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37、二人の家
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「わー! こんなに立派なお屋敷なのね! さすがラバドゥーン公爵家だわ!」
玄関前の扉に到着し、きゃぴきゃぴはしゃぐポピーを尻目に、私は少し緊張していた。
ここでの最後の記憶は、ミハイル様のお父様に執務室へ呼び出されて『今すぐに出て行け』と言われたあの日だ。
メイド長や統括執事、そしてマリーたちの冷たい表情が記憶に甦り、私は一瞬身震いした。
怖いな……。
そう思った瞬間、勢いよく扉が開く。
「アリシア!」
大きな声にハッとして顔を上げて見ると、そこにはミハイル様の美しい満面の笑顔があった。
「ミハイル様……」
ホッとして思わず名前を呼ぶと、ミハイル様はこちらへ駆け寄り、私をその大きな胸の中に抱き寄せた。
「会いたかった……!!」
「私も、私もです!」
お互いの存在を確かめるようにぎゅっと抱き合い、微笑み合っていると、ふと人の視線を感じて横を見る。
私の目に飛び込んできたのは、玄関ホールにずらりと並んでいる使用人たちだった。
一番前にはポサメさんが立っている。
皆一様にニコニコと微笑ましそうにこちらを見ていた。
ふと気づけば、傍にいたポピーもみんなと同じような笑顔だ。
えっ?!?!
あ!!!
ミハイル様に会えた嬉しさで周りを見ていなかった!
ああ、恥ずかしい!
「さあ、疲れただろう。部屋に案内しよう」
そう言って、ミハイル様はひょいと私を横抱きにして歩き始めた。
「み、ミハイル様! 一人で歩けます!」
「久しぶりに会えたのだから、これくらいいいだろう?」
「でも……!」
徐々に熱くなる頬を抑えつつ訴えていると、ミハイル様はしゅんとした様子で項垂れた。
「そんなに嫌なのか……?」
久しぶりに出た!子犬フェイス!
寂しそうな瞳でこちらを見るものだから、私は慌てて否定する。
「嫌ではないです……!」
「そうか」
ぱあっと顔を輝かせてミハイル様は私を大切そうに抱えたまま歩き出す。
もう、あの顔されると本当に弱い。
これからきっと、こういうことが沢山あるのかもしれない。
そう思うと、なんだか可笑しくなった。
大人しくミハイル様にお姫様抱っこで運ばれる私の後ろから、ポサメさんとポピーは荷物を持って着いてきてくれる。
立派な部屋の前に辿り着くと、ポサメさんがドアを開いた。
部屋の中に入ると、ミハイル様は私を優しく下ろしてくれる。
「素敵……!」
思わずそう声が漏れてしまうほど、美しい家具が配置され綺麗にお手入れが行き届いた部屋だった。
…………。
でも、私なんかがこれほど立派なお部屋を使うなんて、ミハイル様のお父様になんて言われるか――――。
あの冷酷な表情を思い出したその瞬間、ミハイル様は私の考えを見透かしたように言う。
「父上はもうこの屋敷にはいないよ」
「?!」
「隠居なさりたいというご要望だったのさ」
そうなのかな?
最後に見たあの時は威圧感と迫力が物凄くて……。
まだまだ現役で活躍していきそうな感じだったけど。
でも私は見てしまった。
不敵な笑顔を浮かべるミハイル様の後ろで冷や汗をかきながら笑うポサメさんの姿を。
「僕が公爵になった今はポサメが統括執事だ。君を害した使用人たちは皆辞めさせた」
あの怖い執事もマリーたちもいないんだ。
ミハイル様は私のために、相当な無理をしてくれたのであろうことが伝わってきた。
「ここは僕たち二人の家だよ」
「二人の家、ですか……?」
「そう。だから安心して過ごしてほしい」
ミハイル様の切実な瞳に、心から安堵を覚える。
私たち『二人の家』
その響きに、私は幸福感が溢れて止まらなかった。
そんな私をミハイル様はさも愛おしそうにぎゅっと抱き締めた。
「…………はい!」
ミハイル様の温かい大きな胸の中に抱かれた私は、涙が溢れそうになるの我慢して、大きな声で答えた。
◇◇◇
今日はミハイル様と、領地の視察へ向かうことにしていた。
お互いにシンプルな洋服に着替えて、小さな馬車で向かう。
あの可愛いレストランで話していたアカデミーがいよいよ開校となる日なのだ。
その様子を外からでいいからこっそり見に行きたいと我儘を言ったら、ミハイル様は笑って受け入れてくれた。
現地へ着いてあたりを見回してみると、沢山の小さな子どもたちが建物の中へ入っていく。
服装はやはりまだまだ裕福とは程遠いが、子どもたちの顔は皆希望に満ち溢れている。
そんな様子を眺めていると、見覚えのある、あの男の子の姿を見つけた。
その顔には笑顔が浮かんでいる。
良かった……!
