僕らはミステリー愛好会! ~シリーズ全三話収録~

村崎けい子

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 ・(生きていると思いきや)幽霊――つまり既に亡くなっていました

 「ああ、これ! ファンタジー小説で、たまにあるよね」
 忠宏はこういうのも好きなのか、目を輝かせている。正体を知った瞬間、じんわりと胸に迫るものがあるのだという。 
 だけど、これは……叙述トリック好きな僕が唯一、あまり好きではないパターンかもしれない。それを口にすると、勇は訝しげな顔をみせた。 
「トリックに使うのに、幽霊がアウトってのは同意見だけどな。動物やモノならいいって感覚がよく分かんねぇ。俺には同じ類に思える」
「普通なら見えないものをあたかも見えているように書かれるのは、苦手なんだ」 
 主人公――視点のキャラがその状態で 周りからは見えない、見えるにしても その人自身も亡くなりかけてるとか元々霊感が強いとかっていうのがあれば、まだ納得できるんだけれど。
 そこまで話して、僕はふと思い出したことがある。
「勇はさ、『吾輩は猫である』をどう思う。人間じゃなく、猫――動物の視点で書かれた物語」 
「有名作家の代表作だよな。あれはトリックとは違うだろ。初めから、自分は猫だって明かした上での物語なんだから。そういう潔いのは割と好きだぜ」 

 さっきもちらっと口にしてたけど。勇にしても、叙述トリックが絡んでなければ設定自体はOKらしい。
 その感覚は、何となく分かる気がする。幽霊でしたパターンにしたって、初めからそういう設定と明かした上でなら、僕もすんなり受け入れられるから。 

「なら、いいじゃんかぁ。予め猫っていってあるのと、実は猫でしたっていうのの、どこがそんなに違うのさ。同じ猫目線の話じゃん」
 うん、忠宏の気持ちも分かるよ。動物でしたパターンは、僕も好きだから。

 そうだ、もう一つ思い出した。 
「じゃあさ、アンデルセンの『みにくいあひるのこ』は、どうかな。アヒルとか動物がしゃべってるのは、童話――というか、初めからそういう設定ってことで問題ないとして。〝実は白鳥でした〟ってことについてさ」
「え、それは――」
 挙げられた作品が意外だったのか、勇は答えを出しあぐねているようだった。
 あまりに有名な童話で、多くの人が 幼い頃よりその内容を知っている。純粋な心でそのまま受け止め、騙されたとマイナスな気持ちを抱く子どもは殆どいないんじゃないだろうか。
 忠宏は、横でうんうんと頷きながら 「いい話だよね、感動する。あれは名作だよね」って呟いている。何なら思い出し泣きまでしそうな雰囲気だ。 

 勇が漸く口を開いた。 
「――アヒルと思ってたけど白鳥でした、は、まあ あり得るんじゃないか」
「だよねぇ! そんなの考えるまでもないって」
 忠宏は嬉しそうに、勇の肩へ手を伸ばす。
「人間と思ってたけどチンパンジーでした、だってあり得るよねぇ」 
「いや、それはちょっと」
 肩に置かれた手を払うでもなく、勇は頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。 
「やばい。何か もう、よく分かんなくなってきた」
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