原作を知らない作品の悪役令嬢として転生してしまった私

水野(仮)

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そうだ! 関わりあわなければ良いんだ!

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その日、私は思い出したのだ。
前世は日本人だったこと。
何年も前からやりたかったゲームを買いウキウキした気分で駅の階段を降りていたら、後ろから誰かに押されて階段の下まで転がり落ちて意識を失ったこと。
そして、この世界がこれからプレイするはずだったゲームソフト「マジックキャンディ 夢見る乙女と恋の騎士」の舞台になった場所だと。

大人の女丸出しな私が会社の帰りに恥ずかしいのを我慢して買ったと言うのに、パッケージを開ける前に死んでしまうとかなんてことなの!

古いソフトだったから何処にあるか分からなくて店員に訊いたのよ。
いい歳した女が「マジックキャンディ」って口にするだけでもちょっと抵抗あるのに、それだけだとわからんとか抜かしやがったあの男は「夢見る乙女と恋の騎士」まで言わせやがったのよ!
いい歳した女が特定の場所や相手以外に夢見る乙女とか恋の騎士とか言うのは精神的に来るのよ! 
ジャージ姿で宅配便を受け取ってるところを、ちょっと良いなと思ってるご近所さんに見られた時くらいのダメージ有るの! 
そんな思いまでして買ったソフトとゲーム機をプレイすることなく死ぬって不幸過ぎない?! 
あと、ゲームに似た世界に生まれ変わるくらい強く思ってたなら、ヒロインに生まれ変わるまで頑張りなさいよ私! 
登場人物に生まれ変われそうな辺りで満足してんじゃない!

「根性出せよ私!」
「お、お嬢様?!」

しかも、アニメでは12話中2話くらいしか出なかった女じゃないの!
私のマジックキャンディの知識はアニメ版が9割なのよ!
友人から話を聞いて興味を持ってアニメを見てハマるも貧乏だったうちじゃゲーム機なんて娯楽品買ってもらえなかったし、自分でも買う余裕なかったからね! 
学校で2つ折り携帯なんて持ってたの私くらいだからね! 
機種変更しないでずっと使ってたからね! 
カレンの電話製品情報に載ってないよ~とか言われるくらい古い姉のお下がり品だったけどさ、自室でテレビが見られる優れた相棒だったのよ!
当然マジックキャンディも相棒で見たわ! いえ、相棒と見たわ!

って、話がズレたわ…落ち着け私、そして思い出せ私がアニメに出た話を、そこに攻略のヒントがあるはずだ!

確か、魔物に慣れる為に討伐合宿をする学校行事だったはず。
そこで主人公の女が狙ってた王子が友人とその婚約者を連れて現れ4人でパーティーを組むって話だったわ。
その友人の婚約者が私、アルテミス・フロレシアンだったはず。
確かアルちゃんとか主人公の女に言われてたな。

そして4人で魔物と戦っていたら魔族が現れてピンチになり、主人公の女が光魔法に目覚めて魔族を退けて終わり。
その話は前後編でアルテミスの出番もそれで終わり。
仮にもアルテミスって名前なのに活躍する場面が特に無いとか、神話に出て来るアルテミスに謝れよって感じの内容だわ。

今のところ私について思い出した情報が、婚約者が王子と友人関係に有る公爵子息で騎士だったことと私は魔法を使えるくらいしかないんだが…。
おそらくこの騎士が主人公の女の捕食対象になった場合、私が悪役令嬢として登場するんだと思うけど、ストーリーがわからないから対処出来ない…。

そもそもこのゲームは主人公の名前を自分で入力し、攻略キャラの声優さんがその入力した名を呼んでくれると言うのも売りだったので決まった名前がない。
実際、アニメとコミックと小説で名前が異なるので、誰が主人公の女なのかわからない。
警戒のしようがない。
いずれプレイしてやると決意後、新鮮な気分でプレイする為にと情報を遠ざけていたらこんなことになるなんて…。
人物紹介欄くらいは見ておけば良かったなぁ…。

こうなったら私は私を捨てるしかないのでは?
将来破滅するかも知れないのは貴族令嬢という身分だからだし、罰として身分を剥奪される可能性が有るのなら、いっそ自分から貴族令嬢の身分を捨てれば良いのでは?
そして1人で生き抜く力を身に付け学園に通う前に家を出れば、誰が主人公の女なのか気にする必要もない。破滅に怯えることもなく生きることが出来る!
そうね、そうしましょう!
まずは体術をメインに鍛えて、寝る前に魔法を強化する。
まだ5歳だもの軌道修正出来るわよ!

「さっきから話しかけてるのに娘が反応してくれないんだが…」
「アルテミス、いったいどうしたと言うの…」
「アル…」
「お姉ちゃん…」
「お嬢様…」
「鍛えて鍛えて鍛えまくるわよ!」

「「「「「いったいなに?!」」」」」



私を守る為に付けられた騎士たちと一緒に明日から体術の訓練をする事になったわ。
最初父や姉が反対したのだけれど、母が「何処にでも護衛を連れて行けるわけじゃないもの、時間を稼ぐくらいの技術は有った方が良いかもしれないわね」と言ってくれたので出来ることになったの、ありがとうママン!

