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第十章 冒険者ギルド編
第445話 グランドマスターとの話し合い⑦
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嗚咽を漏らしながら泣き喚くモルトバを一瞥すると屋敷神はグランドマスターに話しかける。
「まあ、モルトバ様が犯罪奴隷に堕とされる事は分かりました。それで、我々が冒険者ギルドの経営に参画する件について返事を聞かせて頂けますか?」
「う、うむ……」
屋敷神にそう問われたグランドマスターは再び考え込む。ハーブティーを啜りながら待つ事、三十分。
グランドマスターは神妙な表情を浮かべながら顔を上げると、椅子に手をつき立ち上がる。
「本来であれば、もっと時間をかけて検討するべきなのでしょうな……しかし、現状、フェロー王国の冒険者ギルドはギルドの体裁が取れないほど人材が不足しております。冒険者ギルド全体で考えてもそうです。ユートピア商会に所属の高ランク冒険者が多数脱退してしまった事は、冒険者ギルド全体の損失……それが商業ギルドに移籍してしまったとあれば、冒険者ギルドとして商業ギルドとの共生を図らなければなりません」
随分と長い沈黙だったけど、ちゃんと考えを巡らせていたらしい。
涙を枯らし、虚な表情で椅子に腰掛け天井を眺めているモルトバと、神妙な表情でこちらに視線を向けるグランドマスター。未来をなくしたモルトバと、これからの未来に思い馳せるグランドマスターが対照的に映る。
そして、少しの沈黙を置き、グランドマスターが頭を下げた。
「……冒険者ギルドをよろしくお願いします』
この三十分、グランドマスターの頭の中では、様々な葛藤があったのだろう。
それほどまでに長い三十分だった。
その間、ハーブティーを二回ほどお代わりする位には……。
それにしても、流石は屋敷神である。白金貨の回収は勿論、まさか、冒険者ギルドの経営に参画して下さいとグランドマスターに頭を下げさせるとは……。
これで、商人連合国アキンドに続き、冒険者ギルドの中核にまで根を這った訳か……。
一つの商会がここまで大きな力を持つと、誰が思っただろうか。
「ええ、冒険者ギルドを一緒に盛り立てて行きましょう」
屋敷神はグランドマスターの前に立つと、軽く握手を交わした。
「細かい事は後日、打ち合わせるとして、差し当たり、モルトバの処分から始めましょうか」
「えっ? いや、しかし、モルトバは既に犯罪奴隷となる事が確定して……」
「いえいえ、これだけの被害を出したのです。モルトバの受け入れ先位決めさせて頂いても問題ないでしょう?」
「う、うむ……確かに。それを言われては仕方がありませんな……」
屋敷神は少し考える素振りをすると、何故か俺に視線を向けてきた。
「そうですね……悠斗様。モルトバ様の事は、ユートピア商会で受け入れるというのは、如何でしょうか?」
「えっ、ユートピア商会に受け入れるの? モルトバさんを??」
いや、正直言って受け入れたくないんだけど……。
俺、高圧的にものを言ってくる人苦手だし……。
チラリとモルトバに視線を向けると、乾いた笑みを浮かべながら虚ろな目で天井を眺めているのが目に映った。
ま、まあ、これなら大丈夫か?
屋敷神の事だ。きっと、考えあっての事だろう。
「べ、別にいいけど……」
俺がそう呟くと、屋敷神が手を叩きグランドマスターに視線を向ける。
「ありがとうございます。それでは決まりですね。グラン様、という事で、モルトバ様はこちらで引き取らせて頂きます」
「え、ええっ……よろしくお願いします」
心なしかグランドマスターも戸惑っている様に見える。
まさか、ユートピア商会でモルトバの事を引き取ると思っていなかったのだろう。
しかし、こんな状態のモルトバ、使い物になるのだろうか?
