飯が出る。ただそれだけのスキルが強すぎる件

びーぜろ

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第1章 城塞都市マカロン

第30話 後日談

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 ゴブリン侵攻から3日後、ヒナタは評儀祭の行われた城で、城塞都市マカロンの領主、ハードリクト・マカロンから表彰を受けていた。
 なぜ、3日後に表彰を受けているのか、それは、評儀祭開催中にゴブリンの侵攻があったこと。そして、その優勝者である俺ことヒナタがその間、意識を失っていたからに他ならない。

(スキルって、かなり精神力を持っていかれるんだな……。いや、精神力というよりかは眠気のようなものか……)

 3日間意識を失っていたと聞かされた時にそう思ったものだ。
 どうやらスキルは無制限に使える訳ではないらしい。
 スキルを使うと精神力……。もとい、眠気がどんどん強くなり、最後は眠気に負けて眠りにつく。
 おそらく、スキルの使用は脳に尋常ではない負担がかかるのだろう。
 そして、スキルの使用により酷使した脳の疲労が回復するまで起き上がることができなくなる。

(俺が思うに、この世界でいう精神力が強い人というのは、眠気に負けずスキルを使い続けることができる人のことをいうのだろう)

 そんなことを考えながら、前に視線を向けると、ハードリクトが表彰状を広げた。

「ヒナタよ。此度の件、そなたの働きは実に見事であった。城塞都市マカロンの領主として、礼を述べさせてもらう」

 ハードリクトが深く頭を下げ、表彰状を手渡すと、式に出席している人たちから拍手が起こる。

「あ、ありがとうございます」

 引き気味にそう言うと、ヒナタは表彰状を受け取る。

 どうやら、この表彰は闘儀の表彰ではなく、ゴブリンの侵攻を食い止めたことに対する表彰のようだ。
 それもそのはず、評儀祭自体が、ゴブリンの侵攻により中断させられてしまった。
 それに、中断したとはいえ、決勝戦でハーフゴブリンを倒した際、ヒナタはハードリクトから報酬を受け取っている。

 表彰状を受け取り、用意された席に戻ると、ヒナタはため息を吐く。

 今日になって知ったことだが、今回のゴブリン侵攻はマカロン各所に大きな爪痕を残したらしい。

 まず、軍務卿であるマス・ウラギリーの叛乱。
 これは城塞都市マカロンの軍部を揺るがす大問題となった。
 軍部の実質トップがゴブリンに寝返っていたのだから当然だ。
 事実、マスは与えられた権力をフルに活用し、マカロンを害する目的で、ハーフゴブリンを軍に配備した。
 モーリーがマスの思惑に気付かなければ……。テールスがマスを止めていなければ、今頃、マカロンはゴブリンに侵略されていたはずだ。

 事態を重く見たハードリクトは、マスの思惑に気付き、止めるためいち早く動いた功績をもって、信頼のおける息子、モーリーを空席となった軍務卿に配置し、東門の門番で同僚のコリーを補佐に付けた。
 いち早く動いたことを功績といっては微妙だが、ハードリクトとしては、信頼のおける人物を軍務卿に置きたかったのだろう。
 また城塞都市マカロンで手広く商いをしていたゴールドメッキ商会の会頭、キンメッキが死罪となった。
 孤児院を利用した人身売買に手を染めていたこともそうだが、ハーフゴブリンがゴブリン侵攻に一役買っていたことが決定打となったようだ。

 死罪が決まった後も牢屋で『ち、違う。私はなにも知らなかった! なにも知らなかったんだぁぁぁぁ!』と、懺悔の言葉を叫んでいたらしいが、つい先日、断頭台の露となって消えたらしい。
 ちなみに、ゴールドメッキ商会の経営は、キンメッキの息子が継ぐことになった。
 死後、1日目にしてキンメッキには、多くの隠し子が存在することが発覚し、それを元にお家騒動が勃発しているらしい。第二、第三のキンメッキが生まれぬことを願うばかりだ。

