寂しさを埋めるために飼ったヒモは、思っていたのと違う危険生物でした。

音央とお

文字の大きさ
20 / 28

20

しおりを挟む
先輩こと亜衣さんは、大学を卒業してすぐに結婚した。
出会って1年以内のゴールでスピード婚だねと結婚式では言われていた。

「赤ちゃんってこんなに柔らかいの?!」

日奈子が興奮しながら抱っこをしている。
首はすわっているけど、まだ人見知りをしない時期なのだそう。
ご機嫌なようでよく笑う子だった。

「ほら、春花も!」

「……うん」

恐る恐る抱っこする。
手足が小さい。目が澄んでいてとっても綺麗。

「かわいいな」って自然と口から出てきてしまう。

ミルクを飲むと満足そうに眠ったので、先輩と日奈子と私の3人はご飯を食べることにした。

亜衣さんのお宅に訪問だけど、片付けが大変だろうからとお弁当を買ってきたのだ。
日奈子が美味しいというフレンチのお店のおしゃれなやつ。
……健太郎くんのご飯も負けず劣らずの出来だな、なんて心の中で比べてしまった。

「二人が来てくれて嬉しい。人と全然会っていないから、今日はいっぱいお喋りしたい!」と亜衣さんが目を輝かせている。

「最近どうなの?」

質問をされ、首を傾げながら考える。
思いつく近況はどれも健太郎くんとのことばかりだ。

「亜衣先輩~、春花は同棲中なんですよ」

日奈子の言葉に目を見開く。
その言い方は誤解しない?!

「やだ! いつの間に? 先輩に聞かせなさいよ!」

……亜衣さんは、他人の恋バナ大好き人間だった。
与えられた餌には食いつくに決まっていた。

「どのくらい同棲してるの?」

「……もうすぐ4ヶ月かな」

「そのくらいの時期って喧嘩しない? ……で、喧嘩の後は燃えるのよねー」

なにが? 燃える?
何のことか分からず、曖昧に笑う。

「喧嘩はしないです。……優しいので」

笑顔が思い浮かぶ。
夜職の時は怒られたけど、あれは喧嘩じゃない。

「優しいんだ。いいなー」と亜衣さんが頷いていると、日奈子がまたも勝手に爆弾発言をした。

「相手は誰だと思います?」

「え? 私が知ってる人なの?」

「亜衣先輩は何度か会ってるはずです。同期生だし」

これには私も驚いた。
そうなの?

確かに年齢は一緒だけど……。

「えーっと、春花ちゃんと気が合いそうな人いたかな? もったいぶってないで教えなさい!」

大学の知り合いなんて沢山いる。
埒が明かないとばかりに、クイズは放棄されてしまった。
私が何も言えずにいると、日奈子がその答えを亜衣さんに手渡した。

「前島健太郎さんですよ」

日奈子め……。
亜衣さんは恋人と誤解しているけど、本当はヒモと飼い主なんだよ?
名前まで出して、どう説明すればいいの……。

このまま噂が広がったりしないかな?

「え? 前島くんってあの?」

「あの前島先輩です」

あのって、どの?

大学時代の健太郎くんを知らない私は、二人が言う“あの”が分からない。

……一番近くにいるのは私のはずなのに。
唇を噛みしめる。

「うん、いいと思う! 春花ちゃんと前島くんなら合いそうだもん。彼って誠実そうだもんね」

「……はい」

私が知らない頃の健太郎くんを知る人。
知らない健太郎くんが評価されていることに、胸がざわざわと煩くなった。

なんでだろう?

目の前の二人は記憶を共有して話に花を咲かせている。
健太郎くんのことなのに、私だけ仲間外れみたい。
こんなこと思いたくないのに、面白くないかも……。

「ふぇ……」と赤ちゃんが泣き出した。
亜衣さんが慌ててベビーベッドへと駆け寄る。

「あらら。もう起きちゃったの?」

会話が途切れてくれたこと、ほっとしたかも。。
過去の健太郎くんの話は聞きたくないって思っちゃった。

寝かしつけが終わるのを待ってから、再びお喋りが始まった。

「亜衣先輩はスピード婚だったじゃないですか。決め手はなんでした?」と日奈子。
気になることには遠慮のない女だ。

「それ、よく聞かれるんだけどさ」と亜衣さんは慣れた様子で話し始める。

「この人となら未来が見えると思ったんだ。半同棲もして、居心地も確かめた。……旦那のいない未来が逆に見えなくなったんだよ」

「そんな風に思えるなんて凄いですね」

「もっと長く付き合った人もいたけど、初めてそう思えた。結果的に良かったと思っているし、持論としては勢いも大事かな。もちろん慎重になるのも大切だけど」

「まだ相手もいないです」なんて言って日奈子は笑った。
それにうなずいた亜衣さんは、こちらに視線を移した。

「春花ちゃんはどう? 前島くんとのことを想像したことがある?」

「……いえ、全然」

カップルでもないのだから結婚なんて考えるはずがない。
誤解されたまま詮索されるのが嫌で、私は話題を別のものにすり替えた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】元恋人と、今日から同僚です

