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「ご家族とは連絡とれたの!?」
ピコーンピコーンという電子音のアラームが鳴り響く。
バタバタというたくさんの足音が近付いたり遠退いたり。
「はい!今こちらに向かっています」
「よし!どうにか保たせるよ!」
カチャカチャと金属と何かがあたる音がひっきりなしに聞こえる。
「頑張れー!頑張れよー!」
男の人が一生懸命励ましている。
「先生!心停止!」
女の人の悲鳴のような声を最期に聞こえていた全ての音が鳴り止んだ。
車が水たまりの水を撥ね退けるジャーという音が聞こえる。
1台…2台…3台…車はひっきりなしに走り抜ける。
冷たい雨が降っている。ここはどこだろう。視界には灰色の空だけが映る。
「みーみーみー」
これは?私の声?まるで猫じゃないか。
それにしても寒い。身体が震える。何故こんなにも震えるのだろう。
「みぃ…みぃ…」
いけない。声もろくに出せなくなってきた。意識が遠のく。
その時、降ってくる雨が止んだ。いや、パタパタと雨粒が何かに当たる音が響いている。
「子猫?」
黄色い帽子を被った小学生くらいの男の子が傘を差し掛けてくれていた。水色の傘。
暖かな手が私の身体を包み込む。
「お前、捨てられたの?」
男の子は私を抱きかかえてくれる。身体の震えはおさまらないが、とても温かくて安心する。
「よし!うちにおいで!」
男の子はそう言うと私を片手に抱えたまま傘を手に取り走り出した。
一軒家の門扉を開け、ポケットから鍵を取り出した男の子は手慣れた手付きで鍵を回してドアを開ける。
「ただいまー!」
男の子の言葉に返事はない。男の子はそんなことも気にせず濡れた足で廊下を走って脱衣所に向かう。真白な脱衣所が目に眩しい。
男の子は棚からバスタオルを2枚出す。1枚を床に敷いて私をその上に載せるともう1枚で乱暴に私を拭く。
『痛い痛い!』
「にーにー!」
私は抗議の声をあげるが口から出るのは弱々しい鳴き声だけだ。
「寒かったろ?もう大丈夫だからな」
男の子は私を抱き上げて話しかけてくる。脱衣所の鏡に映った男の子の腕には真白な子猫が抱かれていた。
『これ、私!?』
「にー!にー!」
私の驚きの声も弱々しい子猫の鳴き声にしかならない。
「ちょっと待っとけよ」
男の子は私をリビングに連れていき、ソファの上に置くと冷蔵庫を開けたり閉めたり、食器棚を開けたり閉めたりと忙しない。
チンと音がする。
「おっとっと…あちち…ほら飲め」
男の子は私の前に白いお皿を置く。そこには湯気をたてた熱々のホットミルクが入っている。
「どうした?飲まないと元気にならないぞ」
少年は心配そうに私の顔を覗き込む。
『少年よ…君は猫舌という言葉を知っているか?』
結局ミルクはだいぶ時間が経ってから頂いた。膜が張っていたのでその隙間から舌ですくって飲んだ。
少年は私の相手に飽きたのか私をほったらかして床に寝転んでゲームを始める。目の位置が近い。目を悪くするぞ。
少年は随分ゲームに熱中していたようだが、はっと時計を見上げて慌ててゲームを止めてミルクの皿や濡れたタオルを片付け始める。
「ただいま」
ちょうど少年の片付けが終わったタイミングで男の人の声が帰宅を告げる。
「おかえりなさーい!」
少年はリビングを出て玄関まで迎えに出る。私はソファの上に置いてけぼりだ。
「おお、どうした?玄関まで出迎えなんて珍しいな」
「うん…あのね…」
だんだん話し声がこちらに近付いてくる。
「ダメダメ!家では飼えないよ」
リビングの扉が開くと同時に男の人の少し不機嫌な声が響く。
「えー?お願いお願いお願いー」
少年は子供だけに許された連続お願いの技で男の人を説得にかかる。
「ダメダメダメ!」
男の人はネクタイを緩めながらカバンをソファの上に投げ捨てる。
『おぉ。危ない』
「にーにー」
「何でー?ほら!可愛いでしょ?こんな雨の日に外に出したら死んじゃうよ?お父さんはそれでいいの?」
少年は情に訴える作戦に切り替えたようだ。
「それは…そうだけど…でもダメだ!家では飼えない」
「えー?何で?何で?何でー?」
「何ででもだ!元いた所に戻しに行こう」
父親は少年を大人の力技でねじ伏せようとする。
「嫌だ!行かない!ミケは家で飼うの!」
どうやら私の名前はミケに決定した模様だ。ちなみに私は白猫であり三毛猫ではない。
「ミケは飼わないの!言う事を聞きなさい」
父親もすんなりとミケという名前を受け入れる。これは少年が優勢か?
「お願い…寂しいんだよ…」
少年の声のトーンが急に落ちる。すると父親も急に肩を落とす。
「…そうだよな…」
父親が少年の肩に手を置く。おや?なんだか様子がおかしいぞ?
