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びーぜろ

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第200話 VS万秋会②

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「さて、どうしたものか……」

 狭間俊介と岡田美緒の二人が暴力団関係者である事はわかっている。
 一度、会って話したいと言っていたが、その言葉を信じ、会いに行ったが最後、まず間違いなく攫われるだろう。
 恐らく、会田さんも二人を説得しに行って、そのまま捕まり監禁でもされているのだろう。
 警察に捜索願を出そうとして止められた所から察するに狭間俊介と岡田美緒の二人は話をそこまで大きくしたい訳ではないのかも知れない。
 恐らく、会田さんも無事な筈だ。

 準暴力団とはいえ、エレメンタルがいれば簡単に制圧する事が可能である。
 しかし、単身で暴力団関係者の下に向かう気にはなれない。
 暴力団を制圧したらまず間違いなく報道される。
 警察も黙ってはいないだろう。誰が暴力団を制圧したのか、又は壊滅状態に追い込んだのか捜査する筈だ。

 ここは法治国家日本。
 個人が暴力団組織を制圧、又は壊滅状態に追い込む事は法的に許されていない。
 しかし、馬鹿正直にのこのこ着いて行けばどうなるかなんて火を見るより明らかだ。

 それならば、どうするのが正解か。
 簡単な事だ。餅は餅屋。暴力団の事はその道のプロである警察に任せるに限る。

 そう考えた俺は、待ち合わせ時間より十分程早く新橋駅西口へと向かう事にした。

 ◇◆◇

 ここは新橋駅西口。
 新橋駅西口に到着してすぐ、俺は事前に用意しておいた時計の入ったキャリーバックを新橋駅西口広場の蒸気機関車前に置くと、闇の精霊・ジェイドの力を借りて狭間俊介の姿に変装し、近くの交番へと向かった。
 それにしても、交番の近い新橋駅西口を指定するなんて迂闊な奴だ。
 そんな事を思いながら、交番の前に立っている警察官に声をかける。

「すいません。ちょっと、よろしいですか?」
「はい。どうしました?」

 うん。とても丁寧な対応だ。
 非常に好感が持てる。体格もガッシリしているし、強面。
 これなら暴力団の前に出しても問題なさそうだ。

「――すいません。新橋駅西口広場に不審なキャリーバックが置いてあるみたいなんですが、確認して頂けますか?」
「不審なキャリーバックですか? わかりました。少々お待ち下さい」

 そう言うと、警察官は交番に入り、他の警察官に声をかけると外に出てくる。

「お待たせしました。それでは、案内して下さい」
「はい」

 そう言って、警察官を新橋駅西口広場に誘い込む。
 そして、時計の入ったキャリーバックを指差すと、「あ、あそこです!」と声を上げた。

 お芝居はここまでだ。
 警察官がキャリーバックに近付いた事を確認すると、俺はその背後に立ち人目を隠す。そして、警察官の姿を闇の精霊・ジェイドの力で俺の姿そっくりに変えると笑みを浮かべた。

「うーん。中から何やら音がしますね……」

 当然、当の本人は気付いていない。
 すると、丁度良く。新橋駅西口で俺の姿を探す狭間俊介が見えた。
 俺が両手を振ると、気付いた様でどう考えても一般人ではなさそうな雰囲気の男二人と共に走ってくる。

 これでよし……。

 俺は近くの茂みに隠れると『隠密マント』を被り、俺の姿をした警察官と狭間俊介達のやり取りを確認する為、至近距離でカメラを回す。

「おい。こいつが高橋翔だな?」
「ああ、そうだ……」

 そう言うと、男達は俺の姿をした警察官の肩に手を伸ばす。
 その瞬間、俺の姿をした警察官が男達の存在に気付いた。

「なっ!? 何だ、お前達はっ!」
「まあまあ、暴れるなよ。痛い目に遭いたくないだろ? お前は着いてくるだけでいい」
「そうそう。騒ぐなよ? 俺達は準暴力団の万秋会だ。聞いたこと位あるだろ?」
「――じ、準暴力団・万秋会!?」

 おお、流石は警察官。準暴力団・万秋会の事を知っているらしい。

「……私をどこに連れて行く気だ? 何故、こんな事をするっ!」

 逃げられないと悟ったのだろう。
 俺の姿をした警察官が、狭間俊介を睨みながら言う。
 すると、狭間俊介は前髪を弄りながら答えた。

「ふふふっ、わかるだろ? 静かにしていれば、何もしない。まずは着いて来て貰おうか……ああ、それともう一つ。暴れたり、俺が要求する事を断った場合、会田さんの命は無いものと思え」
「そうそう。愛しの会田ちゃんは俺達が監禁しているんだからなぁ」

 本物の警察相手に行う恫喝。
 そして、監禁行為の自白。
 流石は、準暴力団・万秋会の暴力団員。
 警察を前にして堂々と犯行を自白するとは……流石である。

「会田ちゃんを監禁? お前達……こんな事をして許されると思っているのかっ!」

 そして、警察官も流石だ。
 男三人VS一人。どう考えても勝ち目がないのに立ち向かっていくそのスタイル。
 嫌いではない。

「ははっ、良いから着いて来いよ。抵抗したら、会田さんがどうなるか……わかっているな?」

 そう言うと、男は近くに停めてあった黒いハイエースに向かって歩き始めた。
 俺はすかさず、警察に110番するとハイエースのナンバープレートプレートを読み上げる。

「大変です。今、目の前で、警察官一人が男三人組に連れ去られました! 男達が乗り込んだ車は黒のハイエース、ナンバーは、板橋599 あ〇✕ー◇★です! 新橋駅西口広場横にあるパーキングエリアから出ようとしています。これからできる限り追跡したいと思うので、電話は切らないで下さい」

