4度目の転生、メイドになった貧乏子爵令嬢は『今度こそ恋をする!』と決意したのに次期公爵様の溺愛に気づけない?!

水錵 咲

文字の大きさ
18 / 39

17、いざ夜会へ

しおりを挟む
 そのまま、ミハイル様に手を引かれて馬車に乗り込んだ。
 向かい合ったミハイル様から熱烈な視線を注がれてどうにも落ち着かない。

 ミハイル様は女性を飾り立てるご趣味があるのかしら……。

 ただでさえ素敵なミハイル様にドキドキしているのに、見られている緊張感がプラスして心臓が壊れそうだ。


「アリシアはこういうのが好きなのだろう?」
 ミハイル様の顔に揶揄うような笑みが浮かんでいる。

「えっ?」
「前に言っていた恋愛小説のヒーローはこうしたとか」

 ……あ!!
 前に話した恋愛小説の話、覚えててくれたんだ!!

 あの時は前世のことを誤魔化そうとして、こじつけで好きな恋愛小説の内容を捲し立てたんだった。

 でも、あのシチュエーションは本当に憧れだったのよね。
 まさか自分の身に起こるとは思わなかったけど、実際やってもらうとこんなに嬉しいものなのね。

 ましてや、これほど素敵なミハイル様にだなんて。
 そこまで考えていると、自然と顔が綻んでしまう。

「今日は多くの来客がある予定だから、アリシアを皆に紹介しようと思っているんだ。忙しくなるが少しだけ我慢してもらえるか?」

 え?なんでメイドの私なんかを?
 謎すぎて一瞬呆けてしまう。

 でもこちらを真っ直ぐに見つめながら真摯に伝えてくるミハイル様に、なぜか聞き直すことは憚られた。

「あ、は、はい……」
 私が答えるとミハイル様はさも嬉しそうに美しい笑顔を作った。

 こんな顔見せられたらなんでも許しちゃいそう。
 ちょっと可笑しくなって笑いが込み上げてくる。

 こんなに訳もわからない状態なのに、やっぱりミハイル様とこうして過ごしているのは、とても心地がよくて楽しい。

 万が一ときめきの瞬間を迎えてしまうことのないよう、できるだけ顔を合わせない方がいいと分かっていても思ってしまう。

 傍にいてずっとこの優しい笑顔を見ていたい。

 美しいドレスやアクセサリーのおかげなのか、背筋がピンと伸びて、いつも以上にミハイル様と自信を持って向き合える気がする。

 本当にマダムペイリーに魔法でも掛けられてしまったのかもしれない。
 私は今、2度目の公爵家女当主時代のような完璧な淑女になっているようだ。

 そんな不思議な気持ちのまま馬車に揺られてラバドゥーン公爵家へと到着した。
 いつもの居場所に戻ってきたというのに、まるで初めて訪れたような気持ちになる。

 そのまま私はミハイル様に恭しくエスコートされながら会場となっているお屋敷の中心にある大ホールへ入った。

 こういうの久しぶりすぎて緊張するなあ。

 会場はもう既に沢山の人で賑わっていた。
 ミハイル様のエスコートで入場した私は当然、注目の的だ。

 そりゃあ、そうだよね……!

 これまでずっと一人で参加していた、女嫌いな結婚適齢期の次期公爵が突然見ず知らずの令嬢をパートナーに選んだのだもの。

 この羨望、嫉妬、戸惑い。
 あらゆる思惑や感情が渦巻くこの空気。2度目の公爵家女当主時代の人生を思い出す。

 ああ、とてつもなく嫌な予感……!

 背中を冷や汗が伝うのを感じながら、私は懸命に笑顔を作ることに専念した。

 馬車で言っていた通り、私はミハイル様に沢山の貴族へ紹介された。
 公爵家に集まる高位貴族らしく、皆とてもお上品な方々ばかり。
 とはいえ、中には私の名前を聞いてあからさまに態度を変える者もゼロではなかった。

