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おもち
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冷たい雨の降る日に、僕たちは偶然出会った。
もっと正確に言うと、僕と娘ののぞみが君を見つけた。
君は保育園の駐車場に停められていた車の下に寝ていた。
いや、眠ってなんかいなかった。
当たり前のように迫り来る死を、ただ待っているかのように目は虚で、君は一言も声もあげなかった。
君の全身は見るからに栄養不足で痩せ細っていて、足首からは肉がただれて骨が見えていた。
のぞみは興味本位で君に手を伸ばしたけれど、君は逃げ出すこともせずに無抵抗でその手を見ていた。
あるいは逃げることすら出来なかったのかもしれない。
のぞみが君を抱き抱えても、君はただただ空を見ていた。
のぞみの保育園の帰り道に、僕たちは一時的に家族が増えたのであった。
名前をつけてやらなきゃな。
のぞみが助けてあげたんだ。何か良い名前はあるかい?僕は期待せずにのぞみに聞いてみた。
「うーん…おもち!」
白い君を見てそう言った。
確かに全身が綺麗な白い毛で覆われていて、のぞみの大好きなおもちに色だけはそっくりであった。
だから君の名前は「おもち」に決まった。
これまでカメやカブトムシやダンゴムシぐらいしか飼ったことがないからよく分からないので、君は何才ぐらいになるのかサッパリ見当もつかなかった。
君は近所のママ達には有名だったようで、誰かが拾ってくれないかと話をしていたようだ。
君をうちで一時期的に引き取ることになって、ママ達は早速必要なものをアレコレと妻にアドバイスしてくれた。
あっという間に妻はエサやケージや砂などを購入していた。多動性の良い所はこういった行動力の高さかもしれない。
僕は羨ましかった。
君にエサをあげるが、君は警戒して食べない。
何気なく、のぞみが「どーぞ」と言いながらエサを近づけると、ようやく君は食べ始めた。
もしかしたら前の飼い主がかなり厳しくシツケていたのだろうか。
前述した通り僕は知能の低い生き物しか飼ったことが無かったから、シツケの方法は知らない。
でも、それからも「ヨシ」などと言うと食べていたところを見ると、人間に怯えているのが想像がつく。
可哀想な話であるが、飼う人間によって残酷なこともされてしまうのが世の中だろう。
人間でも生まれながらにして貧困の差はあり、国によっては兄弟や親子供で殺し合ったり、盗みをしなければ生きられなかったり、盗みをした子供を見せしめのように吊るして殺したりと、モラルでは片付けられないことが多い。
幸い、君はまだ生きていて、少しずつだか回復しているように見えた。
生きることが必ず幸せであるかは人それぞれだが、子供にはそんな苦しい世界は見せたくないものだ。
あるいは一つのエゴかもしれない。
君はまだ痩せていたけれど、骨の見える部分は肉がつき始めたので、僕らは保護してくれるとこへ君を連れて行った。
しかし、従業員からは
「もうこの子はダメだと思うので、あなたたちで最後まで面倒を見てあげてください」
と、仕方ないことだが重く冷たい事実を告げられてしまった。
幸い、家族にはアレルギーの人が居なかったためうちで飼うことになった。
君はうちに来て最初の1~2週間はずっと玄関のケージに居て、居間に連れてきても怯えて玄関に戻っていた。
繰り返しになるが人間が怖ったのだろう。
僕だってそうだ。
例え僕が死にかけの時に得体の知らない僕より大きな存在が拾ったとして、すぐに信じれる訳がない。
でも1ヶ月も経たないうちに、君は居間に来るようになって、のぞみの気に入っている柔らかいクッションのイスの上に堂々と座っているようになった。
それからエサも居間で食べるようになって、居間にいる誰かの膝の上に座るのが当たり前になった今では、玄関のケージも不要になってしまった。
君は僕らの言葉が通じないから分からないけれど、幸せなのだろうか。
もしあの日、僕らが君を拾わずにいたら、また別の人が拾っていたのだろうか。
あるいは、そのまま死を迎えていたのだろうか。
その死は、もしかしたら君が望んでいたのかもしれない。
それは僕には永遠に分からないし、分かる必要も無いことだ。
時々、僕はそんなことを思うのだけれど、のぞみと一緒に昼寝している君を見て、幸せなのだろうなと、勝手に想像しまっているのだ。
