最適解を選べない私たち

音央とお

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Side 青獅 2

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ある日、ダチに「美里と付き合い始めたん?」と聞かれたことがある。

付き合うっていうのは、恋人ってこと?
そんなものでないなって思った。

俺にとっての恋人は数日で終わるものだから、美里の部屋の時間をあと数日で終わらせるつもりはないなって。

別に関係に名前なんていらないでしょ?

関係に名前をつけたって、何の意味もないのは母親を見て知っているし。

そうやって曖昧にすることで居場所を作っていた俺に、美里は「そろそろ出ていってほしい」と告げた。
アイツが作るハンバーグが一番好きなのに、その瞬間に味がしなくなった。

「俺、行くところないんだけど」と素直に不貞腐れれば、一月の猶予はくれた。
……ああ、今回は本気なんだってその顔を見れば分かった。


結婚だとか
安定した仕事だとか
社会性とか


俺にはないものを美里は選ぶんだ。そんなもの盾にされたら、何も言えないに決まってる。

本当はすぐに出ていってやろうと思ったけど、気付いたらこの部屋に戻って来てしまう。頭で考えるよりも体がそう動いてた。
「やっぱりすぐに出ていって」と美里の気持ちが変わらないかだけ怯えて、なるべく避けるように生活した。
酒に溺れれば忘れられるのに、酔いが醒めると余計に辛い。

「おかえり」って出迎えてくれなくなった部屋。美里はいつも先に寝ている。
手を伸ばせば届くところにベッドはあるのに、もうあそこには俺のスペースはないんだと何度も思った。

出ていくことを決断した日、それは衝動的なものだった。
美里が出かけたあと、トイレに起きたことは覚えているけど、気付けばベッドの上で寝てた。
慣れ親しんだマットのせいで、寝惚けながら指が美里を探していた。
抱きしめる相手はそこにはいないのに。

また無意識にベッドに潜り込みそうで、もうこれが潮時なんだと思った。
普段は面倒くさがりだけど、この時は自分でも驚くほど動けた。
ほとんどやったことがない皿洗いまでして、少ない荷物を鞄に詰めて外へと出た。


合鍵はポストに入れておけば、いいよな?

これって、次は“社員さん”に渡すのかな。
……思い浮かんだ想像はエグかった。


*   *   *


美里の家を出てから、思いつく知り合いの家を転々とした。女の家は避けた。そんな気分じゃない。

「お前、とうとう見限られたの?」

心臓を抉るようなことを口にしたのは、成人式の日に美里に声を掛けたあのダチ。
無言で睨めば「おー、怖っ」と馬鹿にしたように笑った。
端から見れば険悪かもだけど、気心知れてるからやりあえる。

「美里の代わりなんていくらでもいるだろ」

励ましたつもりかもしれないが、聞き捨ては出来なかった。「は?」と腹の奥から低い声が出る。

代わり?・・・
そんなものはいない。
どこにもないハンバーグを作れて、だらしない俺を叱ってくれるのは美里本人しかいない。

「そんなにキレるなら、出てく必要はなかっただろ」

ちょっと引き気味に言われ、返す言葉がなかった。

「帰ってこい」と言ってくれないかって、まだ期待してる自分がいる。いつもならバッテリー切れでも気にしないスマホの充電もこまめにやってる。
こっちからする勇気はないくせに、あるはずのない連絡を待ってる。

美里と再会する前よりも、生きていくのがどうでもよくなった。どうせ俺にはなにもないんだがら。

クソみたいな男の人生に何の価値もない。

「なんかお前、目の奥の色がヤバいって。こっちがトラウマになるような死に方すんなよ?」
「……どうだろね」

衝動性だけはどうにもならない。
まだそこまで踏み出してはいないけど、ある日急には、あるかもしれない。

ダチは「言うか迷ったんだけどさ」と、どうして今まで伏せていたのかという話題を出してきた。

「俺の今の彼女って地元のやつじゃん?」
「誰だっけ」
「何回も話したじゃん……」

同じ中学の奴ってことしか覚えてない。
名前を言われても思い出せるような関わりがなかった。
で、そいつがどうした?

「母親と一緒にいる、美里っぽいやつを病院で見かけたって」
「……母親?」

そんなわけがない、と思った。
美里も母親とはいろいろあるようで、しばらく連絡を取っていないと話していた。
総合病院のロビーで見かけたら、何科なのかも分からないという。

「ものすごく顔色が悪くて、ただ事じゃないっぽかったってさ」
「は? なんだよ、それ」

あの部屋を出てから、何があった?
母親に頼ることのことが?

「おいおい、待て! こんな時間にどこに行く気だよ」 

止める声は聞こえたけど、衝動的に飛び出していた。
美里の顔を見ないと落ち着かない。
拒絶されてもいい。
あの部屋に美里が存在しているのを確認できるなら、それだけでいい。

気持ちだけは焦るのに、足がもつれそうになる。
こんなに走ったのはいつぶりだっけ?

怠けていた体を初めて後悔した。


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