白宮の聖女

sara

文字の大きさ
12 / 23
第五章 従者と主

しおりを挟む
 サディアスとロウエルが丸2日間部屋から出てこなかった次の日、カガリがサディアスに小言を並べていた。
「あなたは彼らに甘すぎます」
 しばらく我慢して聞いていた聖女は口を開いた。
「わたしが出来ないことは知ってるでしょ」
 ロウエルへの罰はカガリがこの機会に全員を戒めるために進言したものだった。カガリは白宮の全員を律する。その全員にはサディアスも含まれる。
「カガリは私に厳しい」サディアスは拗ねたように「昔から」と付け加える。
「でも本当はわたしに甘い」カガリの隣に立ち顔と顔が触れられるほど近づけ笑う。「昔から」
 カガリはサディアスを見もせず、ため息をついた。
「他の子は2日も会えなかったのに、今日も禁止にするなんて可哀想」
 彼女が長椅子に倒れ込んだ。
「可哀想だと思うなら何日も部屋に籠もったりしないでください。とにかく今日は大人しく休みなさい」
「有り余る恩恵のお陰ですぐ回復するんだからいいじゃない」
 聖女は思いついたように起き上がる。
「それとも2日も会えなくて寂しかった?今日は一緒に寝ようか?」
 軽口をたたくと従者はまた、ため息をついた。

 サディアスは間違いなく慈悲深く思いやりに溢れ、奉仕の精神がある聖人であった。が、どうにも誰にでも気安く、人たらしな面があった。
 奇跡の力をもち、神に仕えていなければ無意識に多くの男の人生を狂わせていたのではないかと思う。今でさえ彼女と関わった人は男女問わず彼女に心酔してしまう。幸いなのは聖女の周りにはごく少数の人物しかいないこと。不幸なのはその人物たちは特殊な関係ゆえに異常なまでの執着と愛情を彼女に抱いてしまうこと。
 彼女の神聖力の性質がわかったときからこうなる事は予測していたが‥。
 カガリは大聖人になる現実に怯え泣いていた少女時代のサディアスを思い出せずにはいられなかった。


 神聖力の性質は種類がある。大神殿は長い歴史の中で積み上げられたその知識を事細かに書物で残し、厳重に隠し護っていた。
 神聖力を持つものは信仰心や忠義に厚いものが多く、ほとんどが神殿や国に仕える道を選ぶ。特に珍しく、強力な特定の性質を持つ者が見つかれば、ほとんど強制的に神殿宮の主となる。
 サディアスの癒しの力に周囲が気づいたのは彼女が10歳になるかどうかの頃だった。その話はすぐに大神殿に伝えられ、数人の上位神官がサディアスの生家に派遣された。
 彼女の生家は裕福な商家だった。娘の力が並々ならないもので、これから親元を離れ神に嫁がねばならないことを知ると彼女の両親はまだ幼い娘に縋って泣いた。
 カガリは、すぐにサディアスが大神殿に向かうこととなったと知らせを受けた。当時16歳だった。
 サディアスの母がカガリの叔母にあたりサディアスとは従兄弟同士だ。屋敷が同じ街だったこともあり交流が多く、2人は兄妹のように育った。
 一族待望の女の子として皆の愛情を一身に受け育ったサディアスは優しく快活だが、一方で孤独を嫌っていることをカガリはよく知っていた。
 カガリはすぐにサディアスの家に向かうと、そこにいた彼女の家族と自分の両親にサディアスに付いていくと告げた。その場にいた全員が躊躇する中、カガリの決心は固かった。
 カガリの父は小貴族の家柄で、貴族の家の男児は成人までの間に王城か神殿で奉公しながら学ぶという風習があった。どうせ兄が城での奉公から戻ればどちらかに行く予定だったから、と両親を説き伏せる。両親が渋々承諾しするとサディアスの両親からは心からの感謝を告げられた。
 決まったことを伝えようとサディアスの部屋に行くと彼女は1人で静かに泣いていた。
「私も行くよ」
 カガリは彼女の前に膝まづき、小さな両手を包み込むように握った。
「ずっと一緒にいるよ」
 サディアスは涙を浮かべた碧色の瞳で彼を見上げる。
「ありがとう。兄さま」
 そう言って小さな体でカガリに抱きつく。サディアスの体のあたたかさと震えを感じて、一人で行かせないで良かったと安堵した。


 それから10年以上、サディアスとカガリは大聖人と従者として共に過ごしてきた。あの時に身分も関係も変化してしまったが、サディアスが子どものように甘えたことをいうのはカガリにだけだった。

「カガリも力が必要みたいよね」
 抱きつこうとするサディアスの腕をすり抜けカガリは部屋を出て行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

魚人族のバーに行ってワンナイトラブしたら番いにされて種付けされました

ノルジャン
恋愛
人族のスーシャは人魚のルシュールカを助けたことで仲良くなり、魚人の集うバーへ連れて行ってもらう。そこでルシュールカの幼馴染で鮫魚人のアグーラと出会い、一夜を共にすることになって…。ちょっとオラついたサメ魚人に激しく求められちゃうお話。ムーンライトノベルズにも投稿中。

処理中です...