私は胸がいっぱいになった。
そんな私を慈しむように、ミハイル様は私の肩をそっと抱き寄せる。
しばらくして子どもたちの姿がすっかり建物の中へ消えるのを見守ってから、領地内のあちこちを二人で回った。
傍にはポサメさんと、橙色の髪をアップにして騎士の制服を着た可愛くて凛々しいポピーがついてくれている。
一通り回りきったので、私たちは花畑のそばの芝生で休憩がてらランチを摂ることにした。
みんなで座る場所を整えてから、今日のためにアンヌさんに頼んでおいたランチを籠から取り出す。
ピクニックみたいで楽しいな!
ポピーには彼女の大好物のパンケーキを。
ポサメさんはいつも食べている野菜のキッシュ。
ミハイル様には栄養バランスを考えたチキンと野菜たっぷりのピットパンサンドを。
そして私は、大好きなアプリコットジャムをたっぷりと塗ったピットパンにしたのだ。
ふふ、美味しそう。
ピットパンにかぶりつこうと大きく口を開けた瞬間。
「アリシアの美味しそうだな」
そう言ってミハイル様は私の手の中のピットパンを見つめている。
「え? これがいいですか?」
「ああ」
そう言って私に顔を寄せる。
「?」
「食べさせてくれないのか?」
わ、また子犬フェイスを……!
「もう」
私は少し照れながらミハイル様の口元にピットパンを持っていく。
「うん、美味しいな」
ひとくち食べたミハイル様は顔を綻ばせる。
「ふふ」
「ほら、アリシアも」
笑っている私の口元にミハイル様がピットパンサンドを寄せてくる。
……反射的にかぶりついてしまった。
「ソース付いてる」
そう言って、私を愛おしそうに見つめるミハイル様は、私の上唇を指で拭ってくれた後、そのまま指についたソースをぺろりと舐めた。
「っ……! あ、こ、これも美味しいですね!」
私は恥ずかしさを隠すようにそう言ってから、ぱくぱくと自分のピットパンを食べ始めた。
「なんか楽しそうでいいなあ! あ、ポサメさんもパンケーキ食べます?」
私たちの様子を見ていたポピーが笑顔でポサメさんに問いかける。
「いえ、わ、私は大丈夫です」
そう言いながらポサメさんはチラッとパンケーキを見る。
「はい、あーん」
ポピーがひとくち分のパンケーキをフォークでポサメさんの口元へ運ぶ。
「からかわないでくださいっ」
いつも冷静沈着なポサメさんが珍しく顔を赤くして焦っている。
楽しそうに笑うポピーにつられて、私とミハイル様も声を出して笑ってしまった。
ミハイル様と分け合いながら、みんなで一緒に食べるピットパンは最高に美味しくて、幸せの味がした。
玄関前の扉に到着し、きゃぴきゃぴはしゃぐポピーを尻目に、私は少し緊張していた。
ここでの最後の記憶は、ミハイル様のお父様に執務室へ呼び出されて『今すぐに出て行け』と言われたあの日だ。
メイド長や統括執事、そしてマリーたちの冷たい表情が記憶に甦り、私は一瞬身震いした。
怖いな……。
そう思った瞬間、勢いよく扉が開く。
「アリシア!」
大きな声にハッとして顔を上げて見ると、そこにはミハイル様の美しい満面の笑顔があった。
「ミハイル様……」
ホッとして思わず名前を呼ぶと、ミハイル様はこちらへ駆け寄り、私をその大きな胸の中に抱き寄せた。
「会いたかった……!!」
「私も、私もです!」
お互いの存在を確かめるようにぎゅっと抱き合い、微笑み合っていると、ふと人の視線を感じて横を見る。
私の目に飛び込んできたのは、玄関ホールにずらりと並んでいる使用人たちだった。
一番前にはポサメさんが立っている。
皆一様にニコニコと微笑ましそうにこちらを見ていた。
ふと気づけば、傍にいたポピーもみんなと同じような笑顔だ。
えっ?!?!
あ!!!
ミハイル様に会えた嬉しさで周りを見ていなかった!
ああ、恥ずかしい!
「さあ、疲れただろう。部屋に案内しよう」
そう言って、ミハイル様はひょいと私を横抱きにして歩き始めた。
「み、ミハイル様! 一人で歩けます!」
「久しぶりに会えたのだから、これくらいいいだろう?」
「でも……!」
徐々に熱くなる頬を抑えつつ訴えていると、ミハイル様はしゅんとした様子で項垂れた。
「そんなに嫌なのか……?」
久しぶりに出た!子犬フェイス!
寂しそうな瞳でこちらを見るものだから、私は慌てて否定する。
「嫌ではないです……!」
「そうか」
ぱあっと顔を輝かせてミハイル様は私を大切そうに抱えたまま歩き出す。
もう、あの顔されると本当に弱い。
これからきっと、こういうことが沢山あるのかもしれない。
そう思うと、なんだか可笑しくなった。
大人しくミハイル様にお姫様抱っこで運ばれる私の後ろから、ポサメさんとポピーは荷物を持って着いてきてくれる。
立派な部屋の前に辿り着くと、ポサメさんがドアを開いた。
部屋の中に入ると、ミハイル様は私を優しく下ろしてくれる。
「素敵……!」
思わずそう声が漏れてしまうほど、美しい家具が配置され綺麗にお手入れが行き届いた部屋だった。
…………。
でも、私なんかがこれほど立派なお部屋を使うなんて、ミハイル様のお父様になんて言われるか――――。
あの冷酷な表情を思い出したその瞬間、ミハイル様は私の考えを見透かしたように言う。
「父上はもうこの屋敷にはいないよ」
「?!」
「隠居なさりたいというご要望だったのさ」
そうなのかな?
