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本編
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とある中学校にある保健室の先生をしている美代は、今日もうっすらと染めた金髪に白衣を着て、けがのためにやってきた生徒の相手をしていた。
今いる生徒は三年の女子で、クラスでは勝気な性格でリーダーのような役割をしていて、男女ともにから、人気がある子だった。
「それで、校庭にあった小石につまずいて転んでしまったってわけね」
「はい」
やってきた体操服姿の彼女は、すりむいた膝に目を向ける美代のほうに顔をやってうなずく。
美代はすりむいたところを眺めるなり、すぐに消毒液とガーゼなどで応急処置を施した。
「後はバイ菌とかが入らないように気をつけるぐらいね。とりあえずは、今日の体育は大人しく見学してなさい」
「ありがとうございます。あのう、ところで、先生」
「なに?」
美代は机に向かって書類を書き出そうとしたところで呼ばれたので、顔を動かした。
まだ丸椅子に座っている生徒は、両手を膝に伸ばして目を合わせてくる。
「付き合っているひととかっているんですか?」
「付き合っているひと?そうね、今はいないわ」
美代はてっきり、学校がいやとかそういう話かと身構えたので、思わず、笑みをこぼしていた。
「今はってことは、やっぱり過去にはいたんですよね?」
「そうね。まあ、何人ぐらいかしら?数えてみたことがないけど‥‥」
「それじゃあ、先生はわたしと同じときにはだれかと付き合っていたりしたんですか?」
「あなたと同じときね。ということは十五年前かしら‥‥」
美代は言っているときに頭の中で、十五年前、つまり、中学三年のころを思い出していた。今年でもうすぐ三十になる美代にとって、中学生のころは最近の話ではすでになくなっていた。保健室に来る生徒らが年齢に対して気を使っているのか、年のことを最近は話してこようとはしないところが、今と中学生のころの間が長くなっていることをおぼろげに感じていた。
「十五年前って言えば、そうね、わたしがクラスの男の子に片思いしていたころじゃないかしら」
「えっ!?先生にもそういうところがあったんですか?」
「あら、わたしはいつから、一途な面がないっていうことになったのかしら?」
「いえ、ただその、ちょっと意外だなって思って」
生徒は申し訳なさそうに言うと、軽く頭を下げた。
「まあ、わたしにもそういう青春の一ページがあったってことよ」
美代は口にすると、机に向き直り、書類を再び書きはじめる。だが、後ろにいるはずの生徒は去るどころか、立ち上がる気配がないほど、静かだった。
「どうしたの?まだなにか気になることでもあるのかしら?」
「いえ、その、先生は結局、その男の子に告白したんですか?」
「ううん。結局は卒業するまで言えなかったわ。恥ずかしくてね」
美代は過去の自分について話すことがどこか恥ずかしくなってきて、顔がうっすらと熱くなっていた。
「先生はそのことを後悔しているんですか?」
「さあ、どうだろうね。もう十五年前の話だから、今はあまり思い出さなくはなっているけど、こう話していると、やっぱり後悔の念みたいなものは感じるわね」
「やっぱり、時間が経っても、後悔するものは後悔するんですね‥‥」
生徒はおもむろに小声で口にする。
美代は生徒がなにか言いたそうに思えてきて、また顔を向けた。
「あなた、なにか抱えていることでもあるんじゃないかしら?」
「やっぱり、そう見えますよね」
生徒は答えると、真剣そうな眼差しを動かしてきた。
「先生、実はわたし、最近になって好きなひとができたんです」
「それはよかったじゃない。女の子は恋をしなくちゃね」
「だけど、そのひとに打ち明けるべきかどうか悩んでいるんです」
生徒はこぼすと、視線を窓のほうへ逸らした。困ってどうすればいいかという様子をしているようだった。
「恥ずかしいの?」
「それもあるんですけど、ただ、言ったら、そのひとは当惑するかもしれないと思って‥‥。もしかしたら、わたしのことをきらうかもしれなくて‥‥」
「あらあら、随分と弱気なのね。皆の前では勝気なところも見せているのに」
「そうですよね‥‥」
生徒はため息を漏らすと、顔を垂れた。よほど、告白することが不安らしい。
美代は体を前に乗り出して、生徒の頭に手をやった。
「とりあえず、もう少し詳しく話してごらんなさい。先生でもよければ、力になるわ」
「先生‥‥」
顔を上げた生徒は瞳がうるんでいて、今にも涙がこぼれそうだった。
「それで、その好きなひとっていうのはだれなの?」