 ええ、そうよね。ミハイル様がこんな貧乏子爵家の娘をパートナーにしているなんて驚きよね。
 私だってなんのことやら……。

 一通りの挨拶が終わったところで、ミハイル様は貴族の一人に呼ばれて少し席を外した。
 作り笑いを浮かべることに疲れていた私は解放されて少し安堵する。

 はあ、甘い物でも食べて回復しよう。

 そう思いデザートが並ぶテーブルへ行くと、色とりどりの綺麗なケーキが並んでいる。
 わーい!さすが公爵家、デザートも高級品ばかり。

 満面の笑みでケーキをもぐもぐと頬張った。

「アリシア??」
 綺麗な音色で私の名前を呼ぶ声がする。

 ん?この声はもしかして……。

「デュバン伯爵令嬢!」

 振り返ったそこには、とても懐かしい顔があった。

「まあ、アリシア。とても綺麗よ」
「デュバン伯爵令嬢も、相変わらずお綺麗ですね」
「ふふ、ありがとう。それにしても、いつもの質素なドレスと違って一段とお洒落ね。あなたってあんなに地味な家門の生まれなのに不思議なお上品さがあるのよね。まるでどこかの公爵令嬢かと思うくらいだわ」

 あ……、うん、いつもと変わらないデュバン伯爵令嬢の清々しい物言いだわ。
 少しの間視線を合わせ、どちからともなくぷっと吹き出す。

 そうして二人で笑っていると、此処へやってきてまだ少ししか経っていないのに、実家で令嬢とお茶をしていた日々がすごく懐かしく思えて安心する。

「久しぶりにお会いできて嬉しいわ。お元気そうでなによりね」

 令嬢も私と同じことを思っていたのか、懐かしいものを見るような瞳でまじまじと私を見つめた。

「はい、私も嬉しいです! それに、おかげさまで公爵家では良くしていただいてます」
「そのようね」

 意味深な笑みを浮かべた彼女は向こうの方で貴族男性に囲まれているミハイル様をちらっと眺めた。

「あなたのハッピーなニュースがもうすぐにでも聞けそうね。安心したわ」
「? はい、毎日楽しいです」


 ハッピーなニュースってなんだろ?

 まあ、とりあえず此処に来てからときめきを味わいたいという目的も達成できつつあるし、ハッピーであることは間違いない。

 うふふと笑う令嬢の怪しげな笑顔に疑問を抱きつつ笑い合っていると、ふと会場の入り口辺りが騒がしくなった。

 どうしたんだろう?

 入り口の方へ視線をやると、人だかりの中から美しいドレスを着た令嬢が現れた。

「ヴェルネ公爵令嬢の到着ね」

 デュバン伯爵令嬢が片眉を上げて独り言のように呟いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする

葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。 そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった! ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――? 意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。

櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。 夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。 ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。 あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ? 子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。 「わたくしが代表して修道院へ参ります!」 野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。 この娘、誰!? 王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。 主人公は猫を被っているだけでお転婆です。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。

枯れ専令嬢、喜び勇んで老紳士に後妻として嫁いだら、待っていたのは二十歳の青年でした。なんでだ~⁉

狭山ひびき
恋愛
ある日、イアナ・アントネッラは父親に言われた。 「来月、フェルナンド・ステファーニ公爵に嫁いでもらう」と。 フェルナンド・ステファーニ公爵は御年六十二歳。息子が一人いるが三十年ほど前に妻を亡くしてからは独り身だ。 対してイアナは二十歳。さすがに年齢が離れすぎているが、父はもっともらしい顔で続けた。 「ジョルジアナが慰謝料を請求された。ステファーニ公爵に嫁げば支度金としてまとまった金が入る。これは当主である私の決定だ」 聞けば、妹のジョルジアナは既婚者と不倫して相手の妻から巨額の慰謝料を請求されたらしい。 「お前のような年頃の娘らしくない人間にはちょうどいい縁談だろう。向こうはどうやらステファーニ公爵の介護要員が欲しいようだからな。お前にはぴったりだ」 そう言って父はステファーニ公爵の肖像画を差し出した。この縁談は公爵自身ではなく息子が持ちかけてきたものらしい。 イオナはその肖像画を見た瞬間、ぴしゃーんと雷に打たれたような衝撃を受けた。 ロマンスグレーの老紳士。なんて素敵なのかしら‼ そう、前世で六十歳まで生きたイオナにとって、若い男は眼中にない。イオナは枯れ専なのだ! イオナは傷つくと思っていた両親たちの思惑とは裏腹に、喜び勇んでステファーニ公爵家に向かった。 しかし……。 「え? ロマンスグレーの紳士はどこ⁉」 そこでイオナを待ち受けていたのは、どこからどう見ても二十歳くらいにしか見えない年若い紳士だったのだ。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

処理中です...