 そう言って、スマホをポケットにしまうと、『隠密マント』で姿を隠しカメラを持ったまま、ハイエースの収納スペースに乗り込んだ。
 どうやら、俺を攫ってさっさとこの場から撤収するつもりだったようだ。ハイエースのドアがすべて開いていたから簡単に侵入できた。
 しかし、ハイエースの中は広いな……。

 俺の姿をした警察官は、男達によって両手両足を縛られ、ハイエースの収納スペースに放り込まれている。
 他の男達が座席に座ると、ハイエースはそのまま発車した。

「こんな事をしてタダで済むと思っているんじゃないだろうな……」

 勇敢にも、俺の姿をした警察官が準暴力団・万秋会の組員に向かってそう呟く。
 すると、それを聞いた男達は爆笑した。

「あははははっ! 面白い奴だな、コイツ!」
「自分の立場がわかっていないのか? お前は俺達に攫われたんだよ!」
「会田ちゃんもお前に会いたがってるぜ? 私の安全の為に宝くじ研究会を素直に万秋会に渡してーってよぉ!」

 おい。そこのチンピラ。余計な事を言うんじゃない。
 手足を縛られ横になっている方をどなたと心得る。
 桜の代紋を背負った警察官様であらせられるぞ!

 宝くじ研究会・ピースメーカーの名を出して、調査が入ったらどうするつもりだっ!

 仕方がないので、『隠密マント』を被ったまま、片手を振り上げると、余計な事を言ったチンピラの頬に思い切りビンタをかます。

 ――ドンッ!

 という音を立て、ドアに頭をぶつけるチンピラ。
 きっと当たり所が悪かったのだろう。
 そのまま気絶し、動かなくなってしまった。

 突然の事に驚く組員達。

「……お、おい、大丈夫か?」

 そう声をかけるもチンピラ君は動かない。
 当たり所が悪かったのだろう。
 とはいえ、これで口の軽いチンピラは夢の世界に旅立った。
 もう余計な事を口走る奴はいないと信じたい。

「……それで、私をどこに連れて行く気だ」

 チンピラ一人が突然、気絶し、お通夜みたいな空気がハイエース内に流れる中、俺の姿をした警察官が口を開く。

 おお、そうだ。いいぞっ!
 もっと聞け!

 すると、組員の一人が声を上げる。

「……ふん。いいだろう。特別に教えてやる。今からお前は万秋会が経営するフロント企業に連れていくんだよ!」
「何なら、ここで返事を聞かせて貰ってもいいぜ? フロント企業には今、万秋会全組員が集結しているからよぉ!」

 そうか。そのフロント企業には、万秋会の全組員が集結しているのか……。
 電話口に耳を当てて見ると、電話の向こう側が騒がしい。
 もしかしたら、警察が動き出してくれているのかも知れない。

「……おいおい、だんまりか? まったく、そんなに金が欲しいかねぇ? 可哀想な会田ちゃんだぜ」
「おい……。その会田という女性は無事なんだろうな?」

 正義感で尋ねているのだろう。
 俺の姿をした警察官がそう尋ねる。
 すると、組員は下卑た笑みを浮かべ答える。

「うん? ああ、無事だぜ。今はな……。勿論、お前が作った組織を俺達に譲り渡すというのであれば、すぐにでも解放してやるぜ?」

 下衆野郎が……。
 そう簡単に譲り渡せる訳ねーだろ。一体、何人の人生を預かっていると思っているんだ。
 まあ、万秋会がそいつ等の人生をちゃんと預かってくれるというのであれば譲ってやってもいいけど、上澄みを掬う事しか考えていない様な奴等にそれができるとは思えない。

 まあ、課金アイテム『レアドロップ倍率』がないと、そんな組織、一瞬にして破綻するだろうけどね。
 何を隠そう宝くじ研究会・ピースメーカーは、俺、無くしては存続できない。そんな組織になっているのだよ。

 そんな事を考えていると、俺の姿をした警察官が呟く様に言う。

「……それなら会田という女性を解放しろ。交渉には私がいれば問題ないのだろう?」

 おお、中々、恰好良い事を言う。
 しかし、それだと、宝くじ研究会・ピースメーカーを準暴力団に上げる事になってしまう。宝くじやスポーツ振興くじが暴力団の資金源になってしまうんだぞ?

 宝くじ研究会・ピースメーカーがどんな組織か分からず適当な事を言っているが、警察官として勝手な発言は控えた方がいい。
 まあ、人命を優先する警察官の気持ちもわかるけどね。

 すると、その発言が気に食わなかったのか、組員の一人が、俺の姿をした警察官の頭を鷲掴みにし、顔を床に強打した。

「うぐっ!?」

 そう言って悶絶する警察官の頭に唾を吐く。

「……格好付けてるんじゃねーぞ。意見できる立場だと思っているのか? 思い上がるのもいい加減にしろ!」

 まったくもってその通り……。同感だ。
 やってくれたなぁ、お前。
 俺のランニングシューズに、お前の汚い唾がかかったじゃねーかぁぁぁぁ!

 心の中でそう叫び声を上げると、俺は今、唾を引っ掛かった奴の頭を鷲掴みにする。

「えっ?」

 突然、頭を鷲掴みにされた組員がそう呟くと共に、男の頭を思い切り床に叩き付けると、走行中のハイエースが上下に揺れた。

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 2022年12月28日AM7時更新となります。
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