 ちなみに、教会の元神父、ゲスノーは行方不明。ゲスノーと共謀し、エナとナーヴァの両名に借金を背負わせ逃亡したミラは、孤児院を利用した人身売買に手を染めていたことを理由に投獄されることとなった。
 まあこの辺りは順当な結果である。
 当然、人身売買や教会で不正に得た金はすべて没収。それに伴い、エナ、ナーヴァ両名の借金も帳消しとなった。
 エナ、ナーヴァに被せた借金は、服役後、ミラ本人が返済していくことになる。

「それでは、閉会とする。皆の者、本日はよく集まってくれた」

 そんなことを考えているうちに、表彰式は閉会の時を迎えたようだ。
 ハードリクトがそう告げると、マカロンの領主一族が大広間から退室していく。

(どうやら俺は、表彰を受けるため、ここに呼ばれたらしい)

 城の医務室で目覚めてすぐ連れてこられたので、そうとは知らなかった。
 領主一族が退室したのを見計ると、他の人たちに続く形でヒナタも城の外に出る。

「はぁー、緊張したー」

 最後に表彰状を受け取ったのは、小学生以来のことだ。
 やはり、偉い人から表彰されるというのは、酷く緊張する。

「さて、行くか……」

 ヒナタは肩を伸ばすと、子供たちの待つ教会に向かって歩き出す。

「うーん。3日ぶりだし、会いに行きづらいな……。皆が俺のことを忘れていたらどうしよう……」

 それはそれで、なんだか悲しい気もする。
 クヨクヨそんなことを思っていると、大地創造の神、テールスが話しかけてきた。

――なに、女々しいことを言っているんですか。まだ3日しか経っていませんし、大丈夫ですよ――

「ええ……。そうかなぁ……」

 テールスは簡単にそう言うが、人の心は複雑なのだ。この感情をあえて言葉に表すなら、学校を数日間休んだ後、学校に登校する感覚と似ている。とにかく、気恥ずかしいのだ。
 気弱気味にそう呟くと、テールスはヒナタを勇気付けるように言う。

――ええ、きっと大丈夫ですよ。それにあなたには見せたいものがあります――

「うん? 見せたいもの?」

 そういえば、あれから教会はどうなったのだろうか?
 よく考えて見れば、ゴブリンとの戦いであの辺り一帯が崩落したような……。
 意識と共に記憶まで消し飛んでいたのだろうか。そのことを思い出したヒナタは顔を真っ青に染める。

「あ、あれ……? あれあれ⁇ (あ、あれれー、おかしいぞ……? テールスの言う見せたいものってなんだ? まさかとは思うけど、ぶっ壊れた教会じゃないよね? エナさんやナーヴァさん、孤児院の子供たちは今、どうして……)」

――まあまあ、顔を上げてください。ほら見えてきましたよ。あれが私の見せたいものです――

「えっ?」

 テールスに言われ顔を上げる。
 すると、そこには、綺麗に再建された教会と孤児院があった。

 ◆◆◆
 
 表彰式終了後、城塞都市マカロン、城の中にある領主室では、領主であるハードリクト、そして、その息子であるモーリーと、側近であるコリーが神妙な表情で話し合いをしていた。
 
「――なに? ヒナタがいなくなっただと?」
「はい。式典が終わってすぐ声をかけようとしたのですが、いつの間にかいなくなっていて……」

 参列者の退出に合わせて出て行ったのだから当然だ。

「式典終了後、待っているように伝えたと思っていたが、伝達ミスがあったか……」

 今回の式典は非公式に行われたもの。
 参列者もそれなりの格がある者たちに限っている。
 ヒナタが目覚めてすぐ行われた式典ということもあり、伝達がうまくいかなかったようだ。

「申し訳ございません。私が直接、伝えるべきでした」

 コリーの発言をハードリクトは手で制する。

「いや、此度の件は、私に落ち度がある。本来ならヒナタの体調が落ち着いてから行うべきだった。式典をこのタイミングで行うと決めたのは他でもない私の判断なのだからな……」

