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本編
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家のベランダに出た中学生の彼は、足を止めると手すりまで体を近づけて、前へ顔を動かした。
先には、暗くなった空の中を、地平線のほうへ流れては消えていく光の線が多く映っていた。
「さすが、何十年に1回って言うだけはあるよなあ」
彼は言うと、頭で、夕方にやっていたテレビのニュースで流星群が、地球に最も近づいてきたということを思い出していた。
空のどこかしこで、現れては消えていく流星がいくつも眺められる。
彼はふと、脳裏で、お願いでもしてみようかと考えた。流星が現れている間、お願いを言ったら叶うという話は、信じてはいないが、やってみたい気持ちはあった。
加えて、彼はとある悩みを抱えていた。学校では、体力測定でどれも下から数えれば早い順位から、運動神経が悪かった。ほかに、テストの成績もそれと同じで、クラスでは運動神経と頭の悪さが際立っていて、よく茶化されることがあった。また、そろそろ女子と付き合いたいという単なる願望も持っていた。
「こう滅多にない機会だから、お願いを言ってみる価値もあるかもしれない」
彼はつぶやいてから、流星群がいつ消えるかわからないように感じてきて、心なしか焦りがほとばしってきた。
間を置いてから、彼は口を開いた。
「いい運動神経、いい頭、彼女が欲しい!」
叫んでから彼は急いで、ベランダから家の中へ戻った。近所のひとにばれたら、噂になりそうだからだ。
とはいえ、3つのお願いをした彼は、もしかしたら叶うかもしれないという変な期待を抱いていた。
翌日、テーブルの椅子に座って母親の作ったトーストをかじっている彼は、昨日のことを、馬鹿らしいということで頭から片づけていた。だから、お願いが叶うなど、当然ないとしていた。
突然、電子音のチャイムが鳴ってから、まだ起きていない父親の朝食を作っているのだろう、台所にいた母親が顔を向けた。
「もう来たみたいよ?」
「来たってだれが?」
「なにとぼけてるの?付き合っているんでしょ?彼女と」
母親がさも当然のように返事してから、正面を台所のほうへ向き直す。
一方で、彼はトーストを黙って口に運ぶ。
彼女って、おれの?
彼は朝食を済ませると、着がえていた制服姿で玄関を出た。
家の前には、腕組みをして、明らかに怒っているような表情をしている女子がいた。
「きみって、うちのクラスメイトだったよね?」
「なにとぼけてんの?彼女を待たせておいた男が言うセリフ?」
彼女は顔を突き出して、鋭い目つきをしてくる。彼は、相手がクラスメイトで、体力測定でどれも上から数えるほうが早く、しかもテストの成績もそれと同じ子であることを思い出した。
「いい運動神経、いい頭、彼女が欲しい‥‥」
「なにひとりでつぶやいてんの?」
彼女が聞いてくるが、彼はそれよりも、昨日の流星群でのことを頭に浮かべていた。
どうやら、お願いは叶ったが、3つのお願いは1つにされてしまったようだ。
つまりは、いい運動神経といい頭、彼女が欲しいという3つのお願いが、いい運動神経といい頭を持つ彼女が欲しいという1つのお願いとして現実で叶ってしまったのだ。
「勘違いされたのか‥‥」
「もう行こう!このままだと、学校に遅刻しそうになるし!」
彼女が腕を引っ張ってきたので、彼は、まあ、いいかと割り切って、連れられて、家を出た。
「ところで、昨日の流星群、見た?」
「見たよ。実際に見ると、すごいんだな」
「わたしさ、じつは、そのときにお願いをしたんだよね」
並んで走っている彼女は言うと、目を合わせてきた。彼は、同じことをするひとはいるんだなと心の内で漏らしていた。
「なんて願ったと思う?」
「わからないよ。そんなこと」
「悪い運動神経、悪い頭、彼氏がほしい」
彼女はゆっくりと発すると、校門の近くまで来て安心したのか、足を緩めた。
彼はお互いにほとんど正反対なことを願っていたことに少し驚いた。
「まあ、実際はそのお願いを1つのことだと勘違いしたみたいね」
彼女はため息をついた。
「だけど、朝に会った親とかは、いつもみたいに彼氏を迎えに行くんでしょ?とか言ってるみたいだから、わたしたちは付き合ってるってことになってるみたいだし」
彼女は言ってから、相手のことを気にせずに話していたことを察したのか、軽く頭を下げた。
「ごめん。意味わかんないことを口走ったみたい」
「いいよいいよ。だけどさあ、1つ気になるんだけど、なんで悪い運動神経と悪い頭を願ったんだ?」
「一度、そうなってみたいって願っただけよ。だけど、お願いを3つもやるのはさすがに欲張りすぎたかも。それに対する罰かな」