以上です。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
もっと正確に言うと、僕と娘ののぞみが君を見つけた。
君は保育園の駐車場に停められていた車の下に寝ていた。
いや、眠ってなんかいなかった。
当たり前のように迫り来る死を、ただ待っているかのように目は虚で、君は一言も声もあげなかった。
君の全身は見るからに栄養不足で痩せ細っていて、足首からは肉がただれて骨が見えていた。
のぞみは興味本位で君に手を伸ばしたけれど、君は逃げ出すこともせずに無抵抗でその手を見ていた。
あるいは逃げることすら出来なかったのかもしれない。
のぞみが君を抱き抱えても、君はただただ空を見ていた。
のぞみの保育園の帰り道に、僕たちは一時的に家族が増えたのであった。
名前をつけてやらなきゃな。
のぞみが助けてあげたんだ。何か良い名前はあるかい?僕は期待せずにのぞみに聞いてみた。
「うーん…おもち!」
白い君を見てそう言った。
確かに全身が綺麗な白い毛で覆われていて、のぞみの大好きなおもちに色だけはそっくりであった。
だから君の名前は「おもち」に決まった。
これまでカメやカブトムシやダンゴムシぐらいしか飼ったことがないからよく分からないので、君は何才ぐらいになるのかサッパリ見当もつかなかった。
君は近所のママ達には有名だったようで、誰かが拾ってくれないかと話をしていたようだ。
君をうちで一時期的に引き取ることになって、ママ達は早速必要なものをアレコレと妻にアドバイスしてくれた。
あっという間に妻はエサやケージや砂などを購入していた。多動性の良い所はこういった行動力の高さかもしれない。
僕は羨ましかった。
君にエサをあげるが、君は警戒して食べない。
何気なく、のぞみが「どーぞ」と言いながらエサを近づけると、ようやく君は食べ始めた。
もしかしたら前の飼い主がかなり厳しくシツケていたのだろうか。
前述した通り僕は知能の低い生き物しか飼ったことが無かったから、シツケの方法は知らない。
でも、それからも「ヨシ」などと言うと食べていたところを見ると、人間に怯えているのが想像がつく。
可哀想な話であるが、飼う人間によって残酷なこともされてしまうのが世の中だろう。
人間でも生まれながらにして貧困の差はあり、国によっては兄弟や親子供で殺し合ったり、盗みをしなければ生きられなかったり、盗みをした子供を見せしめのように吊るして殺したりと、モラルでは片付けられないことが多い。
幸い、君はまだ生きていて、少しずつだか回復しているように見えた。
生きることが必ず幸せであるかは人それぞれだが、子供にはそんな苦しい世界は見せたくないものだ。
あるいは一つのエゴかもしれない。
君はまだ痩せていたけれど、骨の見える部分は肉がつき始めたので、僕らは保護してくれるとこへ君を連れて行った。
しかし、従業員からは
「もうこの子はダメだと思うので、あなたたちで最後まで面倒を見てあげてください」
と、仕方ないことだが重く冷たい事実を告げられてしまった。
幸い、家族にはアレルギーの人が居なかったためうちで飼うことになった。
君はうちに来て最初の1~2週間はずっと玄関のケージに居て、居間に連れてきても怯えて玄関に戻っていた。
繰り返しになるが人間が怖ったのだろう。
僕だってそうだ。
例え僕が死にかけの時に得体の知らない僕より大きな存在が拾ったとして、すぐに信じれる訳がない。
でも1ヶ月も経たないうちに、君は居間に来るようになって、のぞみの気に入っている柔らかいクッションのイスの上に堂々と座っているようになった。
それからエサも居間で食べるようになって、居間にいる誰かの膝の上に座るのが当たり前になった今では、玄関のケージも不要になってしまった。
君は僕らの言葉が通じないから分からないけれど、幸せなのだろうか。
もしあの日、僕らが君を拾わずにいたら、また別の人が拾っていたのだろうか。
あるいは、そのまま死を迎えていたのだろうか。
その死は、もしかしたら君が望んでいたのかもしれない。
それは僕には永遠に分からないし、分かる必要も無いことだ。
時々、僕はそんなことを思うのだけれど、のぞみと一緒に昼寝している君を見て、幸せなのだろうなと、勝手に想像しまっているのだ。
以上です。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
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