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第九章 商人連合国アキンド編

第330話 商人連合国アキンド道中③

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「ぐはははっ! どうした坊主、座らないのか?」
「そうだ、そうだ! そいつの言う通りだ。座らないと危ないぞ! まあ座ったとしても見ての通りのボロ馬車だ。尻に振動がダイレクトに伝わってくるから坊主にはキツいかもしれないがなぁ!」

 馬車の中に入ると凶悪な人相の二人組が腕を組みながら向かい合う様に座っていた。

「そ、そうですね? あはは……」

 どちらの席に座ろうか酷く迷う。
 すると、凶悪な人相の二人組のうちの一人が俺の腕を掴んだ。

「ほらほら、まあ座れよ。立ってると危ないぞ」
「ぐはははっ! 違いねぇ! まあ俺達みたいな強面の隣に座るのは勇気がいるだろうがなぁ!」

 あっ、強面なのは自覚してるんだ……。

 そんな事を思っていると、俺の腕を掴んだ強面の男が反論する。

「一緒にするんじゃねぇ! 強面はお前だけだろうが! 俺はお前とは違うんだよ! なあ坊主、坊主もそう思うだろ?」

『いえ、お二方共に強面ですが』とは言い難い空気だ。
 とはいえ、この人には聞かなければならない事がある。
 意を決した俺は、腕を掴んできた男の隣に座ると、笑顔を浮かべた。

「いやー、強面なんてとんでもない。お二方共に凛々しいお顔立ちで羨ましいです」

 俺がそう言いうと、馬車の中の空気が静まり返る。

 な、何か拙い事を言ってしまっただろうか、最大限褒めに徹したつもりだったんだけど。
 というより、それ以外の言い方が思いつかなかったんですけど……。
 それとも何か?
 実は『確かに強面ですね』というのが正解だったとか?
 でも俺の腕をつかんで離さないこの強面のおじさんは、なんだか嫌がっていた様な気がするし……。

 答えが見つからないまま、立ち尽くしていると、二人組男が顔を見合わせ笑い出した。
 意外な事に笑顔を浮かべてくれると、あまり怖く感じない。
 ただ、唾を飛ばしながら喋るのだけは止めてほしい。

「ぐはははっ! よかったじゃねーか! 凛々しいお顔立ちだとよ!」
「お前もなぁ! 坊主、お前は見所があるぜ! 俺達の顔を見て凛々しい顔立ちだなんて、よく分かっているじゃねーか!」
「は、はあ。ありがとうございます……」

 隣に座っている男が俺の肩をバンバン叩きながら笑顔を浮かべている。
 豪く機嫌が良さそうだ。
 これなら、ユートピア商会の評判を落としたいお偉いさんとやらの情報を聞く事ができるかもしれない。

「そういえば、先程、並走していた馬車はなんだったんですか?」

 あの馬車に乗っていた御者さんは、同業者と言っていた。
 多分、盗賊とか工作員的な何かだと思うけど、一応、俺の敵かどうか位は確認しておかなければならない。

「ぐはははっ! 何だ? お前、知らずにあの馬車を……そういや、あの馬車そういやどうなったんだ? 地面に溶け込む様に消えていった様な……」
「まあいいじゃねーか! あの馬車は俺達の同業者だ。大方、俺達の依頼を横取りしようとしていたんだろうぜ!」
「依頼?」

 俺が首をコテンと傾けると、強面二人組が質問に答えてくれる。

「おお、そうだ! 今俺達はユートピア商会が足場を販売した商会を順次周り、依頼主が渡してきたすぐ壊れる足場の交換をしているんだ!」
「リスクは高いが金になる仕事よ! どうやら依頼主はユートピア商会を潰したいらしい。そんな事をバルトとか言う名の爺がぼやいていたと、俺達にこの仕事を依頼してきた奴が言っていた!」
「まあ、そんな事はどうでもいいがなぁ! この仕事をやり遂げたら大量の金貨が貰えるらしいし、俺達はその金貨目当てに働いているのさ!」

 なるほど、バルドという人が主犯格か、しかし、この人達、人災に繋がると分かっていながら壊れやすい足場と交換に回っているなんて、なんて奴等だ。

 俺は拳を握り締めながら、強面の男達に話しかける。

「因みに、その仕事をする事でいくら位貰えるんですか?」
「ぐはははっ! 聞いて驚けっ! 一件交換する事に白金貨一枚よ! もう十件は回ったからな白金貨十枚は硬いぞ!」
「そうだ! 白金貨十枚は硬い! これ程楽に金を稼ぐ手段そうないぞ!」

 いや、リスクに対してリターンが低すぎやしないだろうか?
 今、強面の方々がやっている事はユートピア商会の足場を購入した商会を周り、壊れやすい不良品と良品の交換を人知れず行う犯罪だ。

 それにより怪我人や死人が出る可能性があるにも関わらず金の為にそんな事をやっている。
 とても許せる事ではない。

 しかし彼等はユートピア商会の会頭である俺を目の前に自分達のやってきた事を力説している。
 この機会を逃す手はない。
 折角、目の前で犯行を自白してくれているんだ。
 最後まで聞く事にしよう。

「へえ、それは凄いですね! それで、今日の仕事はもう終わったんですか?」
「いや、これからもう一度機材を受け取りに向かう所だ。こんな稼ぎのいい仕事、いつまで続くかわからないからな! 興味があるなら坊主も行くか?」
「えっ? いいんですか?」

 俺がそう言うと、強面の男が豪快に笑う。

「勿論だ。何せ坊主は俺達の恩人だからな!」
「それじゃあ、よろしくお願いします!」
「おうよ! 任せておけっ!」

 こうして俺は、強面の男二人組と共に、偽足場の受取先へと向かう事になった。
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