「…ちゃんと面倒見れるのか?」
父親はしゃがんで少年と目を合わせる。
「うん!絶対やる!」
少年は勢い良く頷く。
『少年よ。世の中に絶対というものはそうそうないぞ』
「わかった。約束だからな」
父親が折れたことで試合終了だ。私、白猫のミケはこの日からこの家の飼い猫になった。
ピコーンピコーンという電子音のアラームが鳴り響く。
バタバタというたくさんの足音が近付いたり遠退いたり。
「はい!今こちらに向かっています」
「よし!どうにか保たせるよ!」
カチャカチャと金属と何かがあたる音がひっきりなしに聞こえる。
「頑張れー!頑張れよー!」
男の人が一生懸命励ましている。
「先生!心停止!」
女の人の悲鳴のような声を最期に聞こえていた全ての音が鳴り止んだ。
車が水たまりの水を撥ね退けるジャーという音が聞こえる。
1台…2台…3台…車はひっきりなしに走り抜ける。
冷たい雨が降っている。ここはどこだろう。視界には灰色の空だけが映る。
「みーみーみー」
これは?私の声?まるで猫じゃないか。
それにしても寒い。身体が震える。何故こんなにも震えるのだろう。
「みぃ…みぃ…」
いけない。声もろくに出せなくなってきた。意識が遠のく。
その時、降ってくる雨が止んだ。いや、パタパタと雨粒が何かに当たる音が響いている。
「子猫?」
黄色い帽子を被った小学生くらいの男の子が傘を差し掛けてくれていた。水色の傘。
暖かな手が私の身体を包み込む。
「お前、捨てられたの?」
男の子は私を抱きかかえてくれる。身体の震えはおさまらないが、とても温かくて安心する。
「よし!うちにおいで!」
男の子はそう言うと私を片手に抱えたまま傘を手に取り走り出した。
一軒家の門扉を開け、ポケットから鍵を取り出した男の子は手慣れた手付きで鍵を回してドアを開ける。
「ただいまー!」
男の子の言葉に返事はない。男の子はそんなことも気にせず濡れた足で廊下を走って脱衣所に向かう。真白な脱衣所が目に眩しい。
男の子は棚からバスタオルを2枚出す。1枚を床に敷いて私をその上に載せるともう1枚で乱暴に私を拭く。
『痛い痛い!』
「にーにー!」
私は抗議の声をあげるが口から出るのは弱々しい鳴き声だけだ。
「寒かったろ?もう大丈夫だからな」
男の子は私を抱き上げて話しかけてくる。脱衣所の鏡に映った男の子の腕には真白な子猫が抱かれていた。
『これ、私!?』
「にー!にー!」
私の驚きの声も弱々しい子猫の鳴き声にしかならない。
「ちょっと待っとけよ」
男の子は私をリビングに連れていき、ソファの上に置くと冷蔵庫を開けたり閉めたり、食器棚を開けたり閉めたりと忙しない。
チンと音がする。
「おっとっと…あちち…ほら飲め」
男の子は私の前に白いお皿を置く。そこには湯気をたてた熱々のホットミルクが入っている。
「どうした?飲まないと元気にならないぞ」
少年は心配そうに私の顔を覗き込む。
『少年よ…君は猫舌という言葉を知っているか?』
結局ミルクはだいぶ時間が経ってから頂いた。膜が張っていたのでその隙間から舌ですくって飲んだ。
少年は私の相手に飽きたのか私をほったらかして床に寝転んでゲームを始める。目の位置が近い。目を悪くするぞ。
少年は随分ゲームに熱中していたようだが、はっと時計を見上げて慌ててゲームを止めてミルクの皿や濡れたタオルを片付け始める。
「ただいま」
ちょうど少年の片付けが終わったタイミングで男の人の声が帰宅を告げる。
「おかえりなさーい!」
少年はリビングを出て玄関まで迎えに出る。私はソファの上に置いてけぼりだ。
「おお、どうした?玄関まで出迎えなんて珍しいな」
「うん…あのね…」
だんだん話し声がこちらに近付いてくる。
「ダメダメ!家では飼えないよ」
リビングの扉が開くと同時に男の人の少し不機嫌な声が響く。
「えー?お願いお願いお願いー」
少年は子供だけに許された連続お願いの技で男の人を説得にかかる。
「ダメダメダメ!」
男の人はネクタイを緩めながらカバンをソファの上に投げ捨てる。
『おぉ。危ない』
「にーにー」
「何でー?ほら!可愛いでしょ?こんな雨の日に外に出したら死んじゃうよ?お父さんはそれでいいの?」
少年は情に訴える作戦に切り替えたようだ。
「それは…そうだけど…でもダメだ!家では飼えない」
「えー?何で?何で?何でー?」
「何ででもだ!元いた所に戻しに行こう」
父親は少年を大人の力技でねじ伏せようとする。
「嫌だ!行かない!ミケは家で飼うの!」
どうやら私の名前はミケに決定した模様だ。ちなみに私は白猫であり三毛猫ではない。
「ミケは飼わないの!言う事を聞きなさい」
父親もすんなりとミケという名前を受け入れる。これは少年が優勢か?
「お願い…寂しいんだよ…」
少年の声のトーンが急に落ちる。すると父親も急に肩を落とす。
「…そうだよな…」
父親が少年の肩に手を置く。おや?なんだか様子がおかしいぞ?
「…ちゃんと面倒見れるのか?」
父親はしゃがんで少年と目を合わせる。
「うん!絶対やる!」
少年は勢い良く頷く。
『少年よ。世の中に絶対というものはそうそうないぞ』
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