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「仄香ちゃんがお母さんかぁ」
実感は沸かなかった。
『お母さん』の正しい姿を、近くで見たことがない。
でも、子どもが増えたら……『家族』らしくなるのかな。
私に家族。
……それは、少し眩しいと思った。
「ところで、何食べようか?」
「どうしようかな」
飲食店の並ぶエリアを歩きながら、私たちは迷っていた。
ファミレス、焼肉、居酒屋……。
どれも暫く訪れていなかったから、目移りしてしまう。
「ここなんてパン食べ放題だって」
「それも捨てがたいですね」
こうして何気ないことに盛り上がると、バイトをしていた時のことを思い出してしまう。
岡部さんはよく話しかけてくれてたな。
結局、回転寿司に決まったのだから不思議だ。
私たちはテーブルを挟んで向き合った。
「仄香ちゃんの旦那さんのこと、いろいろ聞いちゃおうかなー」
「旦那さん、ですか……?」
岡部さんが怖いと言っていた、あの客なんですけどね。
オタクである彼女に合わせたように言うならば、数年越しの『伏線回収』だ。
「……え、あの人と? ……まじで?」
面白いくらいに動揺を見せ、岡部さんは「どんな人だっけ」と細かいところまで思い出そうとしている。
「何がどうなったら、こんな美人と……?」
「いろいろあったので」
「いや、その色々が気になる」
そもそもの出会いのきっかけが、お母さんの恋人だった……なんて言えそうもない。
「彼に居場所を与えてもらった。……とだけ」
しーっと口に手を当てて、私は微笑んだ。
岡部さんはキツネにつままれたような表情だった。
「あの怖……お兄さんより、仄香ちゃんはイケメン君と付き合うものだと思っていたよ」
「……無かったですね」
橙夜とのこと、よく揶揄われていたよね。
実際は付き合っていたけど、それを知る人は誰もいない。
「あのイケメン君、メンズ雑誌のモデルをしているみたいだけど、10代の女の子たちに人気みたいよ」
「……へー」
「来週だったかな? 女性雑誌主催のファッションフェスタにゲスト出演するんだって。ランウェイを歩くみたい」
「詳しいんですね、岡部さん」
ちょっと情報通、過ぎない?
「実は大学時代の友達がそっち関係でね。よく見かけていた子がモデルになったみたいって話で盛り上がったんだよ。注目株みたいよ、彼。……これ食べる?」
鮪やサーモンを勧められる。
今の気分ではないから首を横に振った。
「完全にミーハーかもしれないけど、一方的とはいえ、知ってる子が有名になっていくのは優越感みたいなの感じるよね」
そうかなぁ?
……そんな気持ちに、なれなかったかも。
「……来週のイベント、か」
私の小さな呟きは、店内の喧騒に消されてしまった。
* * *
強靭な腕を枕にしながら、私はベッドの上で切り出した。
「ねえ」
「……なんだ」
「来週の週末のことなんだけど……行きたいところがあるんだ。出掛けてきてもいい?」
龍斗の指が髪を撫でる。
節くれ立った指は、その見た目からは意外なほど優しい。
「どこに行く気だ?」
ハスキーな声が行き先を確かめる。
「ファッションフェスタに。アクセサリー作りの参考にしたいの」
もっともらしい理由を告げれば、龍斗は「そうか」と言った。
「車を出そうか?」
「……周辺は混むだろうから、いいよ」
髪を撫でていた手が身体を弄ってきて、お臍の辺りで止まった。
上からぐっと押され、奥が締まった。
反応を揶揄うように、強弱をつけて押してくる。
吐息が震えた。
「迷子になるなよ。――奥さん」
「子どもじゃないんだから。大丈夫だよ」
方向音痴みたいに、言わないで欲しい。
それくらい大丈夫よ。
実感は沸かなかった。
『お母さん』の正しい姿を、近くで見たことがない。
でも、子どもが増えたら……『家族』らしくなるのかな。
私に家族。
……それは、少し眩しいと思った。
「ところで、何食べようか?」
「どうしようかな」
飲食店の並ぶエリアを歩きながら、私たちは迷っていた。
ファミレス、焼肉、居酒屋……。
どれも暫く訪れていなかったから、目移りしてしまう。
「ここなんてパン食べ放題だって」
「それも捨てがたいですね」
こうして何気ないことに盛り上がると、バイトをしていた時のことを思い出してしまう。
岡部さんはよく話しかけてくれてたな。
結局、回転寿司に決まったのだから不思議だ。
私たちはテーブルを挟んで向き合った。
「仄香ちゃんの旦那さんのこと、いろいろ聞いちゃおうかなー」
「旦那さん、ですか……?」
岡部さんが怖いと言っていた、あの客なんですけどね。
オタクである彼女に合わせたように言うならば、数年越しの『伏線回収』だ。
「……え、あの人と? ……まじで?」
面白いくらいに動揺を見せ、岡部さんは「どんな人だっけ」と細かいところまで思い出そうとしている。
「何がどうなったら、こんな美人と……?」
「いろいろあったので」
「いや、その色々が気になる」
そもそもの出会いのきっかけが、お母さんの恋人だった……なんて言えそうもない。
「彼に居場所を与えてもらった。……とだけ」
しーっと口に手を当てて、私は微笑んだ。
岡部さんはキツネにつままれたような表情だった。
「あの怖……お兄さんより、仄香ちゃんはイケメン君と付き合うものだと思っていたよ」
「……無かったですね」
橙夜とのこと、よく揶揄われていたよね。
実際は付き合っていたけど、それを知る人は誰もいない。
「あのイケメン君、メンズ雑誌のモデルをしているみたいだけど、10代の女の子たちに人気みたいよ」
「……へー」
「来週だったかな? 女性雑誌主催のファッションフェスタにゲスト出演するんだって。ランウェイを歩くみたい」
「詳しいんですね、岡部さん」
ちょっと情報通、過ぎない?
「実は大学時代の友達がそっち関係でね。よく見かけていた子がモデルになったみたいって話で盛り上がったんだよ。注目株みたいよ、彼。……これ食べる?」
鮪やサーモンを勧められる。
今の気分ではないから首を横に振った。
「完全にミーハーかもしれないけど、一方的とはいえ、知ってる子が有名になっていくのは優越感みたいなの感じるよね」
そうかなぁ?
……そんな気持ちに、なれなかったかも。
「……来週のイベント、か」
私の小さな呟きは、店内の喧騒に消されてしまった。
* * *
強靭な腕を枕にしながら、私はベッドの上で切り出した。
「ねえ」
「……なんだ」
「来週の週末のことなんだけど……行きたいところがあるんだ。出掛けてきてもいい?」
龍斗の指が髪を撫でる。
節くれ立った指は、その見た目からは意外なほど優しい。
「どこに行く気だ?」
ハスキーな声が行き先を確かめる。
「ファッションフェスタに。アクセサリー作りの参考にしたいの」
もっともらしい理由を告げれば、龍斗は「そうか」と言った。
「車を出そうか?」
「……周辺は混むだろうから、いいよ」
髪を撫でていた手が身体を弄ってきて、お臍の辺りで止まった。
上からぐっと押され、奥が締まった。
反応を揶揄うように、強弱をつけて押してくる。
吐息が震えた。
「迷子になるなよ。――奥さん」
「子どもじゃないんだから。大丈夫だよ」
方向音痴みたいに、言わないで欲しい。
それくらい大丈夫よ。
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