紗和木 りん
恋愛
女性向けライフスタイル誌・編集部で働く結城真帆(29)。 仕事一筋で生きてきた彼女の前に、ある日突然、五年前に別れた元恋人が現れた。 「今日から、この部署に配属になった」 そう告げたのは、穏やかで理性的な朝倉。 かつて、将来や価値観のすれ違いから別れた相手だ。 仕事として割り切ろうと距離を取る真帆だったが、過去の別れが誤解と説明不足によるものだったことが少しずつ見えてくる。 恋愛から逃げてきた女と、想いを言葉にできなかった男。 仕事も感情も投げ出さず、逃げずに選び直した先にあるのは「やり直し」ではなく……。 元恋人と同僚になった二人。 仕事から始まる新しい恋の物語。

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

32歳、恋愛未経験の私に彼氏ができました。お相手は次期社長で完璧王子なのに、なぜか可愛い。

さくしゃ
恋愛
32歳、恋愛未経験の私に彼氏ができました。お相手は次期社長で完璧王子なのに、なぜか可愛い。 「甘酒って甘くないんだ!」 ピュアで、 「さ、さお…ふしゅうう」 私の名前を呼ぼうとして呼べなくて。 だけど、 「し、しゅ…ふしゅうう」 それは私も同じで。 不器用な2人による優しい恋愛物語。 果たして私たちは 「さ…ふしゅぅぅ」 下の名前で呼び合えるのでしょうか?

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈

玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳 大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。 でも、これはただのお見合いではないらしい。 初出はエブリスタ様にて。 また番外編を追加する予定です。 シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。 表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。

うちの幼馴染がデレすぎてて俺の理性はもう限界。でも毎日が最高に甘いからもうどうでもいいや

静内燕
恋愛
相沢悠太の日常は、規格外の美少女である幼馴染、白石葵によって完全に支配されている。 朝のモーニングコール(ベッドへのダイブ付き)から始まり、登校中の腕組み、そして「あーん」が義務付けられた手作り弁当。誰もが羨むラブラブっぷりだが、悠太はこれを「家族愛」だと頑なに誤解(無視)している。 「ゆーたは私の運命の相手なんだもん!」と、葵のデレデレは今日も過剰の一途。周囲の冷やかしや、葵を狙う男子生徒のプレッシャーが高まる中、悠太の**「幼馴染フィルター」**はついに限界を迎える。 この溺愛っぷり、いつまで「家族」で通せるのか? 甘すぎる日常が、悠太の鈍感な理性を溶かし尽くす――最初からクライマックスの、超高濃度イチャイチャ・ラブコメ、開幕!

フリーランスエンジニアの優しすぎる無償の愛

春咲さゆ
恋愛
26歳OLの木崎茉莉は人生のどん底にいた。上手くいかないことに慣れ、心を凍らせることで自分を守る毎日に絶望した茉莉は、雨の夜に思わず人生の終わりを願ってしまう。そんな茉莉に手を差し伸べたかっこいい彼。茉莉は、なぜか無償の愛のような優しさをくれる不思議な男性に少しずつ救われ、前を向いていく。けれど、疑ってしまうほど親切な彼には、親切であり続ける理由があって……。雨の夜の出会いがもたらした、優しくも切ない物語。

エリート医務官は女騎士を徹底的に甘やかしたい

鳥花風星
恋愛
女騎士であるニーナには、ガイアという専属魔術医務官がいる。エリートであり甘いルックスで令嬢たちからモテモテのガイアだが、なぜか浮いた話はなく、結婚もしていない。ニーナも結婚に興味がなく、ガイアは一緒いにいて気楽な存在だった。 とある日、ニーナはガイアから女避けのために契約結婚を持ちかけられる。ちょっと口うるさいただの専属魔術医務官だと思っていたのに、契約結婚を受け入れた途端にガイアの態度は日に日に甘くなっていく。

処理中です...