犯罪奴隷を引き取ったというだけでも、風評被害が立ちそうなものだけど……実に心配だ。
そんな事を考えていると、屋敷神がこちらに視線を向けてくる。
「ご安心下さい。この者の事は、私が適切な環境で管理致しますので……」
「う、うん。よろしく……」
「はい」
屋敷神はそう返事をすると、笑顔を浮かべながら頷いた。
しかし、モルトバの事は、もう『この者』扱いか……。
多分、屋敷神の中でモルトバは冒険者ギルドを手中に収める為の道具に過ぎず、既にどうでもいい存在なのだろう。
そして、モルトバの事を一瞥すると、屋敷神はグランの下に歩み寄る。
「グラン様、本日はご足労頂きありがとうございました。冒険者ギルドを率いるグラン様とは、今後とも良い関係を築いていく事ができそうです」
「そ、そうですか、それはよかった……」
「細かい点については、後日、冒険者ギルドにお伺いした時に打ち合わせましょう。それでは、玄関口までご案内致します」
そう言うと、屋敷神は客間の扉を開け、グランドマスターを玄関口まで案内していく。
「本日は話し合いの機会を頂き誠にありがとうございました。モルトバの事はよろしくお願い致します」
「ええ、ご安心下さい。折角、素晴らしい協力関係を築けたのです。借金奴隷となった冒険者達についてこちらでも調べてみます」
「何から何までありがとうございます。それでは、また後日……」
グランドマスターは頭を下げながらそういうと、邸宅の前に付けていた馬車に乗り込み冒険者ギルドへと帰っていった。
「まあ、モルトバ様が犯罪奴隷に堕とされる事は分かりました。それで、我々が冒険者ギルドの経営に参画する件について返事を聞かせて頂けますか?」
「う、うむ……」
屋敷神にそう問われたグランドマスターは再び考え込む。ハーブティーを啜りながら待つ事、三十分。
グランドマスターは神妙な表情を浮かべながら顔を上げると、椅子に手をつき立ち上がる。
「本来であれば、もっと時間をかけて検討するべきなのでしょうな……しかし、現状、フェロー王国の冒険者ギルドはギルドの体裁が取れないほど人材が不足しております。冒険者ギルド全体で考えてもそうです。ユートピア商会に所属の高ランク冒険者が多数脱退してしまった事は、冒険者ギルド全体の損失……それが商業ギルドに移籍してしまったとあれば、冒険者ギルドとして商業ギルドとの共生を図らなければなりません」
随分と長い沈黙だったけど、ちゃんと考えを巡らせていたらしい。
涙を枯らし、虚な表情で椅子に腰掛け天井を眺めているモルトバと、神妙な表情でこちらに視線を向けるグランドマスター。未来をなくしたモルトバと、これからの未来に思い馳せるグランドマスターが対照的に映る。
そして、少しの沈黙を置き、グランドマスターが頭を下げた。
「……冒険者ギルドをよろしくお願いします』
この三十分、グランドマスターの頭の中では、様々な葛藤があったのだろう。
それほどまでに長い三十分だった。
その間、ハーブティーを二回ほどお代わりする位には……。
それにしても、流石は屋敷神である。白金貨の回収は勿論、まさか、冒険者ギルドの経営に参画して下さいとグランドマスターに頭を下げさせるとは……。
これで、商人連合国アキンドに続き、冒険者ギルドの中核にまで根を這った訳か……。
一つの商会がここまで大きな力を持つと、誰が思っただろうか。
「ええ、冒険者ギルドを一緒に盛り立てて行きましょう」
屋敷神はグランドマスターの前に立つと、軽く握手を交わした。
「細かい事は後日、打ち合わせるとして、差し当たり、モルトバの処分から始めましょうか」
「えっ? いや、しかし、モルトバは既に犯罪奴隷となる事が確定して……」
「いえいえ、これだけの被害を出したのです。モルトバの受け入れ先位決めさせて頂いても問題ないでしょう?」
「う、うむ……確かに。それを言われては仕方がありませんな……」
屋敷神は少し考える素振りをすると、何故か俺に視線を向けてきた。
「そうですね……悠斗様。モルトバ様の事は、ユートピア商会で受け入れるというのは、如何でしょうか?」
「えっ、ユートピア商会に受け入れるの? モルトバさんを??」
いや、正直言って受け入れたくないんだけど……。
俺、高圧的にものを言ってくる人苦手だし……。
チラリとモルトバに視線を向けると、乾いた笑みを浮かべながら虚ろな目で天井を眺めているのが目に映った。
ま、まあ、これなら大丈夫か?
屋敷神の事だ。きっと、考えあっての事だろう。
「べ、別にいいけど……」
俺がそう呟くと、屋敷神が手を叩きグランドマスターに視線を向ける。
「ありがとうございます。それでは決まりですね。グラン様、という事で、モルトバ様はこちらで引き取らせて頂きます」
「え、ええっ……よろしくお願いします」
心なしかグランドマスターも戸惑っている様に見える。
まさか、ユートピア商会でモルトバの事を引き取ると思っていなかったのだろう。
しかし、こんな状態のモルトバ、使い物になるのだろうか?
犯罪奴隷を引き取ったというだけでも、風評被害が立ちそうなものだけど……実に心配だ。
そんな事を考えていると、屋敷神がこちらに視線を向けてくる。
「ご安心下さい。この者の事は、私が適切な環境で管理致しますので……」
「う、うん。よろしく……」
「はい」
屋敷神はそう返事をすると、笑顔を浮かべながら頷いた。
しかし、モルトバの事は、もう『この者』扱いか……。
多分、屋敷神の中でモルトバは冒険者ギルドを手中に収める為の道具に過ぎず、既にどうでもいい存在なのだろう。
そして、モルトバの事を一瞥すると、屋敷神はグランの下に歩み寄る。
「グラン様、本日はご足労頂きありがとうございました。冒険者ギルドを率いるグラン様とは、今後とも良い関係を築いていく事ができそうです」
「そ、そうですか、それはよかった……」
「細かい点については、後日、冒険者ギルドにお伺いした時に打ち合わせましょう。それでは、玄関口までご案内致します」
そう言うと、屋敷神は客間の扉を開け、グランドマスターを玄関口まで案内していく。
「本日は話し合いの機会を頂き誠にありがとうございました。モルトバの事はよろしくお願い致します」
「ええ、ご安心下さい。折角、素晴らしい協力関係を築けたのです。借金奴隷となった冒険者達についてこちらでも調べてみます」
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