異世界で呪いと一緒に超絶過保護な激重お父さんを贈与(ギフト)されました

マクラノ

文字の大きさ
3 / 15

3.バ先はオアシス

しおりを挟む
「何それサイッテー!」
「ですよね! エルザさんもそう思いますよね!」
「あはは、それでさくちゃんに怒られて、今朝のリヒャルトあんなに落ち込んでたのか」
「笑い事じゃないです、レオンさん」
「ああ、ごめんごめん」

 アルバイト先のランチタイムは壮絶だ。この町一番の人気店だけあって毎日のように外に行列ができる。店主のレオンさんと奥さんのエルザさん二人で切り盛りするこのレストランは定員二十名が限界で、営業時間帯は人が途切れない。

 リヒャルトさんの紹介でバイトを始めて半年。今では多少の戦力になっている自負があるし、それなりに仲良くなったつもりだ。それでも、裸を見られたことを笑われては多少はこちらも抗議するというものだ。

「あいつ、さくが全然話をしてくれない、って泣きべそかいてたからさ。あまりにも珍しくて」
「昔から思ってたけどあいつ本当に無神経っていうか乙女心が分かってないって言うか人の心の機微に疎いって言うか」

 のんびりとした口調で夜の分の仕込みをするレオンさんに、強い口調で糾弾しながらお皿を洗うエルザさん。私は彼女の言うことに頷きながらカウンターを拭いて行く。
 まったくもってその通り。こういった遠慮のない物言いができるのも、三人が幼なじみだと聞くと納得した。

「いい? さくちゃん。次にまたこんなことがあったら魔術で焼き殺しなさい」
「言い過ぎだぞエルザ」
「私、魔術の素養無いからな。マッチと灯油下さい」
「こら、さくちゃん」

 あはは、と店内に笑い声が響く。こういう軽口を叩いていると少しは気も晴れる。「あーあ、私にも魔術が使えたらな」と笑ってみたが、それは本音だった。

「使えなくたって生きていけるよ。おれもからっきしだし」
「世界的に見ても使える人間の方が比率的に少ないんだから気にする必要はないわ」
「でも使えたら、国のお抱え役人や魔術師になれるんだよね。あと無償で高等教育? だっけ」
「まあ有難いことなんだけどね。私なんてそんな待遇を受けたって、結局地元に戻ってこの人とここでご飯屋さんしてるんだし」

 エルザさんは魔術が使えるそうだ。だが彼女は夫婦仲良くいたって普通の暮らしをしている。そうしたいからそうするのだ、というのは彼女の言。こんな選択をするのはごく少数だそうで、変わり者らしい。
 それでも私は、自分のやりたいことを貫く彼女が輝いて見える。

 生まれながらにして自分の役目がある、人に求められるそんな人間になりたかった。自分には何の役目もない気がして、魔術が使えたらもっとみんなの役に立てるのに、と思う。
 どうしたら私を救ってくれた人たちへの恩が返せるだろう、と考えるのが癖になっていた。

「さくちゃん、どうした?」
「すみません、なんでもないです!」

 考え事をして固まっていた私に、レオンさんが心配そうに声をかける。手元の布巾がすっかり乾いてしまっていた。

「もしかしてまだ体調が悪いのかしら? 無理してない?」
「大丈夫です、もうどこも痛くないし元気です」
「ならいいんだけど……」
「たくさん寝たから大丈夫。それに結局昨日一日お休み もらっちゃって」
「いいのよ、そんなことは」

 エルザさんも心配そうに言って私の額に手を当てる。水仕事をしてるのに彼女の手はすべすべでもちもちだ。是非ともケアの方法を教えてもらいたい。

「最近特に忙しいのに、そんな時に限って……」
「平気だよ。おれ達も最近さくちゃんに甘えてたし」
「そうよ、気にしないで。それにね、お店が繁盛している理由はさくちゃんなのよ」
「私が?」
「そう、『祝福の子』が給仕してるなんて、こんな小さい町じゃすぐに噂は広がるさ」
「あ、あははは……」