彼女がおもむろにつぶやく言葉を耳にして、彼は、おれもお願いを欲張りすぎたんだなと感じずにはいられなかった。
先には、暗くなった空の中を、地平線のほうへ流れては消えていく光の線が多く映っていた。
「さすが、何十年に1回って言うだけはあるよなあ」
彼は言うと、頭で、夕方にやっていたテレビのニュースで流星群が、地球に最も近づいてきたということを思い出していた。
空のどこかしこで、現れては消えていく流星がいくつも眺められる。
彼はふと、脳裏で、お願いでもしてみようかと考えた。流星が現れている間、お願いを言ったら叶うという話は、信じてはいないが、やってみたい気持ちはあった。
加えて、彼はとある悩みを抱えていた。学校では、体力測定でどれも下から数えれば早い順位から、運動神経が悪かった。ほかに、テストの成績もそれと同じで、クラスでは運動神経と頭の悪さが際立っていて、よく茶化されることがあった。また、そろそろ女子と付き合いたいという単なる願望も持っていた。
「こう滅多にない機会だから、お願いを言ってみる価値もあるかもしれない」
彼はつぶやいてから、流星群がいつ消えるかわからないように感じてきて、心なしか焦りがほとばしってきた。
間を置いてから、彼は口を開いた。
「いい運動神経、いい頭、彼女が欲しい!」
叫んでから彼は急いで、ベランダから家の中へ戻った。近所のひとにばれたら、噂になりそうだからだ。
とはいえ、3つのお願いをした彼は、もしかしたら叶うかもしれないという変な期待を抱いていた。
翌日、テーブルの椅子に座って母親の作ったトーストをかじっている彼は、昨日のことを、馬鹿らしいということで頭から片づけていた。だから、お願いが叶うなど、当然ないとしていた。
突然、電子音のチャイムが鳴ってから、まだ起きていない父親の朝食を作っているのだろう、台所にいた母親が顔を向けた。
「もう来たみたいよ?」
「来たってだれが?」
「なにとぼけてるの?付き合っているんでしょ?彼女と」
母親がさも当然のように返事してから、正面を台所のほうへ向き直す。
一方で、彼はトーストを黙って口に運ぶ。
彼女って、おれの?
彼は朝食を済ませると、着がえていた制服姿で玄関を出た。
家の前には、腕組みをして、明らかに怒っているような表情をしている女子がいた。
「きみって、うちのクラスメイトだったよね?」
「なにとぼけてんの?彼女を待たせておいた男が言うセリフ?」
彼女は顔を突き出して、鋭い目つきをしてくる。彼は、相手がクラスメイトで、体力測定でどれも上から数えるほうが早く、しかもテストの成績もそれと同じ子であることを思い出した。
「いい運動神経、いい頭、彼女が欲しい‥‥」
「なにひとりでつぶやいてんの?」
彼女が聞いてくるが、彼はそれよりも、昨日の流星群でのことを頭に浮かべていた。
どうやら、お願いは叶ったが、3つのお願いは1つにされてしまったようだ。
つまりは、いい運動神経といい頭、彼女が欲しいという3つのお願いが、いい運動神経といい頭を持つ彼女が欲しいという1つのお願いとして現実で叶ってしまったのだ。
「勘違いされたのか‥‥」
「もう行こう!このままだと、学校に遅刻しそうになるし!」
彼女が腕を引っ張ってきたので、彼は、まあ、いいかと割り切って、連れられて、家を出た。
「ところで、昨日の流星群、見た?」
「見たよ。実際に見ると、すごいんだな」
「わたしさ、じつは、そのときにお願いをしたんだよね」
並んで走っている彼女は言うと、目を合わせてきた。彼は、同じことをするひとはいるんだなと心の内で漏らしていた。
「なんて願ったと思う?」
「わからないよ。そんなこと」
「悪い運動神経、悪い頭、彼氏がほしい」
彼女はゆっくりと発すると、校門の近くまで来て安心したのか、足を緩めた。
彼はお互いにほとんど正反対なことを願っていたことに少し驚いた。
「まあ、実際はそのお願いを1つのことだと勘違いしたみたいね」
彼女はため息をついた。
「だけど、朝に会った親とかは、いつもみたいに彼氏を迎えに行くんでしょ?とか言ってるみたいだから、わたしたちは付き合ってるってことになってるみたいだし」
彼女は言ってから、相手のことを気にせずに話していたことを察したのか、軽く頭を下げた。
「ごめん。意味わかんないことを口走ったみたい」
「いいよいいよ。だけどさあ、1つ気になるんだけど、なんで悪い運動神経と悪い頭を願ったんだ?」
「一度、そうなってみたいって願っただけよ。だけど、お願いを3つもやるのはさすがに欲張りすぎたかも。それに対する罰かな」
彼女がおもむろにつぶやく言葉を耳にして、彼は、おれもお願いを欲張りすぎたんだなと感じずにはいられなかった。
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