落ちこぼれ仮聖女ですが、王国随一の魔道士に溺愛されました

六花心碧

文字の大きさ
57 / 63
続編

14、出発

しおりを挟む

 すっかり準備も整い、いよいよナジェとミレイがパドラス国の北部へと出発する日になった。
 
 見送りのため外に出ると、エメラルド塔の門前にはすでに数台の馬車が待機して荷物が運び込まれている様子が見える。

 研究所のみんなやレニやハニカ様、アーサー殿下も見送りのために門前に来ていた。


 先頭にはナジェが乗るであろう馬車が控えている。その後ろにミレイがすでに乗っている馬車が見えた。さらにその後方に待機する馬車には、同行の魔道士たちが大きな荷物を携えて乗り込んでいる。

 その様子は穏やかで、まるで旅行にでも出掛けるような気楽さだ。



 それもそのはずだった。

 というのも、魔物が出る場所に行くなんて凄く危険なんじゃないかと心配し続ける私が、昨日の仕事中に思わず
『大丈夫かな……』
 と、独り言を呟いてしまった時のこと。

 そんな私を、レニはなんてことないという風に宥めた。

『全く危険はないから心配しなくても大丈夫よ。亀裂はまだ初期段階だってことだから尚更。なにより所長は最強の魔道士だし、聖女の力があれば封印自体もすぐにできるから』

 そういえば、国王陛下からお願いされたときにちらっと聞いたように、ラガの街にできた穢れの亀裂とは違って、魔物が発生する亀裂ができるのはそんなに珍しいことではないようだった。

 これまでにも魔道士たちが何度も対応して解決してきたのだとか。
 今回は聖女の力で完璧な封印ができるため一層安心ということらしい。

 私はそれを聞いて安堵した。私の知ってる異世界物語とかだと、強い魔物がウヨウヨ出てきて危機になったりするというのはよくある話だったから。

 前から薄々思っていたけど、この国は想像以上にのんびりした世界だ。
 転移したのがこの世界でよかったとふと思った。

『でも、ミレイは女の子だし大丈夫かなあ。あの子ちょっとぼんやりしてるとこあるし……』

『リシャってヤキモチ妬く割にはミレイのこといつも心配してるよね』
 レニは不思議そうに言った。

 うーん、言われてみれば確かにそうだ。ナジェに対する距離感はやきもきしてしまうけど、なぜか放っておけないというか……。

 妹がいたらこんな感じなんだろうかと不思議な気持ちになる。



 そんな昨日の会話を思い出しながら、先頭の馬車に近づくとハニカ様とナジェが話しているのが見えた。

「お気をつけて」
「ああ……少しの間リシャを頼んでいいか」
「もちろんです。しっかりお守りします」
 
 ナジェはハニカ様を見つめて微かに口角を上げた。
 この二人にはあまり言葉はいらないみたい。他者には分からない信頼感がそこにはある。

 ハニカ様は私が来たことに気づき、そっと移動した。

 ナジェは私を優しく迎え入れて言う。

「ちょっと行ってくる」
「気をつけてね」
「いいか、俺が戻るまでユリウスとレニの傍を絶対に離れるな」
「うん、分かった」

 私は真剣にそう言ってコクコクと頷く。
 そんな私を見てナジェは安心したように笑って、私の頭をぽんと撫でた。

「あ、ナジェ、手出して」
「?」

 不思議そうな顔をしている彼の手首に、私は組紐と小さな魔法石を編んで作ったお守りを結んだ。
 この3日間、不器用ながらも必死にチャレンジしてみた中で一番出来の良かったもの。

「えっとね、レニに教えてもらって魔力入りのお守りを作ったんだけど、」

 そこまで言って、私はナジェの顔をちらっと窺い見ながら続けた。

「微量な魔力だけど、愛情はたっぷり入ってるから!」

 そう言ってみたものの、結ばれたお守りをまじまじと見ているナジェを前にするとだんだん恥ずかしくなってきた。

 強い魔力を持った凄腕聖女と共に行く王国随一の魔道士に渡すには、微力すぎてとてもお粗末なお守りだ。

 この前はあんなに『守ってあげたい!』なんて思ったものの、こんなこと位しかできない自分が本当に情けない……。

 そもそもレニの言う通り、みんな慣れているみたいだから心配するようなこともなく、そんなに感傷に浸るような場面でもないのだろう。

 離れている時に少しでも彼の力になれることをしたかったのだけれど。


 恥ずかしく思って下を向いていると、ナジェは私をグイッと胸の中に抱き寄せ、力強く抱きしめた。
 彼の温かさと愛情が伝わってくる。

 私も衝動的にぎゅーっと彼に抱きつく。

 しばらくこれもできないんだよね。
 彼の存在を刻み込むように、目を閉じて彼の鼓動を感じた。

 うう、このまま離れたくないよ……。


 ……

 …………

 ……………………


 ………………………………。



 ちょ、ちょっとさすがに長いかも。
 私は人目が気になって、だんだん顔が赤くなってきた。

 そーっと顔を動かして見てみると、近くにいる魔道士のみんなも恥ずかしそうに、目を泳がせている。


「ち、ちょっと。ねえ」
 私は恥ずかしくなって背中に回した手でナジェの服を引っ張り、小声で訴えかけると彼はハッとしたように私を離した。

「ああ、すまない」
 そう言って、私の頭にぽんぽんと触れてから馬車へと乗り込んだ。


 そうして、彼らを乗せた馬車はゆっくりと動き出し、無事出発した。
 ぼんやりとその様子を見送っている私を、レニとハニカ様は優しく見守ってくれる。

 ああ、本当に行っちゃった。
 1ヶ月なんてあっという間だろうけど、ここに来てからナジェとそんなに離れたことなかったな。

 遠くなっていく馬車を見つめながら、そんなことをぼーっと考えていた。



「目の前でそんなことをされると余計に奪いたくなるな……」

 後ろでアーサー殿下が何かを呟いたような気がしたけれど、風が強く吹いていてよく聞き取れなかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~

榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。 ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。 別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら? ー全50話ー

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

処理中です...