5 / 5
新城目線
しおりを挟む
なっちゃんの部屋から追い出された。
投げ捨てられた靴を拾い、階段を降りてゆく。
「うーん、だいぶ怒らせちゃったかな」
“新城とはキスしたくない”は悲しかった。
でも、あの泣き出しそうな表情、感情を露わにした姿……今でも気持ちは冷めてなかった証拠だろう。自然と口元が緩んでしまう。
つい先程まで一緒にいたベランダを見上げ、今日の会話を思い出していく。
カノジョがいないって信じて貰えなかったなー。
昨日ちゃんと別れたのに。相手がなかなか承諾をしてくれなかったので時間が掛かってしまった。
もっと、なっちゃんに信じてもらえるようにしたら良かったんだけど……気持ちが抑えきれなかった結果だ。早く会いたくて仕方がなかった。
初めて会った時から可愛い子がいるなと思っていたけど、俺とはタイプが違っていて怖がらせないように近付くことは控えていた。
たまたま図書館で一緒になって、案外俺のことを怖がらないんだなと思ったら嬉しくなってどんどん話し掛けるようになった。
そこに恋心なんてものはなくて、ただただ居心地が良かった。
本人はあまり自覚がないようだけど、あの子は庇護欲を擽るタイプだ。おとなしそうに見えて意外と大胆なところもあって、隙だらけで危なっかしい。
俺に告白したのだってその場の雰囲気に飲み込まれた勢いだったと思う。
直ぐに友達でいたいだなんてズルいこと言い出すから、なっちゃんは甘い。
今までみたいに構いたがるのはなっちゃんのためにも良くないかと考えていたけど、本人のほうが気まずそうな顔をしていて、それを見たら2人きりになるのは避けようと思った。
恋人も出来たので以前ほど集まりに参加しなくてもみんな変には思わなかった。人の目がある時は普通になっちゃんと会話も交わしていたけど、それだけだと何だかモヤモヤしたものが胸の中にあることに気付いた。
そして、カノジョといても得られない穏やかな時間は、なっちゃんとだから過ごせたのだと結論付けた。3ヶ月くらい要したかな?
最低と罵られたとしても、未練がちっともない恋人とはさっさと別れようと思ったけど、話し合いをしても別れたくないの一点張り。
その間に誰かに奪われやしないか目を光らせていたし、阿川が仄かになっちゃんに好意を抱いていると気付いて遠ざけたりもした。
阿川が恋人さえ作れば一先ず安心だと思うのに、なかなか成立しないから何度も合コンに付き合うハメになってしまったし。
いろいろ面倒なことはあったけど、それら全てが俺にとって気付きを与えたものだから良しとした。
「ん~♪」自然と鼻歌が出てしまう。
ほんの数分歩いたらコンビニの明かりが見えてきた。駅からなっちゃんのアパートまでの道のり、女の子が歩きやすいルートはここ1本なのは確認済み。
喉に渇きを覚えてコンビニに入店をし、食べ損ねたアイスとチューハイを選んだ。
商品を眺めながらふと考える。
あの家に残ったものはどうするんだろう? きっとなっちゃんは冷蔵庫を開ける度に複雑な顔をしている。
捨てられちゃう前に誤解を解いて仲直りしなくちゃね。
「ここで通りがかるのを待っていたなんて、あの子は気付きもしないんだろうな」
ガラスに歪に笑った自分の顔が映る。
周りに探りを入れてだいたいの帰宅時間は把握していたけれど、会えるまでいくらでも待つつもりだった。
なっちゃんに触れた指先で自分の唇をなぞる。
あ~あ、簡単には唇を奪えなかったな……。
あそこで拒否してしまうのがらしいといえばらしくて、しょうがないと思う。
でも、
「……全部、暑さのせいにして頭おかしくなっちゃえって思ったのに」
まだこの暑さは続くから、次こそは。
君の理性なんて奪われて、この手に落ちてしまえ。
投げ捨てられた靴を拾い、階段を降りてゆく。
「うーん、だいぶ怒らせちゃったかな」
“新城とはキスしたくない”は悲しかった。
でも、あの泣き出しそうな表情、感情を露わにした姿……今でも気持ちは冷めてなかった証拠だろう。自然と口元が緩んでしまう。
つい先程まで一緒にいたベランダを見上げ、今日の会話を思い出していく。
カノジョがいないって信じて貰えなかったなー。
昨日ちゃんと別れたのに。相手がなかなか承諾をしてくれなかったので時間が掛かってしまった。
もっと、なっちゃんに信じてもらえるようにしたら良かったんだけど……気持ちが抑えきれなかった結果だ。早く会いたくて仕方がなかった。
初めて会った時から可愛い子がいるなと思っていたけど、俺とはタイプが違っていて怖がらせないように近付くことは控えていた。
たまたま図書館で一緒になって、案外俺のことを怖がらないんだなと思ったら嬉しくなってどんどん話し掛けるようになった。
そこに恋心なんてものはなくて、ただただ居心地が良かった。
本人はあまり自覚がないようだけど、あの子は庇護欲を擽るタイプだ。おとなしそうに見えて意外と大胆なところもあって、隙だらけで危なっかしい。
俺に告白したのだってその場の雰囲気に飲み込まれた勢いだったと思う。
直ぐに友達でいたいだなんてズルいこと言い出すから、なっちゃんは甘い。
今までみたいに構いたがるのはなっちゃんのためにも良くないかと考えていたけど、本人のほうが気まずそうな顔をしていて、それを見たら2人きりになるのは避けようと思った。
恋人も出来たので以前ほど集まりに参加しなくてもみんな変には思わなかった。人の目がある時は普通になっちゃんと会話も交わしていたけど、それだけだと何だかモヤモヤしたものが胸の中にあることに気付いた。
そして、カノジョといても得られない穏やかな時間は、なっちゃんとだから過ごせたのだと結論付けた。3ヶ月くらい要したかな?
