寂しさを埋めるために飼ったヒモは、思っていたのと違う危険生物でした。

音央とお

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水族館当日。

電車とバスを乗り継いで水族館へと向かった。
時間は掛かるけれど、健太郎くんとお喋りしていればあっという間だった。

チケットを買うために並んでいると、若い女の子たちがこちらをチラチラと見ていた。会話に聞き耳を立ててみる。

「うわっ、あの赤い髪の彼すごくない?

「モデルさんかな? スタイルいいね」

着飾った健太郎くんの格好良さに見惚れているみたい。

これは私が買った服です!と言いたくなる。鼻高々な気分でいたら、今度は私が矛先になっていた。

「彼女もお洒落だね。彼氏と服装をリンクさせていて仲が良さそう」

……彼女、彼氏?

がっくりとうなだれる。
端から見られる評価はいつもこうだ。

でも、これって健太郎くんと並んでも認められているってことだよね?

ほんのちょっとだけ胸が温かくなった。
釣り合ってないとか言われなくて嬉しい。

目玉である白イルカは大人気のようで、水槽の前には人だかりが出来ていた。

「順番を待つしかないね」と健太郎くんが耳打ちしてきた。耳に掛かる吐息に、心臓が大きく跳ねた。

耳元で喋っているだけなのに、なんでドキドキするの?

「家にいる子と、どっちが可愛いかな?」

白イルカのぬいぐるみを思い浮かべているらしい。健太郎くんも愛着があるようだ。

「うわぁ~! 知能が高いとは聞いていたけど、白イルカってコミュニケーション能力がすごいね!」

水槽の前で眺めていると、愛くるしい動きを見せてくれて、完全にファンサだった。水の中を優雅に移動するその白さに釘付けになる。

「すごい」と語彙力の低下した感想を何度も口にした。
この時ばかりは健太郎くんのことは頭から抜け落ち、彼の反応を伺うことも忘れていた。

だから、「春花ちゃん」と呼ばれて我に返った。
……はしゃぎ過ぎた。

「ごめん、健太郎くん……」

一緒にいて恥ずかしかった?
なんて思いながら顔を見ると、健太郎くんはちょっと不貞腐れていた。

……ん?

「もし白イルカが家に来たら、春花ちゃんはそればっかりに夢中になりそう」

「……」

否定できない。
「帰ったら、あのぬいぐるみが余計に愛しくなるかも」と本音を漏らした。絶対に今日の感動を思い出しちゃう。

「俺のことも思い出してね」

「え?」

「一緒に見たことを、覚えていて」

「うん?」そんなの当たり前なのに。
健太郎くんは変なことを言う。

後ろ髪を引かれるけれど、他にも待っている人達がいたので水槽から離れた。そのまま違う水槽に目を向けるとエイが泳いでいた。

「健太郎くん、見て!」

そう言って無意識に伸ばそうとした指は、健太郎くんの手のひらに捕まえられた。

「はい、キャッチ」

「へ?!」

「春花ちゃんって、はしゃぐと袖を掴むのが癖なんだね」と楽しげな声で笑われた。

「え? そんなことしてる?」

「前にも、してたよ」

「……知らなかった」

思わぬ指摘に顔が熱くなる。
全然気づかなかった。
男性らしい手に触れられたまま、目をそらす。

……なんで離さないの、健太郎くん?
離してと言えばいいのに私も黙ってしまう。

「人が多いし、このまま繋いでおく?」なんて聞かれて、小さくうなずいた。

……これは飼い主と迷子にならないようにするためだから。

閉館までのんびりと過ごし、人の流れに巻き込まれながら出口へと向かった。
外に出ると握っていた手はそっと離された。
健太郎の手の動きを目で追ってしまったことはバレバレで。

「ホテルまで繋ぐ?」と聞かれた。
流石にもう迷子は言い訳にならない。

「……もう大丈夫だよ。早くホテルに行こう」

感触を思い出しながら歩いた。
守ってくれそうな大きな手に、優しく引っぱられたことが頭から離れない。

夕日のせいかな。
背中を見ていると、一緒にいるのに寂しいって思ってしまった。



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