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びーぜろ

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第六章 商業ギルド対立編

第154話 狂気のリマ②

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 まるで自分の言葉が届いていないかのように、話を進めるマスカットにリマは一瞬、マスカットが何を言ったのか理解できずにいた。

「――ッ!?」
 
 どうでもいい? どうでもいいとは何だ? どうでもよくないだろッ!

「……ふっ、ふざけるなぁぁぁぁッ!」

 リマは怒りのあまり、床をクネクネと這いずり回る。

「いや、ふざけてなどいない。支援金不足分はリマ、貴様の資産や事業を売却してでも補填させてもらおう。」

「あれは私の財産だ! なぜ私が資産や事業を売却してまで愚図共の支援金を負担しなければならないッ!?」

 リマが怨嗟の声を上げるなか、一人蚊帳の外に置かれていた財務大臣が口を開く。

「マスカット殿、リマ氏は今や、王城内で殺人を犯そうとした重罪人。この者を犯罪奴隷に落とし、財産刑で、リマ氏の保有するすべての財産を没収しては如何ですかな? 犯罪奴隷に財産は不要でしょう。」

 財産刑とは、刑罰を受ける者の財産をはく奪する刑罰のことを指し、罪の重さにより、『没収』、『罰金』、『科料』の3つがある。
 軽犯罪を犯した者は、犯罪奴隷に落とされた上で、『罰金』、『科料』のどちらか一方が科され、重犯罪を犯した者は、犯罪奴隷に落とされた上で、『罰金』もしくはすべての財産をはく奪される『没収』が科される。

 リマが王城で行った行為は、立派な重犯罪。
 なにせ、殺人未遂とはいえ、王城で国の重要な要人を殺害しようとしたのだ。

 しかし、マスカットは財務大臣の案を拒否する。

「財務大臣。それではリマの持つ財産のすべてがフェロー王国の物となってしまい、支援金の対象となる商会に白金貨100,000枚(約100億円)の支援金が行き渡らなくなってしまう。もしフェロー王国でリマを裁くのであれば、『罰金』刑にして頂きたい。」

「しかし、それでは……。」

 フェロー王国の国庫が潤わない。
 商人連合国アキンドの評議員リマの資産や事業ともなれば、年間白金貨500,000(約500億円)の売上を生み出す金の卵。折角、多額の金を生み出す評議員の一人が堕ちてきたのだ、フェロー王国としては、何としてでも手に入れたい。

「……財務大臣は、リマに乗せられたとはいえ、一時的に脱退しているAランク商人、佐藤悠斗のユートピア商会を国営企業にしようとしたんだったな。これは商人連合国アキンドと敵対関係になり……。」

「わかった! リマ氏には『罰金』刑が相当だ、いや私もそう思っていたんだ。本当だ、本当だぞ!? 他の者が何を言おうが私が進言しよう!」

 そもそもお前に司法権はないだろうに白々しい。そう思いながらもマスカットは言葉をつづける。

「そうか。それは何よりだ。リマよ、よかったな。犯罪奴隷に落とされても罰金刑で済むそうだぞ。」

 マスカットは皮肉を込め、リマに声をかける。

「いい気になるなよマスカット……。それよりいいのか、佐藤悠斗? こんなところに居て……。」

「どういうことだ? リマ、貴様なにを考えている!」

 悠斗の代わりにマスカットがリマの問いに答える。

 しかし、本当にどういうことだろう?
 まさか、ユートピア商会の従業員に刺客でも送られた……。まさか子供たちに何か!?

 いや、そもそもリマとは面識がないし、ほぼ初対面にも拘らず、なんでこんなにも恨まれているのか分からない。

「……分からなければそれでいい。マスカット! 貴様も誰を追い詰めてしまったのかよく考えるといい!」

「お前何をしたッ! 何をしたんだッ!! まさかっ……。」

 リマが何をしたか本当に分からなかったから、とりあえずそれっぽく『まさかっ……。』といってみたが引っかかってくれるだろうか?

「フフフ、そうだッ! ユートピア商会とその従業員、貴様の邸宅に刺客を放ったんだよッ! 貴様の子供たちはこの国にいないようだから仕方がないが、私だけが破滅するなんて許さん! 貴様も道連れだッ!! もちろん、その元凶たる支援金対象の商会たちもな……。ここにマスカットさえいなければ、うまくことを運べていたのに残念だよ! 貴様の子供たちもこの王国に帰って来た時、すべてを失った貴様を見て悲しみに暮れることだろう! まったく愉快な気分だよッ!」

 思った以上にノリのいい人だった。
 自分が何をやったのかペラペラと話してくれる。
 こんな出会い方をしていなかったら友達になれたかもしれない。初対面から敵対視されていたから無理かもしれないけど……。

 リマの話を聞いたマスカットは怒り心頭だ。もちろん俺も怒りに震えている。

「……リマ、堕ちるところまで落ちたな。貴様には失望した。」

「黙れ! 黙れよッ!! 貴様たちがこの私にこんな真似をさせたんだろうがッ!! 私をそんな目で見るんじゃない!」

 リマは【影縛バインド】に縛られたまま、クネクネと身体を動かし、涙を流しながらこちらを睨みつけてくる。

「マスカットさん……。」

 悠斗はマスカットに視線を向ける。

「わかった。ここは私たちに任せてユートピア商会に急げ!」

「ありがとうございます!」

 悠斗はマスカットにお礼を言うと、リマを収納指輪に入っていた紐で縛り上げ、急ぎユートピア商会に向かった。
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