白宮の聖女

sara

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第一章 騎士と聖女

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 男は運ばれる担架たんかの上で朦朧もうろうとする意識と激しい痛みにうめき声を上げることしか出来ない。
 その男、タランは歯を食いしばりなんとか気を失わないようにこらえていた。
「ここだ!ついたぞ、もう大丈夫だ」
 運んでくれていた同僚が声をかけてきた。
 状況を伝える焦った声とそれに応える女の声が聞こえる。
「皆お下がりください。部屋には誰も立ち入らないように。カガリ、戸の前に」
 女が自分の従者に指示を出すと眼鏡をかけた従者は部屋にいた兵士たちを外に連れ出していった。部屋にはタランと大神官であるという女性だけが残された。
「タラン卿。わたしはカフリー。時は一刻を争います。少し辛抱して」
 カフリーはタランのしっかりとした顎を持ち上げると痛みにあえぐしか出来ない彼に口づけた。
 タランは朦朧とした意識の中でぼんやりとそれを感じ取っていたが、口内に舌が入ってきたときには流石にたじろいた。それでも力なく、されるがままになっていたが、執拗しつように続く深い口付けに呼吸がままならず、大きく息を漏らす。カフリーの口からも息が漏れたが彼女は懸命に舌を伸ばし、タランの舌を絡めたり吸ったりする。
 彼女の舌の動きに無意識にタランも答え始めた頃にふと気付いたことがあった。この異様な状態に夢見心地になっている内に体の痛みが引いているのだ。
 タランが戸惑うとそれを察したのかカフリーが口を離した。「痛みはどうですか?」カフリーは軽く乱れた息でしながらタランに問う。
「随分楽になりました‥」タランは上体を起こし自分の腹の傷を見た。やはり傷はそこにあり止血のために巻かれた布には新しい血がにじみ出ていた。
「それ以上動かないで。傷を見るために服を脱がせますね」
 鎧は応急手当のためにとっくに脱がされていたがカフリーは部屋に用意されていたナイフでタランのシャツをも裂き脱がせた。タランの褐色肌の鍛え上げられた上体とそこに無数にあるうすい傷跡、そして赤く染まった脇腹が晒される。
「わたし一人ではあなたの服を脱がせられなくて‥ごめんなさいね」
 そういいながら止血のための布も取り払った。カフリーは露わになったタランの傷を覗き込み少し手で触る。さすがに痛みが走りタランは息を飲み込む。
「‥タラン卿」カフリーの声は暗かった。
「…わかっています。内臓も裂かれているのでしょう‥?」
「残念ながら‥」
 数多の傷を負ったことも負わせたこともあるタランは自分がもう手遅れだということを薄々気づいていた。
「ありがとうございます。痛みがないだけ幸運だ」
 タランは起こしていた上体を戻し寝そべった。
「‥あなたは選ぶことができます」
 カフリーは決心したような顔でタランの顔を手で包んだ。
「わたしは神聖力であなたの体を満たすことであなたの命を救うことができる」
 タランは驚きを隠せなかった。大聖人の一人が癒しの力を持つらしいと噂は都市伝説のように出回っていたが、すぐに命に関わるような状態への癒しは物語でも聞いたことがない。
「でもかりそめの命です。これからあなたはわたしの神聖力を取り込まないと生きられない体になる。そして神聖力の受け渡しには、先程のような肉体の接触が必要になります。しかしあの程度の神聖力の注ぎ方では再生する前に死んでしまう。この傷をすぐに治すにはこの場でまぐわうことになります」
 タランは面食らった。
「決断を急がねばなりません。将来を約束した女性は?これから生涯神殿務めにもなりますし‥。それから‥」
 カフリーは心痛な面持ちをして早口になっていった。その声はタランの耳にはほとんど入らず、脳裏には一瞬でこれまでの人生と生に対する執着が浮かんだ。そして震える声でカフリーの声を遮った。
「‥生きたい。お願いできますか?」
 それを聞き、カフリーは微笑むとタランに馬乗りになった。
「あなたが生きられるように全力で励みます」
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