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先代翠龍からの招待状
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しおりを挟む書類に紛れるようにして置かれていた白い封筒。
「?」
拾い上げて中身を見てちょっと後悔した。
「げっ、先代翠龍からの呼び出しだ・・・・・・」
正確には梅が見事だからそれを眺めながらお茶をしようぜというお誘いだが、そんなの実質呼び出しだろ。
「あーあれじゃないですか? 当代が白龍様に夢中だから心配なんじゃないですか?」
横からヒョイと顔を覗かせたショウが口を挟む。
「心配ねぇ・・・・・・んー・・・・・・」
むしろそれだったら一番マシなんだけど。
「あれ、他に何か心当たりでもある感じですか?」
「うーん、ほら私も昔は幼かったからさ。何事にも動じない先代が驚くのが面白くて色々悪戯を仕掛けて遊んでいたりしたんだよねぇ。しかも時限爆弾と称していろいろ仕掛けていつ爆発するかドキドキワクワクするのを楽しんでいたりして・・・・・・」
ポイントとしてはすぐバレる悪戯と組み合わせるとバレにくくなるからいいよ。
もっとも何をどう仕掛けたのか、そして何が爆発せず残っているかもう本人ですら忘れているんだけど。
「そのうち先代からはクソガキやらじゃじゃ馬としか呼ばれなくなったなぁ・・・・・・懐かしい」
「うわぁ」
ショウに若干引いた目を向けられる。
うるさいなーだから子供だったんだって。
「―――まあ、とにかく先代翠龍からのお呼び出しだ。行かないという選択肢はないだろうて」
ショウに「手土産は絶対必要ですよ! 詫びの印としても!」と力説され、ショウが厳選した手土産を持たされ先代翠龍の招きに応じることになった。
ちなみに今回のお供はリョウだ。
先代翠龍の屋敷は当代のいる屋敷ではなくて、隠居する時に買った所だ。何でも庭の梅の木を気に入ったのだとか。
その自慢の梅の木を見ることが出来るのは楽しみでもあるけど・・・・・・やだなぁ、何を云われるんだろう。どうか説教ではありませんように。
祈りながら案内された庭へ行くとそれは見事な白梅と、それを眺めるのに最適だあろう場所に赤い布がかかった席が用意されていた。
なるほど、立礼席。じゃあそんなに堅苦しくするつもりはないということ、か・・・・・・?
「・・・・・・よお、来たな」
私の姿を認めて先代翠龍がニヤリと笑う。
隠居してますます男っぷりが上がったような・・・・・・?
「この度はお招きいただきありがとうございます。こちらつまらないものですが―――」
私の言葉に合わせてリョウが持っていた包みを差し出す。すると
「・・・・・・へぇ、あのクソガキがねぇ。そんな態度もとれるようになったんだな」
「・・・・・・お恥ずかしい」
ニヤニヤ意地の悪い笑みを浮かべながら云う先代に身も縮む思いだ。
やっぱり説教コースか。今さら何がバレたんだろ。覚悟しなければ。
と考えていると
「そうあらたまるな。見事に咲いた梅を眺めていたら先代白龍を思い出してな―――好きだったろう?」
「ああ・・・・・・そうですね。あの方はあまり身体が丈夫ではなかったですから」
―――正直、花を愛でることぐらいしか出来なかったのだ。
「座れ。茶を淹れてやろう。ほれ、菓子もあるぞ」
「やだなぁ、いつまでも子供扱いしないで下さいよ」
「よく執務室に忍び込まれて菓子を食い荒らされていたからついな」
「うっ・・・・・・」
それを云われると・・・・・・。
ほら、リョウからの呆れた視線が突き刺さるようになってきた。
だから子供だったんだってば。
「ほら、機嫌を直せ」
椅子に座るように促されて、用意された菓子を渡される。
鶯をかたどった主菓子と梅の花の干菓子。
可愛い菓子だけれど、この菓子を先代が選んだのかと思えば、ちょっと笑える。
菓子を味わっているうちにお茶が運ばれてくる。
お菓子を横に置いて、お茶に口をつける。
一口飲んで、舌にピリッと走る刺激に茶碗を菓子の隣に置く。
「・・・・・・お戯れを」
はて、何を盛ろうとしたんだろう?
「わかるか」
「ええ、味がおかしいので・・・・・・」
「わからなければ気づかないうちに終わらせてやろうと思っていたんだが・・・・・・」
「?」
何の話?
「―――当代が白龍の寵を受けていると聞いて少し羨ましくなってな。試してみたくなった」
先代のねっとり絡みつくような視線に何となくわかった。
入っていたのは睡眠薬か。
眠っている間に犯そうとしていたのか。
「・・・・・・あなたには美しい方がいらっしゃるでしょうに」
「お前ほどではないだろう」
「・・・・・・」
先代の強い視線に意識の底からずるりと這い出してくるのがわかる。
―――まずいな・・・・・・。
とは思うもののどうすることも出来ない。
だってどれも「私」だ。
・・・・・・そう「私」は知っていた。
この人が意識の下では「私」を望んでいたことを。
でもあの器では脆弱過ぎて翠龍を受け止めることが出来なかったのだ。
だから「私」は―――
「白龍」
気がついたら翠龍が跪いていて、覗き込んでいた。
スッと翠龍が「私」の髪を一房取り口付ける。
「一夜の夢で良い。俺にお前をくれ」
「翠龍・・・・・・でも私は身体が・・・・・・」
「今の器は違うだろう?」
「・・・・・・っ」
―――ああ、本当にまずいな・・・・・・。
その人はもう翠龍ではないよ・・・・・・でも私の翠龍はこの方なのです・・・・・・男と寝る趣味は・・・・・・当代には肌を許しているのに?・・・・・・現在と過去が混ざり合ってぐるぐるする・・・・・・私はいまどこにいる?
「―――白龍、お前は頷くだけで良い」
「・・・・・・」
あー・・・・・・もう先代同士好きにさせたら気が済むんじゃないかな・・・・・・。
震える手を伸ばして翠龍に触れようとした時
「白龍!」
声が響いてぱちんと目の前が弾けたようだった。
何?
ぱちぱちと目を瞬いていると男が間に割り込んできた。
誰?
「先代、悪ふざけが過ぎます。白龍に何をするおつもりですか」
「何って・・・・・・昔話をしていただけだ。懐かしんでな」
・・・・・・あ、当代か。
まだ頭がぐらぐらするような気がする・・・・・・。
「とにかく白龍は連れて帰ります―――立てるか?」
「んー・・・・・・」
差し出された手を素直に取る。
正直、今自分がどこにいるかもわからなくなっているから助かる。
どこかふわふわする感覚の中、歩き出そうとすると「白龍」先代に声をかけられた。
「お前ならばいつでも梅を見にきても良い。歓迎するぞ」
「そうですね・・・・・・気が向いたら」
自然と言葉が口からこぼれ出ていて、どこか冷静な部分がやはりまずいな、と思う。
境界が曖昧になると自分が何者でどこにいるのかよくわからなくなるからあまり良くないのだ。とっても疲れるし。
「待っているぞ」
「先代!」
薄く微笑う先代にドクンと心臓が跳ねた。
もしかして先代白龍は先代翠龍のことが・・・・・・だったのか。気がつかなかったけれど。
・・・・・・そっかぁ、気づかなかったな。
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