感情下手な神泉さんは、危機を救ってくれた目立たない彼にベタ惚れの様です〜素直になれません!〜

松原 瑞

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お菓子大作戦

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 放課後、私と佐奈はスーパーに来ていた。

「それで佐奈、私たちは一体何をしようとしているの?」
「何ってわかるでしょ。手作りお菓子を作るのよ」
「佐奈、私が料理苦手なの知ってるよね?」
「だからだけど?」
「無理無理無理! ただでさえ倉敷くん私のこと避けてる感あるのに、変なお菓子あげるとかただの迷惑行為だよ!」

 私こと神泉栞里は、痴漢から助けてくれたクラスメイト倉敷藤之助に片想いをしているだが、彼に可愛いと褒められた矢先に恥ずかしすぎて仏頂面で返事をしてしまい、彼がちょっと気まずそうにしているのだった。

「クラスの女子から手作りお菓子をもらって喜ばない男子なんてこの世にいないわ!」
「その自信どっから来るの!?」

 佐奈の趣味は雑誌などで集めた恋愛雑学をノートにまとめること。どうやらこれもどこかから仕入れてきた情報の一つみたいなんだけど。

「佐奈、私で実験しようとしてない?」
「ドキりん」
「ドキりんじゃないわよ、ねぇ!」

 サッとノートを後ろに隠す佐奈はもはや確信犯だろう。

「まぁまぁ。他に恩返しする手立てがないのは事実何でしょう?」
「うぐ……そうだけどぉ……」

 倉敷くんにお礼がしたい、彼には本当に感謝しているもの。佐奈の実験に付き合うのは癪だけど、実際じゃあどうすると問われれば私には案がなくて。

「そうと決まれば買い出しにレッツゴー!」
「ハァ、うまくできるかなぁ……」

 お菓子を作る羽目になった。

◇◇◇

 私の家は両親とも仕事で忙しいので、いつも家には夜遅くまで私と大学生の兄だけだ。そういうこともあって、佐奈が私の家までついてきて一緒にお菓子作りを手伝ってくれているわけなんだけど。

「栞里……アンタ本当に倉敷くんのこと好きなの……?」
「べべ、別にすす好きじゃないし?」
「……まぁ良いや。栞里、愛情込めて丁寧に作ればもうちょっとうまくいくハズよ? 一体何を作るつもりなの? あたし栞里の恋のお手伝いはするけど、殺人のお手伝いをするつもりはないわよ?」
「言い過ぎだよ佐奈ぁ! 私だって一生懸命作ってるんだけどなぁ……」

 お菓子作りと言っても、作るものによって難易度は千差万別。私が料理苦手ということを知っている佐奈は、誰でも作れるからとクッキーを勧めてくれたから、一緒に作り始めたのだけれど。
 何がどうなっているのか。佐奈が作るクッキーは、鼻腔をくすぐる香ばしい匂いのするバタークッキー。一方私が作ると墨色と化した木炭調のダークマタークッキー。一体どこで差がついたのか。

「何でぇ……」
「ま、まぁまだ材料はあるんだし、もう一回チャレンジしよ? ホーラ康太こうたさん、エサだよ~」
「ありがとう佐奈ちゃん、ありがたくもらうけど……俺を犬扱いはどうよ?」

 リビングでくつろいでいた康太お兄ちゃんが、佐奈のクッキーを美味しそうに頬張っている。私のクッキーは丁寧に除けて……。

「お、お兄ちゃん。妹が作ったクッキーもあるんだけど……」
「……最近バイトが人手不足でな……」
「お腹壊しそうってこと!?」

 兄の素直な感想を聞いた私は、その後もう三度ほど作り直したとさ。

◇◇◇

 翌日。
 私は昨日佐奈と一緒に作ったクッキーをカバンにしまい、ついには学校の下駄箱までやって来た。早く来すぎたのか、まだ誰もいない。
 あれから三度も作り直した結果、色や形はお世辞にも上手とは言えないものが仕上がった。ダークマターではないにしても、所々焦げた痕があり、一個一個の形は不恰好。味見をしてみたけれど、なぜか要所要所で甘すぎたり無味だったりしょっぱかったりと、まさにロシアンルーレット状態だった。
 ラッピングだけはうまくできたけど、どうしようかなこれ。やっぱり、渡すのは辞めておこうかな。
 私がカバンの中のクッキーたちを眺めていると、後ろから声をかけられる。予想外の声が。

「あの、神泉さん、お、おはよう」
「……、……!?」

 声にならない声が喉を通過した。だってこの声、驚かないわけないじゃない。振り向くとやはりそこには倉敷くんがいて。

「あ、あれ、おはよう。ごめん、なんか邪魔したかな?」
「ぜぜぜ全然。……その、く、倉敷くん……お、おは、おはしゃす……」
「おはしゃす!?」

 緊張しすぎて噛んでしまった……昨日はちゃんと言えたのに……。

「あ、あの、昨日神泉さん挨拶してくれたから、俺何かがおこがましいかなって思ったんだけど、俺もした方が良いかなって……」
「え? い、いやいや、う……うん、ありがと。……毎日して」
「毎日!? ま、まぁ挨拶だからね。じゃあこれからも挨拶させてもらうね」

 あぁ、朝から倉敷くんと話してしまった。もう今日良いんじゃないかな? もう何か頭ふわふわするし、これから毎日挨拶してくれるって言ってくれたし……毎日!?
 自分で言っといて今気づいたけど、毎日!?