 私の真っ白な眼球を覗き込んでエルザさんは綺麗ねと、うっとり笑う。

「これはね、神様に祝福された証なのよ。とっても素晴らしい贈り物」 

 私にしてみれば不気味極まりないが、この世界ではそうではない。色素が薄ければ薄いほどに、祝福されているらしい。
 生まれながらに白髪の者は稀にいるらしいけれど、眼球が真っ白いというのは王都で高等教育を受けてきたエルザさん曰く、これまで聞いたこともないらしい。

 リヒャルトさんは、髪も目も白に近い灰色。としてこの町では有名だ。そんな彼が、真っ白な目を持つ私を連れてきたと、町は一時騒然とした。
 今ではみんな温かく迎えてくれているが、初めの頃は遠巻きにされていたのを思い出す。てっきり気味悪がられていると思っていたのに、まさかのありがたすぎて近寄れない、という事実を知って驚いた。

「でも私、特筆して秀でたとこなんてひとつも無いよ」
「今はまだ分からないだけさ」
「そうよ。それに、なにも無くたってこの目がある。それだけで特別な事だわ」

 『祝福の子』はその呼び名の通り、普通の人よりも特別優秀なんだそう。リヒャルトさんにして、あの無駄に美しい顔に、完璧な造形美を誇る肉体だ。いや、肉体に関しては本人の努力によるところなのかもしれないが、彼曰く、一度も風邪をひいたことがないらしい。
 他にも魔術に秀でたり、運動神経が良かったり頭脳明晰だったりと様々な祝福が授与されていると聞く。

 生憎、私が貰ったものといえば呪いくらいのものだが。ついでに超絶過保護で愛情表現が過剰な父親、もといリヒャルトさんに出会えたこともカウントしておこう。

「私の祝福って、リヒャルトさんに出会えたことかな?」

 ぽつり、とそう零すと夫婦は顔を見合わせて蕩けんばかりの笑顔を見せた。次いでよしよし、と頭を優しく撫でられる。この夫婦に限ったことではないが、町の人達はリヒャルトさんを筆頭にどうにも私を幼子扱いしている節がある。
 十八歳であると何度も言っているのだがまるで小学生かのような扱いだ。日本人は幼く見られがちであるという話を実体験で痛感している。

「ね、今言ったことリヒャルトさんには絶対に言わないでくださいね。鬱陶し……じゃない、暑苦し」
「さくちゃん!」
「うわっ」

 最後まで言い終わる前に、野生のゴリラが体当たりでもしたかのような轟音と共に、店の出入口が吹っ飛んだ。
 木製の扉は木っ端微塵に砕けて、木片が宙を舞う。そこには、今まさにその名を口にしていた男が感極まった顔で立っていた。

「さく……そんな風に思ってくれてたなんて!」
「リ、リヒャルトさん、いつからそこに」
「お父さんは嬉しいよ!」
「わああああっ!」

 目にも止まらぬ早さで距離を詰められたかと思うと、まるで重力を感じさせぬ動作で抱き上げられた。そのままぐるぐると回されてさながら映画のワンシーンのような過剰な愛情表現に強制参加だ。

「回る、やめ、まわる……! めが、まわる!」
「さくーーーーー! 俺もさくやが大好きだぞ!」
「こらやめろリヒャルト、店の中で暴れるな! っていうか扉壊しやがったな、てめぇ!」

 見かねた店主に怒鳴られたが、感情が爆発したリヒャルトさんはしばらく私を抱き上げたまま離そうとしなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。

櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。 そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。 毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。 もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。 気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。 果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは? 意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。 とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。 小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

山賊な騎士団長は子にゃんこを溺愛する

紅子
恋愛
この世界には魔女がいる。魔女は、この世界の監視者だ。私も魔女のひとり。まだ“見習い”がつくけど。私は見習いから正式な魔女になるための修行を厭い、師匠に子にゃんこに変えれた。放り出された森で出会ったのは山賊の騎士団長。ついていった先には兄弟子がいい笑顔で待っていた。子にゃんこな私と山賊団長の織り成すほっこりできる日常・・・・とは無縁な。どう頑張ってもコメディだ。面倒事しかないじゃない!だから、人は嫌いよ~!!! 完結済み。 毎週金曜日更新予定 00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

処理中です...