女性恐怖症の高校生

こじらせた処女

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「触んな気持ちわりい!!」
クラスの女子を突き飛ばした。なぜなら、急に腕の筋肉を触られて、おまけにシャツを捲られたから。その子は尻餅をついて倒れ込み、手のひらに擦り傷を作った。
「おい何してんだよ謝れよ」
 一瞬シーンとした教室で友人が慌てたように促してきたが、俺の頭は別のことで真っ白で、何も言えない。
「洋ちゃん、保健室いこ…」
 泣いている方が被害者になるっていうのは本当みたいだ。それに彼女は見た目がいい。涙の一粒でも流せば周りはチヤホヤしてくれる。つくづく羨ましいよ。まあ、手を出した俺が悪いのには変わりないんだけど。
「綾瀬くん!ちょっと来なさい!」
誰かが先生に言ったんだろう。担任の森岡がやってきて腕を無理やり引っ張られ、空き教室に連れられる。
「あのねぇ…どういうつもり?女の子にあんな事言って、傷つくって分からなかったの?」
捲し立てるように言われて、高校生なのに泣きそうになって目線を下に向けた。だってだってと言葉に起こせきれない言い訳が頭いっぱいに浮かぶ。でも、絶対に口に出したくない。知られたくない。

「…好きな子には優しくしないと後で後悔しちゃうわよ?」
違う、そうじゃない。おどけた口調で言う森岡。そんな理由であんなことしない。理由を言わないんだから分かってもらえる訳が無いんだけど、当たり前なんだけど。そんな陳腐なものに勘違いされている、その事実に俺の心はポッキリ折れた。
「…うるさい」
「あ、ちょっと!!どこ行くの!!」
絞り出した、強がった一言は思っていたよりずっと小さくて情けない声。
 気分が悪い。体がゾクゾクして、吐きそう。心臓が変に早くて、深呼吸をやめたら息が出来なくなりそう。お腹、二の腕、掴まれた腕はまだ嫌に熱が残ってて不快。向かう場所は一つだった。



「はーい…って綾瀬か。どーしたの」
何度か扉を叩くと中から安心する声と共に現れる先生。ここの学校の養護教諭が男で良かった。180近い身長で日に焼けて腕にはしっかりと筋肉がついているのに、白衣から香る柔軟剤の匂い。ここは紅茶と消毒液の匂い、そんで先生の匂いが混じってて、俺はここが好き。空間全部が落ちつく。息が少し、しやすい。
「放課後じゃないのにどうしたの。どっかしんどい?」
「いや、眠い」
「んもー…授業受けてきなさい。放課後またおいで。お茶淹れたげるから」
「…」
「どーしたの。やっぱどこかしんどい?」
憎まれ口の一つも叩かない俺に、一向に出て行かない俺に不信感を抱いたのだろう。俺は先生が大好きだけど、それ故に困らせたくないから授業中サボる目的で保健室を使わないし、誰かがいる時とかは絶対に訪れない。皆んなが帰ったり部活に行く時間、つまり放課後だけおしゃべりしにやってくるのである。
 おでこや頬を撫でるように触る先生。熱なんてないからきっと、困らせてしまう。でも、今日だけはしんどい。ここに居させて欲しい。
「…っ…ちょっと、きぶんわるい…」
「んもー。最初からそれを言いな。ほらおいで」
「でも、ねつ、ない…」
「発熱だけが症状じゃありません。ほら座って。吐き気は?ある?」
「ちょっと…」
「熱は…36.1度、平熱ね。他に症状ある?」
「…ない」
「りょーかい。ベッド使う?」
「…さっき…手、怪我した人来た?」
「ん?ああよく知ってんね。あ、おんなじクラスか」
入室表を見ながら、本当だと気づいた風に。
「どーだった?」
「どうって…絆創膏だけ貼って戻っていったけど…」
「そう…寝る」
「なんかあったら言いなね?」
よかった。バレてない。俺のしたことも、それが原因で来てるだけでちっとも体調が悪くないことも。って安心していたのに。


「す~みません上村先生、綾瀬くんここに来てませんか?」
寝転がってすぐ。ドクリと心臓が跳ねる。さっき、逃げてきたから。
「あーさっき気分が悪いって来ましたけど…」
「あー、どうせ仮病なんでつまみ出しちゃって下さい」
「…というと?」
「さっきの時間女子生徒を突き飛ばして、謝りもしないんですよ。その上授業もサボって…綾瀬くん、せめて授業には出なさい!」
嫌だ、戻りたくない。後ろでカーテンの音がする。あ、ダメだ。体、動かない。怖い。
「森岡先生…彼は…」
「ほらふて寝しない!こっち向きなさい!!」
無理やり体を回転させられて、布団をばさっと捲られる。
「ぁ、だ…やだ、」
「ほら行くよ!!」
背中と布団の間に手を入れられて、腕を掴まれて。
「やだ、やめて、やめて、っ゛、せんせ、」
「上村先生が優しいからってつけ込まない!!すーみません本当に…」
ほんとに駄目。目元ぐるぐるする。さっき楽になった呼吸も、治った吐き気も全部、舞い戻ってくる。
「森岡先生、ちょっと落ち着いて…彼泣いてるじゃないですか、」
「どうせ嘘泣きですよ。最近の子は小賢しいんですから」
「ちが、ぅ、ほんとに、っひ、っ゛、」
泣きたいわけじゃないのに、嘘じゃないのに。ほんと何なんだこの体。こんなところで勝手に思い出さないで欲しい。
「森岡先生!!やめてください!」
急に大きくなった声。森岡の手が緩んだ一瞬で振り払い、先生に抱きつく。
「せん、せ…ぇ、」
「息あがってんね。ゆーっくり吐いてごらん?」
さっきの大声とはかけ離れた柔らかい声。頭を大きい手で撫でられて、背中をさすられて。
「言ったでしょう?彼今本当に体調悪いんです。過呼吸起こしかけてるの、わかりませんか?」
「だってそれは…平熱だし、咳も鼻水も…」
「そうやって人のものさしで判断するって1番やってはいけないことです。とりあえず今は出てってください。落ち着いたら授業参加させますから。…………綾瀬?もう行ったから大丈夫。とりあえず座ろっか」
「っひ、ぅ、…」
さっき寝てたベッドの上に腰掛けて、先生の胸に顔を押しつけて。泣いている方が被害者になるってやっぱり本当。そんなつもりは無かったし、高校生にもなって泣きたくはなかったけれど。
「びっくりしちゃったね。落ち着いた?お茶飲む?今日誰も居ないし、そんな興奮状態じゃ寝れないでしょ」
「…おこらないの?」
「何で?」
「…いいの?授業中なのに…」
「今日は特別。ほら顔拭いて!いつもので良いよね?」
「ん…」


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