今日は庭で自分の身体を動かしてみるわ。
どれくらい動かせるかわからないと、本格的な訓練を始めた時に身体を痛めちゃうからね。

「何故体術メインなんですかお嬢様」
「武器を持ってない時に襲われたら対処出来ないなんて嫌だもの」

と言っても、この世界の体術とか知らないのよね。
とりあえずボクシングの真似事とか空手の真似事をやってるけど、自分を客観的に見られないから正しい動作かわからない。
近くにいる世話役のメイドさんもそう言った知識は無いみたいで、アドバイスも期待出来ない。
汗を拭いてくれたり飲料水を用意してくれるのは助かるけどね。
飲料水は塩ひとつまみとレモンに似た果実を混ぜたものよ、前世では自分でも作ってたの。

う~ん、十数分動いたけれどしっくりこないわね。
そもそもボクシングや空手ってそんなに詳しくないのよね、テレビ中継とかやってても見ることなかったし。
どちらかというとゲーム屋さんの店頭で遊ぶことの多かった格闘ゲームの方が詳しいし。まあ、あんな動きは実際出来ないと思うけど…あれ、この世界には魔法があるのだからその気になれば再現できるんじゃないのかしら?

拳に炎を纏い、殴った個所が燃えて灰になるイメージをしながら拳を突き出す!

「燃えな!」

ほら! やっぱり出来たわ!
流石は魔法のある世界!

「お嬢様、そんな体術有りませんよ…」



次の日になった。
今日から本格的な体術訓練の始まりだ!
これにはメイドさんはついて来れないので代わりにうちの騎士団から派遣された女騎士が付き合ってくれる。

「まずは走り込みね!」

メイドさんは濡れタオルや飲料水を用意して庭で待っていてくれるそうだ、ありがとう!

体力が尽きたら最近覚えた魔法で回復し、また体力が尽きるまで走り込みの繰り返し。

「回復魔法って体力も回復するものでしたっけ?」
「しないはずです」
「ですよね」

走り込みを始めて一月くらい経ったある日、ふと気が付いた。
体力尽きてから回復するより、微量の回復魔法を体に掛けながら走り込みすれば体力が尽きることなく走り続けられるのでは?と。 
試してみたら想像通り、何時もなら体力が尽きそうな時間になっても平気だった。
ただ、この方法はお腹が何時もより空くのが問題かなぁ。

「何時もより走る速度が上がってて付いていくのが辛い」
「お嬢様、本当に5歳なの…」
「私たちも鍛えないとそのうち置いていかれる…」
「鎧脱ぎたい、剣を外したい」

疲労が溜まった騎士さんたちにも回復魔法を掛けた。
私と離れてしまうと護衛任務を放棄したと思われてしまうかも知れないからね!

うちの騎士さんたちがより強くなったとあとで聞いた。
私の回復魔法もなんか効果があったらしい、前世で誰かが言っていた超回復とか言う奴かな? それとも魔法的な何か?



「攻撃魔法を勉強するには早過ぎます」
「そこをなんとか」
「適性の儀を行う10歳まではお教えすることは出来ません」
「そう、なら仕方がないわね」

教えてくれないなら自分でなんとかするしかないわ!
前世の漫画やアニメの記憶を出来るだけ思い出し、絵や文章にしていく。
前世と同じように描けるのを見るに、絵心は魂に宿るのかも知れないわね。
これなら漫画を描いて稼ぐ手段も…この世界に印刷する機械とか有るのかしら? 
攻撃魔法より印刷魔法を覚える方が良いかしら?

「そんな便利な魔法ありませんよ…」
「え~、竜巻起こすより簡単だと思うんだけど…」
「普通、魔法ってのは戦闘行為に使うものなので、そう言ったことには…」

魔法って案外不便なのね。
無いなら作れば良いと思うのだけれど、その作り方がわからないわ。
誰か教えてくれる人は居ないかしら?



「アルテミス、お前は今日からアルフリードと名を変え男として生きると良い」
「何を言ってるんだこの親父は…」
「おやじ?」
「いぇ…」

独学での魔法の勉強に限界を感じたので家に有る図書館を私にも使わせてもらえないかと父親の部屋に入り話をしたところ、そんなことを言われた。
跡取り息子が欲しい父は頑張ってるるらしいのだが(何をとはあえて聞かない)、結果が出ず(娘3人だもんね)、父の両親や母の両親からまだまだか言われているそうだ。
普通母なのではと思ったので聞いてみたら、パパン入り婿だった。
精神的な重圧からの逃げ道を探し出した時にお嬢様らしくない行動を取り始めた私が男だったらと思ったそうで、無理があるでしょ!! 
…待てよ、男として生きるなら婚約者は女性になるんじゃない!

「ナイスお父様」
「ナイス?」
「失われた言葉で素晴らしいと言う意味です」
「そうか…」

その日、両親が喧嘩するのを初めて見た。
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