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第二章 アベコベの街

第34話 冒険者協会②

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 扉を開け冒険者協会の中に入ると、そこは多くの冒険者で賑わいを見せていた。

「うわあ、ここが冒険者協会か~」

 冒険者協会。それはモンスターの脅威から人々を守ることを主目的とした冒険者専用の高尚な組織である。

 冒険者協会の基本的な業務はカードを発行しての冒険者登録や除名、モンスターの討伐や薬草の採取、街の掃除、商隊の護衛といった各種依頼による仕事の斡旋、素材の買い取り、冒険者のランク昇格のための試験開催、冒険者同士の揉め事の仲介等。

 冒険者の中には、その実力を評価されて国に仕官した者や、ダンジョンで一攫千金を掴み小国の王になった者も存在している。

 今日、僕は冒険者協会に登録するためにここを訪れた。

 <おや、ノース様。見て下さい。厳つい顔したおっさん達が受付嬢を見て鼻の下を伸ばしていますよ?>

「えっ?」

 ナビさんが矢印で指し示した方向に視線を向けると、二十人を超える厳つい冒険者が、番号札を片手に持ち、受付嬢に熱い視線を向けている姿が目に映る。

「ええっ……」

 なんだか、夢をぶち壊されたかのような気分だ。冒険者協会というのは、番号札片手に受付嬢を愛でるそういった組織なのだろうか?

 よく周りを見てみれば、協会併設の酒場で朝から飲んだくれている冒険者の姿や、受付嬢に熱いラブコールを送っている冒険者の姿が見える。

 思い描いていた冒険者像が壊され、少しだけ幻滅していると、ナビさんが視界に文字を浮かべてきた。

 <まあ、ノース様も大人になれば、その内、わかるようになりますよ。冒険者協会と偉そうな名は付いていますが、要は荒くれ者でも勤まる仕事を寄せ集めた職業安定所みたいなものです。そんな人達が集まれば自然とこうなります>

「いや、言い方っ!」

 そんな言い方をされると、モンスターの脅威から人々を守ることを主目的とした冒険者協会のコンセプトが酷く歪んで見えてくる。

「まあいいや……」

 とりあえず、冒険者協会に登録しないことにはなにも始まらない。
 優遇ギフトを得ることのできなかった僕の第二目的は冒険者協会に登録して、立派な冒険者になること。そのために、これまで一生懸命頑張ってきたのだ。

 僕は七十番の番号札を発行してもらうと、受付に呼ばれるまでの間、椅子に座って待つことにした。

 ナビさんと適当な雑談をすること数十分。
 数多の冒険者のラブコールに断りを入れ、撃沈してきた受付嬢から七十番を呼ぶアナウンスが流れる。

 番号札を片手に立ち上がると、僕は受付に向かった。

「大変お待たせ致しました。七十番の番号札を回収させて頂きます」
「あ、はい」

 そういって番号札を提出すると、受付嬢が笑顔を浮かべる。
 受付の女の胸元にあるネームプレートをチラリと見ると、そこには『冒険者協会受付員 ユノ』と書かれていた。

「ようこそ冒険者協会へ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「今日は冒険者協会へ登録しに参りました」
「冒険者協会への登録ですね。それでは、こちらの用紙に必要事項の記入をお願いします」

 受付嬢のユノさんが慣れた手付きで登録用紙を渡してくる。

「ありがとうございます」

 そういって、登録用紙を受け取ると、それに必要事項を記入していく。
 冒険者協会の登録に必要な情報は名前、年齢、ギフト名の三つ。

 必要事項を埋めると、ユノさんに登録用紙を差し出した。

「これでお願いします」
「はい。ありがとうございます。それでは確認させて頂きますね」

 ユノさんが登録用紙に視線を向けると、困惑とした表情を浮かべた。

「……ノース様。一点だけ確認させて下さい」
「はい。なんでしょうか?」

 なにか問題でもあっただろうか?
 ユノさんが登録用紙のギフト欄を指差しながら質問してくる。

「ここに書かれているキノコマスターというギフトですが、これは一体どのようなギフトなのでしょうか?」
「えっ? ああっ、それは……」

 正直言って、僕にもそれはよくわからない。
 言われてみれば、キノコマスターって、どんなギフトなのだろうか?

 頭の中に疑問符を浮かべていると、ナビさんが視界に文字を浮かべてくる。

 <そうですね~あえて言うなら、キノコを召喚するギフトでしょうか?>

 なるほど、その説明でいこう。

「……キノコマスターとは、キノコを召喚するギフトです」

 僕がそう呟くと、ユノさんがまるで可哀想な人でも見たかのような表情を浮かべた。

「そ、そうですか……キノコを召喚するギフトですか……それはまあ、なんといいますか……り、料理をする際にとても役に立つギフトですね。いいなー私のギフトと交換して欲しいくらいですよー」

 いまの取って付けたかのような棒読みはなんだったのだろうか。
 とりあえず、本心ではないことだけは理解できた。

「そ、そうなんですよー料理をするのにとても役立つギフトでして、あはははっ……」
「あはははっ……」

 ユノさんは愛想笑いを浮かべながら魔法道具に登録用紙を通していく、するとそこから一枚のカードが出てきた。

「お、お待たせ致しました。こちらが、ノース様の協会証になります」
「あ、ありがとうございます……」

 よかった……なんとか協会証を発行してもらうことができたようだ。
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