」

 ミレイののんびりした声が響いた直後、突然バタン!と扉が開き、魔道士の一人が慌てた様子で入ってくる。


「ふ、副所長! 急いで王宮までお願いします! 接待用の魔法道具が誤作動で動かないんです~!」

 彼は泣きそうな顔で訴えている。


 そういえばハニカ様と王宮担当チームのみんなが、最近大掛かりな魔法道具を作っていたことを思い出す。

 あれは使節団の接待用だったのか。確かにあれはハニカ様じゃないと直せないだろう。

 特別な魔法道具には不正を防ぐため、責任者であるナジェかハニカ様のどちらかのエネルギーを記憶させて勝手な改良ができないようになっている。



 ナジェとハニカ様とレニが、すかさず頭を抱えた。

「……ユリウス行ってこい。ギルドには俺が行く」

「あ~ん、もう、所長とミレイを引き離しておきたかったのに……」

「しょうがないですね……。所長、お願いします。レニ、あとは頼みましたよ」

 溜め息をついてから急いで王宮へ向かったハニカ様が去った後、嬉しそうなミレイの声が響いた。

「ナイジェル様とお出かけできるんですか~?」


「あ、じゃあ、リシャも行かなくちゃね!」
 レニはそう言ってグイッと私の体をナジェに押しつける。

「そうだな、では3人で向かうとするか」


 そうして3人で王都のギルドへ向かうことになった。

 いつもよりも大きい4人乗りの馬車での道中は、騒がしいミレイに呆れつつもなんだか賑やかで、私もナジェも笑いが絶えなかった。

 何をしても、ミレイは憎めない不思議な子だ。



 ギルドについてからは、いつも通り手続きをして魔法石を受け取った。

 さらに、今回は聖女用の魔法石も仕入れるということで、普段とは違った種類の魔法石が目の前にいくつも並べられた。

 わ~、すごい綺麗な石!
 見ているだけでちょっと楽しい。


「自分と相性のいい魔法石を選ぶんだ」
 ナジェはミレイを促す。

「う~ん、こっちのも見てみたいな~」
 ミレイは甘えるような声を出して、ナジェを上目遣いで見つめる。

 な、なんだ、このまるで指輪でも選びに来ているようなカップル感は……。


 私はなんだか疎外感を覚えて、その場所から少し離れて見ていた。

「見た目は関係ない。必要な数が多いから早く選んでくれ」
 ナジェは無表情のまま、バッサリと言う。

「は~い。じゃあまずはこれ」


 ふーむ、貴族のご令嬢だと大抵、ナジェのこんな冷たい対応にビクビクしたりショックを受けたりするのに、ミレイは全く動じない。

 この子ってやはり、只者ではないわ。
 思わず感心してしまう。



 そうして私が少し離れた場所で一人頷いていると、明るい声が響いてきた。

「おねえちゃん!」
 振り返ると、そこにはスピンがいた。私はスピンの目線に合わせるようしゃがみ込む。

「スピン! 今日はお使いの日?」
「うん!」
 スピンは得意げな様子で、お使いのバッグを見せてくる。


 ラガの街が活気を取り戻してから、すっかり健康体になったスピンのお父さんも病院での働き口が見つかった。

 スピンも父親を手伝い、病院で使う備品をギルドに定期的に受け取りにくるのだ。そのお使いがとっても楽しいらしい。

 ナジェと一緒にギルドに来る度に、そんなスピンとここでよく会うようになっていた。


「そっか、いつも偉いね」
 そう言ってスピンの頭を撫でると、彼は照れたように笑う。

「あれ? おにいちゃんは?」
 そう言ってスピンが不思議そうな顔をした時、少し離れた場所からミレイのはしゃぐ声が聞こえて振り返った。

 ミレイは嬉しそうにナジェの顔を見つめてはしゃいでいる。

 あの子はこの世界に来て初めてのお出かけだもんね。

 私がふむふむと頷いていると、スピンはミレイとナジェの姿を見て何かを感じ取ったのか、元気づけるように声をかけてくる。


「大丈夫だよ! おねえちゃんには僕がいるから!」
「ふふ、ありがとう」
「本当だよ! 大きくなったらケッコンしてあげる!」

 ?!?!

「だって、僕はもう働いてるもん」
 そう言ってまた、お使いのバッグを見せてくる。

 な、なんて可愛いことを……!


「たくさん働いて、おねえちゃんにぷろぽーずするからね」

 ちょっと会わない間にませたことを言うようになっちゃって。思わず笑みが溢れてしまう。

「そうなの? ありがとう」

「ほんとだよ!!」
 私のあやすような態度に、スピンはほっぺたを膨らませてぷんぷんしている。


「それじゃあ、空に一番近くて星がたくさん見える場所で、お星さまみたいな宝石の指輪と一緒にプロポーズしてね」

 この前、エメラルド塔の屋上で見た星空が心に残っていたせいか、思わず嬉々として語ってしまった。

 あの時は予兆の星が現れてそれどころじゃなくなっちゃったけど、あのシチュエーションはかなりロマンチックだと思う!


 って、私はスピン相手に何を本気で語っちゃってるんだろう。
 冷静になると、ちょっと恥ずかしくなって私は笑ってごまかした。

「なんてね! スピンが大人になったら役に立つかもよ」

 何を言ってるんだ、私。

「うん! おねえちゃんまっててね」
 スピンはニコニコと満足そうな笑顔でそう言う。

 もう、スピンはいつも可愛いなあ……!!

「うん、うん」
 私は頷きながらスピンをぎゅっとハグした。


「相変わらず仲が良いな、お前たちは」
 いつの間にかすぐ傍に来ていたナジェが呆れたような、でも優しい顔で言う。


 わ!また気配なく現れて!
 ま、まさか今の会話は聞かれてなかったよね?

 私は冷や汗をかきながらナジェの様子を探る。

 彼は「おねえちゃんとケッコンのやくそくしたの!」と得意げな様子で語るスピンを「へえ、そうなのか」と、軽くあしらっている。

 平然としていて、特に何も変わった様子はない。

 うん、この様子なら何も聞いてなさそう。
 私はホッと胸を撫で下ろした。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

処理中です...