最低と罵られたとしても、未練がちっともない恋人とはさっさと別れようと思ったけど、話し合いをしても別れたくないの一点張り。
その間に誰かに奪われやしないか目を光らせていたし、阿川が仄かになっちゃんに好意を抱いていると気付いて遠ざけたりもした。
阿川が恋人さえ作れば一先ず安心だと思うのに、なかなか成立しないから何度も合コンに付き合うハメになってしまったし。
いろいろ面倒なことはあったけど、それら全てが俺にとって気付きを与えたものだから良しとした。
「ん~♪」自然と鼻歌が出てしまう。
ほんの数分歩いたらコンビニの明かりが見えてきた。駅からなっちゃんのアパートまでの道のり、女の子が歩きやすいルートはここ1本なのは確認済み。
喉に渇きを覚えてコンビニに入店をし、食べ損ねたアイスとチューハイを選んだ。
商品を眺めながらふと考える。
あの家に残ったものはどうするんだろう? きっとなっちゃんは冷蔵庫を開ける度に複雑な顔をしている。
捨てられちゃう前に誤解を解いて仲直りしなくちゃね。
「ここで通りがかるのを待っていたなんて、あの子は気付きもしないんだろうな」
ガラスに歪に笑った自分の顔が映る。
周りに探りを入れてだいたいの帰宅時間は把握していたけれど、会えるまでいくらでも待つつもりだった。
なっちゃんに触れた指先で自分の唇をなぞる。
あ~あ、簡単には唇を奪えなかったな……。
あそこで拒否してしまうのがらしいといえばらしくて、しょうがないと思う。
でも、
「……全部、暑さのせいにして頭おかしくなっちゃえって思ったのに」
まだこの暑さは続くから、次こそは。
君の理性なんて奪われて、この手に落ちてしまえ。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
嘘の誓いは、あなたの隣で
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢ミッシェルは、公爵カルバンと穏やかに愛を育んでいた。
けれど聖女アリアの来訪をきっかけに、彼の心が揺らぎ始める。
噂、沈黙、そして冷たい背中。
そんな折、父の命で見合いをさせられた皇太子ルシアンは、
一目で彼女に惹かれ、静かに手を差し伸べる。
――愛を信じたのは、誰だったのか。
カルバンが本当の想いに気づいた時には、
もうミッシェルは別の光のもとにいた。
だって悪女ですもの。
とうこ
恋愛
初恋を諦め、十六歳の若さで侯爵の後妻となったルイーズ。
幼馴染にはきつい言葉を投げつけられ、かれを好きな少女たちからは悪女と噂される。
だが四年後、ルイーズの里帰りと共に訪れる大きな転機。
彼女の選択は。
小説家になろう様にも掲載予定です。
愛はリンゴと同じ
turarin
恋愛
学園時代の同級生と結婚し、子供にも恵まれ幸せいっぱいの公爵夫人ナタリー。ところが、ある日夫が平民の少女をつれてきて、別邸に囲うと言う。
夫のナタリーへの愛は減らない。妾の少女メイリンへの愛が、一つ増えるだけだと言う。夫の愛は、まるでリンゴのように幾つもあって、皆に与えられるものなのだそうだ。
ナタリーのことは妻として大切にしてくれる夫。貴族の妻としては当然受け入れるべき。だが、辛くて仕方がない。ナタリーのリンゴは一つだけ。
幾つもあるなど考えられない。
貴方もヒロインのところに行くのね? [完]
風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは
アカデミーに入学すると生活が一変し
てしまった
友人となったサブリナはマデリーンと
仲良くなった男性を次々と奪っていき
そしてマデリーンに愛を告白した
バーレンまでもがサブリナと一緒に居た
マデリーンは過去に決別して
隣国へと旅立ち新しい生活を送る。
そして帰国したマデリーンは
目を引く美しい蝶になっていた
初恋にケリをつけたい
志熊みゅう
恋愛
「初恋にケリをつけたかっただけなんだ」
そう言って、夫・クライブは、初恋だという未亡人と不倫した。そして彼女はクライブの子を身ごもったという。私グレースとクライブの結婚は確かに政略結婚だった。そこに燃えるような恋や愛はなくとも、20年の信頼と情はあると信じていた。だがそれは一瞬で崩れ去った。
「分かりました。私たち離婚しましょう、クライブ」
初恋とケリをつけたい男女の話。
☆小説家になろうの日間異世界(恋愛)ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの日間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/18)
☆小説家になろうの週間総合ランキング (すべて)で1位獲得しました。(2025/9/22)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる