僕らはミステリー愛好会! ~シリーズ全三話収録~

村崎けい子

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第一の条件:矛盾がないこと

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「思ったんだけどさ。叙述トリックを使う場合にルールみたいなのはあるの? 」
「第一に、地の文で嘘を書いてはいけない」
 忠宏の質問に、勇が即答した。
「いくら騙したいからといって、嘘を書くのは反則」

 そう、本当は○○なのを、××と思わせたい場合。三人称・地の文で「××だ」と断定することは、ルール違反に当たる。
 少し暈した表現で、或いは嘘には該当しない巧みな言い回しで、××と思い込ませることが出来ればいいのだけど――
 
「地の文でってことは、会話文ならいいの? 」 
「そうだな。会話文なら、事実と違ってたって、それをしゃべってる奴が勘違いしてたってことにすればいい。何なら、そいつが嘘をついてたってことにしたって、辻褄は合う」  
 好きでないという割に、忠宏より余程詳しいらしい勇は、叙述トリックの条件を熱く語っていく。
 たまらず僕は、割って入った。そういうの、大好きだから。
「因みに。一人称小説だと、地の文でも問題ないよ。主人公の〝ぼく〟なり〝私〟にはそう見える、そう思える――なら、事実と違うことを断定したっていいわけで。更に言えば、三人称でも〝彼には そう思えた〟って書くのは構わない」 
「そういうことになるのか……それはまた厄介だな」
 勇は眉を寄せ、腕を組んだ。何か考え込む時の、彼の癖。
「けど、結末を知った上で読み返した時にも〝確かに本当だ、嘘は書いてない〟ってなることが、最低限必要なんじゃないか」 
「それは勿論、そう――」
「いや、待ってよ」
 僕を遮って、今度は忠宏が口を開いた。
「嘘も何も。創作ものの多くはフィクションが前提なんだし。ちょっとくらい……てか、かなり おかしいところがあったとしても、たいていのことは〝漫画だから〟とか〝小説だから〟のノリで通っちゃうんじゃないかなぁ 」
「そんなこと言ったら、何でもアリになっちゃうだろ」
 案の定、勇が すかさず反論してくる。 
「漫画にしても小説にしても、ちゃんと筋の通ったものでないと。読み返した時、矛盾やらこじつけを感じるものは駄目だと思うな。敬太は どう思う」
「う~ん……僕は、多少のこじつけは気にならないかな。読み返した時に、明らかな矛盾がなければいいと思うよ」 
「もう、何だよ、二人とも。そんな理屈っぽいことばっか言ってないでさ。面白ければ、何でもいいじゃんかぁ」
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