「あ、あの、いや倉敷くんが嫌じゃなかったら何だけど……ね?」

 あぁ! 何か嬉しかったのが急に恥ずかしくなって来た! 何で私毎日何て言ってしまったの!? 変な人って思われたらどうしよう、今緊張してて絶対表情硬いから怒ってる思われたらどうしよう……。

「い、嫌じゃないよ! 寧ろ、俺何かに話しかけられて迷惑かけないかなって心配なくらいだけど」
「……そんなこと……ないけど」

 ないに決まってんジャーン! いっぱい話しかけてよもっと話したいよー!
 私が脳内で叫びながら俯いていると、間に困ったのか倉敷くんが半歩翻り、

「そ、そう、それならよかった。じゃ、じゃあまた教室で」
「え? あ、うん……あ、あの、倉敷くん、その、渡したいものが……」
「……? なに?」

 倉敷くんが行ってしまう。どうせ同じクラスだから良いのだけれど、もしクッキーを渡すなら、誰もいない今がチャンスだ。
 でも、本当に倉敷くんに渡すの? 本当に? こんなのもらっても絶対困るじゃん。お礼どころかお礼参りみたいなもんだよこれ。どうしようこれ。

「あ、あのね、その」

 渡した方が良いのかな。でもマズイって言われたら悲しい。困った顔されたらショックだ。泣いてしまうかもしれない……。やっぱりお礼は何か菓子折りでも買って渡した方が良い気がして来た。その方が両者のタメな気がする。うん、そうだ。
 肩にかけてあったカバンの中にしまってあるクッキーを握りしめ、私は諦める決心をすると、

「あ、いや、やっぱり」
「神泉さんの握りしめている、そのお菓子のこと?」
「ふぇっ!?」

 力を込めた時、カバンの口が開いて見えてしまった……! どうしよう、渡さない方針で固めたところなのに!

「し、神泉さん、そんな握ったら折角のお菓子が潰れちゃうよ?」
「え、い、良いの、これはどうせ失敗したやつ……だし。この前のお礼にと思ったんだけど、やっぱり、これじゃあ」

 握りしめたお菓子を心配してくれているのだろうか。やっぱり倉敷くんは優しいな。でも良いの、さすがにこんなのを渡す訳には……。

「え、じゃあ捨てるってこと? も、勿体無い! 神泉さんが作ったやつなら、俺どんなのでも食べたいよ?」
「ふふふぇっ!?」

 えっ!? 何で!? 明らかにこんな見た目悪いものなのに!? 私が握りしめてさらにバラバラになったのに!?
 え、どどうしよう。これあげるの? 本当に?

「え、じゃ、じゃあ……はい……——」

 握りしめて袋の中で潰れてしまったクッキーを渡すと、倉敷くんは笑ってくれて。

「い、今食べても良い?」
「う、うん」

 倉敷くんが優しくラッピングを解くと、粉々になったクッキーのかけらを口に含んだ。
 食べちゃったよ。どうしよう、美味しくないのに。そこには自信あるのに。あぁ、やっぱり今日は最低な日だ。どうしよう、どうしよう……。
 私が俯いて待っていると、倉敷くんはドンドン粉々のクッキーを食べて、最後には粉状になったものまで口に流しこむ。

「ふぅ、神泉さん」
「は!? はい……」

 あぁ、倉敷くんは優しいから、きっと微妙な反応はしてくれるんだろう。でも全部食べてくれただけ私は満足だよ、ありがとう倉敷くん。
 私が俯いたままでいると、倉敷くんは声を弾ませながら。

「すっごく美味しかったよ! これ俺の為に作ってくれたんだよね? 本当に嬉しかったよ! ありがとう! 良かったら、また作って来てくれないかな?」

 すごく嬉しそうに、倉敷くんは言ってくれてた。

「え、あ、あの、こんなのしか作れないけど、良いの?」
「うん、うん! また食べたい、本当に美味しかったよ! ありがとう!」
「わ、わかった。……気が向いたらね」
「楽しみにしてるね!」

 そう言いながら、倉敷くんは教室に着くまでどこが美味しかったここが美味しかったとずっと褒めてくれた。

 はぁ、もう……………………、好きっ!!!!!
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