 ゴブリンによるマカロン侵攻から3日。
 ハードリクトのスキルにより、都市内部の整備は終わり、表面上は平穏に見えるが、城塞都市マカロンは現在、非常に厳しい状態に置かれている。

「……やはり、食料調達は難しそうか?」
「はい。ゴールドメッキ商会の会頭、キンメッキの死罪が尾を引いています。それに加え、ゴブリンの侵攻が活発化しており、他領から食料を補給するのは難しいかと……」
「そうか……」

 現在、マカロンは食料危機に陥っている。
 マスと内通していたキンメッキを死罪にしたことや、お家騒動勃発により商会の求心力が落ちたことも原因の一つではあるが、一番の原因はゴブリンの他領による侵攻が活発化していること。
 これにより、他領との交流は途絶え、食料の確保が難しくなっている。

「やはり、ゴブリン・シャーマンに進化したゲスノーを取り逃したのが痛かったな……」
「ええ、報告によると、ゲスノーによく似たゴブリンが侵攻に加わっているようです」

 ゴブリン・シャーマンに進化したゲスノーは屍を操る。不死の群勢を嗾けられては、嗾けられた側は溜まったものではない。
 しかし、今更、そのことを悔やんでも仕方がない。

「ゲスノーについては、次に相対した時、必ず倒す。それで話はお終いだ。問題の食料についてだが、ヒナタの協力は得られそうか? マカロンの領主として、私もできるだけのことをするつもりだが……」

 ハードリクトがそう問いかけると、コリーは苦い表情を浮かべる。

「彼は優しい人間です。協力を得ることはそう難しくはないでしょう。問題は……」
「この機に乗じて暴利を貪ろうとする商人の存在か……」

 食料難になると、食料の値段が跳ね上がる。
 需給バランスが崩れることにより発生する問題だ。

「今は城の備蓄を供給することで、物価を抑えていますが、それにも限りがあります。長くは保たないでしょう」
「そうか……。頭の痛くなる問題だな。私の黒髪が領主になったことで白髪になったように、今度はそれによるストレスで頭が禿げ上がりそうだ」

 ハードリクトの言葉を聞き、モーリーは「くっ」と笑いを堪える。
 コリーが笑いを堪えるモーリーを軽く睨むと、ハードリクトが「コホン」と咳き込んだ。

「……まあ、冗談はさておき、ヒナタの協力を得られるかどうかで、この先の対応が決まる。コリーよ。ヒナタの対応は、お主に任せても構わぬか?」
「はい。私にお任せください。それに、これを見越して、ヒナタ君の願いを聞き届けたのでしょう?」

 コリーの問いにハードリクトはわざとらしくそっぽを向いて答える。

「なにを言っているのかよくわからぬな。私は領主として当然のことをしたまでだ」

 ハードリクトがスキル越しに再建したばかりの教会を視ると、教会のシスターであるエナとナーヴァ、そして、子供たちに囲まれるヒナタの姿が見える。
 どうやら、3日ぶりの再会を喜んでいるようだ。

「闘儀でヒナタに目を付けた者は数多く存在する。それほどまでに、ヒナタのスキルは有用だ。望むと望まざるとに拘わらず、周囲の者がヒナタのことを放っておかぬだろう」

 マスを倒した直後、テールスはこう言った。

「『私が懇意にしている教会をいの一番に再建してくれると嬉しいですね』」と……。

 ゴブリン・ジェネラルに進化したマスを倒すため、あの辺り一帯を更地にしたのは、他でもないハードリクト自身。
 元より補償はするつもりだった。

「ふっ、率先して、教会の建て直しをしたのは正解だったようだな……」

 ヒナタが気にしていた、エナとナーヴァの借金は帳消しとなり、ミラが不当に掠め取っていた寄付金は、ハードリクトが肩代わりした。
 当分の間、運営資金に困ることはないはずだ。

「……願わくば未来永劫、この地に住む者たちには笑顔でいてほしいものだ。苦しむのは我々だけでいい」

 そう呟くと、ハードリクトは視点を部屋の窓に切り替える。
 窓からは燦々とした太陽の光が射し込んでいた。
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