寂しさを埋めるために飼ったヒモは、思っていたのと違う危険生物でした。

音央とお

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週末は借りた映画を見て、二人でご飯を作って、特番でやっていたバラエティ番組があまりに面白くて夜ふかしして。
特別なことはやっていないのに、小さな積み重ねが楽しくて穏やかな時間だった。

だから、それを壊しに来た男に私は腹が立った。

「春花!!」

会社を出て数十メートル離れた路上。
元カレ・大翔が待ち伏せをしていた。何でいるのかな?

知り合いの目があるので怒鳴ることが出来ず、睨むことしかできない。
大翔は「怖い顔するなよ~」とヘラヘラしている。

「……ちょっと移動しようか」

無視をしても騒がれるだけだと思うから、不本意だけど、大翔の腕を引っ張って喫茶店に入った。
つかまれているところが痛いと言われたけど知らない。余計に力を込めてやった。

「それで、何の用?」

「やっと会えたんだから急かすなよ」

「……やっと?」

言い方に引っかかった。

「まさか、何度も会いに来てた……?」

え? ストーカーなの?

今すぐ帰ろうかな、そうしよう。
腰を浮かせようとしたら、慌てたように大きく手を振りながら「大事な話がある」と引き止められた。

「くだらないことなら許さないから」

「そんなに目の敵にするなよ」

「浮気した男がそれを言う?」

苛立ちが募る一方だ。
早く本題に入ってほしい。

「一緒に暮らしてるあの男、春花の何なんだ?」

健太郎くんのこと?
それが本題なの?

「……同居してる人」

話がややこしくなるから、ヒモを飼っているとは言わないでおく。大翔は絶対に大騒ぎするに決まっているから。

「あいつ、ヤバいやつじゃないのか?」

「は?」

健太郎くんのことを知りもしない男が何を口出ししているの?

「だって、春花に全然会わせてくれないし、妙に威圧感あるし」

「……誰が?」

威圧感なんて別人じゃないの?
健太郎くんの体は大きいけど、大翔だって身長は高いほうだ。

「どうせ俺の言うことなんて信じないんだろう。だから、調べた!」

「何を?」

「あいつの素性。春花は知っているのか? 全部を」

素性……。
突きつけられた問いに何も言えなくなる。
聞いたこともなかったし、聞く必要もなかったから、知らない。

「見てくれよ、これ」

A4サイズの茶封筒がテーブルの上に差し出される。
興信所の住所と電話番号が隅に印刷されていた。

「そこまでして調べたの?」

「それはどうでもいいんだよ。中身! 中身を見ろ!」

急かされるので開けてみる。……何で得意げな顔をして待ってるんだろう、この男。

イライラしながら中に入っていた書類と写真に視線を落とした。そして、まず目に入ったのはスーツを着ている健太郎くんの姿だった。
今と違って、地毛であろう黒髪の真面目そうな青年がいた。

「……」

メモ付けされた日付が、ほんの数ヶ月前。
……健太郎くんって最近まで働いていたの?

口を閉ざした私に気づいていないのか、大翔はペラペラと喋り続けた。

「春花の家に転がり込んでから働いていないみたいじゃん? こんな真面目そうにしていたのに、あの真っ赤な髪にピアス。お前、あいつに搾取されてるんじゃないのか?」

「……。されてないけど?」 

「もっとよく経歴とか見てみろよ。せっかく調べたんだから」

バンッと机を叩いた。
わざと大きくしてやった。

狙いどおりに大翔は喋るのをやめ静かになった。

「余計なことしないで。私は何も頼んでない。あんたとは二度と関わりたくない。……もう来ないで!」

持っていた写真と書類を、その顔面に叩きつけた。
周囲から視線を集めているが知らない。あとは大翔が何とかすればいい。
私は勢いよく店を飛び出し、一人になれる場所を探した。

頭の中がぐるぐるする。
本当に余計なことをしてくれた!

あの言い方だと、大翔は健太郎くんが私のヒモになったと思っているんだろう。
……意味としては一緒だけど、全然違う。

私は彼をヒモだと思って紹介してもらったんだ。私と出会ってヒモにしたんじゃない!

「健太郎くんは、ヒモじゃなかったの? ……じゃあ、なんでうちにやって来たの?」

明らかになった違和感が気持ち悪い。
もしかして、健太郎くんは私に何か大事なことを隠していたりする?

……そんなわけない。

あの笑顔が嘘なわけ、ない。
あの笑顔を、嘘だと思いたくなかった。



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