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第四章

中学三年 夏 ②

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 言われたことが理解できなかった。
 彼女は至って真面目な生徒だ。久しぶりに登校する私を気遣い、進んで声を掛けてきてくれた。
 そんな彼女が、こんな性質の悪い冗談を言うとは思えない。それだけに、私は酷く混乱した。

「学校で そう聞いたわよ。あの後、交通安全集会が何度も開かれたの」
「で、でも……」

 きっと、何かの間違いだと思った。
 だって陽斗は、一生守るって言ってくれたんだから。 ずっと一緒にいようって約束だってしたんだもの。
 それに――
「陽斗は今、海外に いるって……」
 漸く絞り出した声は、動揺のあまり震えていた。今思えば、父も母も頑なに 何か重大なことを隠しているような雰囲気だった。

 暫し沈黙の後、少し哀しげな顔を向けてきた彼女は。
「ご両親は多分……美織がショックを受けるのを心配したのよね。私、余計なこと言っちゃったかな」
 決まり悪そうに声をすぼめた。



 その日、学校から帰ると、真っ先に母に問うた。朝 聞いた話を、一刻も早く否定してもらいたかった。
 授業の間も休み時間もずっと頭から離れなかったけれど、これ以上混乱したくなかったから、学校では誰にも何も聞かなかった。その話題に触れてくる人もいなかったのは、私を気遣って――いや、元々そんな事故などなかったからだと、無理にでも思い込もうとしていた。

「いずれは本当のことを話すつもりだったのよ……」
 戸惑いを見せながらも やがて覚悟を決めたように口を開いた母は、箪笥の引き出しから一冊のノートを取り出してきた。
「これ、読んでみなさい」
 そんなに厚さはない、ごく普通のノート。青い表紙には、陽斗の名前が書かれている。懐かしい、彼の字。
 そっと、捲ってみると。日記の類だろう、そこには陽斗の想いが綴られていた。
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