声をかけるも、生徒はすぐには答えずに、しばらく、間が空いた。
「わたしが好きなひとはその‥‥、先生です」
今いる生徒は三年の女子で、クラスでは勝気な性格でリーダーのような役割をしていて、男女ともにから、人気がある子だった。
「それで、校庭にあった小石につまずいて転んでしまったってわけね」
「はい」
やってきた体操服姿の彼女は、すりむいた膝に目を向ける美代のほうに顔をやってうなずく。
美代はすりむいたところを眺めるなり、すぐに消毒液とガーゼなどで応急処置を施した。
「後はバイ菌とかが入らないように気をつけるぐらいね。とりあえずは、今日の体育は大人しく見学してなさい」
「ありがとうございます。あのう、ところで、先生」
「なに?」
美代は机に向かって書類を書き出そうとしたところで呼ばれたので、顔を動かした。
まだ丸椅子に座っている生徒は、両手を膝に伸ばして目を合わせてくる。
「付き合っているひととかっているんですか?」
「付き合っているひと?そうね、今はいないわ」
美代はてっきり、学校がいやとかそういう話かと身構えたので、思わず、笑みをこぼしていた。
「今はってことは、やっぱり過去にはいたんですよね?」
「そうね。まあ、何人ぐらいかしら?数えてみたことがないけど‥‥」
「それじゃあ、先生はわたしと同じときにはだれかと付き合っていたりしたんですか?」
「あなたと同じときね。ということは十五年前かしら‥‥」
美代は言っているときに頭の中で、十五年前、つまり、中学三年のころを思い出していた。今年でもうすぐ三十になる美代にとって、中学生のころは最近の話ではすでになくなっていた。保健室に来る生徒らが年齢に対して気を使っているのか、年のことを最近は話してこようとはしないところが、今と中学生のころの間が長くなっていることをおぼろげに感じていた。
「十五年前って言えば、そうね、わたしがクラスの男の子に片思いしていたころじゃないかしら」
「えっ!?先生にもそういうところがあったんですか?」
「あら、わたしはいつから、一途な面がないっていうことになったのかしら?」
「いえ、ただその、ちょっと意外だなって思って」
生徒は申し訳なさそうに言うと、軽く頭を下げた。
「まあ、わたしにもそういう青春の一ページがあったってことよ」
美代は口にすると、机に向き直り、書類を再び書きはじめる。だが、後ろにいるはずの生徒は去るどころか、立ち上がる気配がないほど、静かだった。
「どうしたの?まだなにか気になることでもあるのかしら?」
「いえ、その、先生は結局、その男の子に告白したんですか?」
「ううん。結局は卒業するまで言えなかったわ。恥ずかしくてね」
美代は過去の自分について話すことがどこか恥ずかしくなってきて、顔がうっすらと熱くなっていた。
「先生はそのことを後悔しているんですか?」
「さあ、どうだろうね。もう十五年前の話だから、今はあまり思い出さなくはなっているけど、こう話していると、やっぱり後悔の念みたいなものは感じるわね」
「やっぱり、時間が経っても、後悔するものは後悔するんですね‥‥」
生徒はおもむろに小声で口にする。
美代は生徒がなにか言いたそうに思えてきて、また顔を向けた。
「あなた、なにか抱えていることでもあるんじゃないかしら?」
「やっぱり、そう見えますよね」
生徒は答えると、真剣そうな眼差しを動かしてきた。
「先生、実はわたし、最近になって好きなひとができたんです」
「それはよかったじゃない。女の子は恋をしなくちゃね」
「だけど、そのひとに打ち明けるべきかどうか悩んでいるんです」
生徒はこぼすと、視線を窓のほうへ逸らした。困ってどうすればいいかという様子をしているようだった。
「恥ずかしいの?」
「それもあるんですけど、ただ、言ったら、そのひとは当惑するかもしれないと思って‥‥。もしかしたら、わたしのことをきらうかもしれなくて‥‥」
「あらあら、随分と弱気なのね。皆の前では勝気なところも見せているのに」
「そうですよね‥‥」
生徒はため息を漏らすと、顔を垂れた。よほど、告白することが不安らしい。
美代は体を前に乗り出して、生徒の頭に手をやった。
「とりあえず、もう少し詳しく話してごらんなさい。先生でもよければ、力になるわ」
「先生‥‥」
顔を上げた生徒は瞳がうるんでいて、今にも涙がこぼれそうだった。
「それで、その好きなひとっていうのはだれなの?」
声をかけるも、生徒はすぐには答えずに、しばらく、間が空いた。
「わたしが好きなひとはその‥‥、先生です」
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