最後に見たあの時は威圧感と迫力が物凄くて……。
まだまだ現役で活躍していきそうな感じだったけど。
でも私は見てしまった。
不敵な笑顔を浮かべるミハイル様の後ろで冷や汗をかきながら笑うポサメさんの姿を。
「僕が公爵になった今はポサメが統括執事だ。君を害した使用人たちは皆辞めさせた」
あの怖い執事もマリーたちもいないんだ。
ミハイル様は私のために、相当な無理をしてくれたのであろうことが伝わってきた。
「ここは僕たち二人の家だよ」
「二人の家、ですか……?」
「そう。だから安心して過ごしてほしい」
ミハイル様の切実な瞳に、心から安堵を覚える。
私たち『二人の家』
その響きに、私は幸福感が溢れて止まらなかった。
そんな私をミハイル様はさも愛おしそうにぎゅっと抱き締めた。
「…………はい!」
ミハイル様の温かい大きな胸の中に抱かれた私は、涙が溢れそうになるの我慢して、大きな声で答えた。
◇◇◇
今日はミハイル様と、領地の視察へ向かうことにしていた。
お互いにシンプルな洋服に着替えて、小さな馬車で向かう。
あの可愛いレストランで話していたアカデミーがいよいよ開校となる日なのだ。
その様子を外からでいいからこっそり見に行きたいと我儘を言ったら、ミハイル様は笑って受け入れてくれた。
現地へ着いてあたりを見回してみると、沢山の小さな子どもたちが建物の中へ入っていく。
服装はやはりまだまだ裕福とは程遠いが、子どもたちの顔は皆希望に満ち溢れている。
そんな様子を眺めていると、見覚えのある、あの男の子の姿を見つけた。
その顔には笑顔が浮かんでいる。
良かった……!
私は胸がいっぱいになった。
そんな私を慈しむように、ミハイル様は私の肩をそっと抱き寄せる。
しばらくして子どもたちの姿がすっかり建物の中へ消えるのを見守ってから、領地内のあちこちを二人で回った。
傍にはポサメさんと、橙色の髪をアップにして騎士の制服を着た可愛くて凛々しいポピーがついてくれている。
一通り回りきったので、私たちは花畑のそばの芝生で休憩がてらランチを摂ることにした。
みんなで座る場所を整えてから、今日のためにアンヌさんに頼んでおいたランチを籠から取り出す。
ピクニックみたいで楽しいな!
ポピーには彼女の大好物のパンケーキを。
ポサメさんはいつも食べている野菜のキッシュ。
ミハイル様には栄養バランスを考えたチキンと野菜たっぷりのピットパンサンドを。
そして私は、大好きなアプリコットジャムをたっぷりと塗ったピットパンにしたのだ。
ふふ、美味しそう。
ピットパンにかぶりつこうと大きく口を開けた瞬間。
「アリシアの美味しそうだな」
そう言ってミハイル様は私の手の中のピットパンを見つめている。
「え? これがいいですか?」
「ああ」
そう言って私に顔を寄せる。
「?」
「食べさせてくれないのか?」
わ、また子犬フェイスを……!
「もう」
私は少し照れながらミハイル様の口元にピットパンを持っていく。
「うん、美味しいな」
ひとくち食べたミハイル様は顔を綻ばせる。
「ふふ」
「ほら、アリシアも」
笑っている私の口元にミハイル様がピットパンサンドを寄せてくる。
……反射的にかぶりついてしまった。
「ソース付いてる」
そう言って、私を愛おしそうに見つめるミハイル様は、私の上唇を指で拭ってくれた後、そのまま指についたソースをぺろりと舐めた。
「っ……! あ、こ、これも美味しいですね!」
私は恥ずかしさを隠すようにそう言ってから、ぱくぱくと自分のピットパンを食べ始めた。
「なんか楽しそうでいいなあ! あ、ポサメさんもパンケーキ食べます?」
私たちの様子を見ていたポピーが笑顔でポサメさんに問いかける。
「いえ、わ、私は大丈夫です」
そう言いながらポサメさんはチラッとパンケーキを見る。
「はい、あーん」
ポピーがひとくち分のパンケーキをフォークでポサメさんの口元へ運ぶ。
「からかわないでくださいっ」
いつも冷静沈着なポサメさんが珍しく顔を赤くして焦っている。
楽しそうに笑うポピーにつられて、私とミハイル様も声を出して笑ってしまった。
ミハイル様と分け合いながら、みんなで一緒に食べるピットパンは最高に美味しくて、幸せの味がした。
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