女性恐怖症の高校生

こじらせた処女

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「ただーいまーっと…あれ…」
報告書を終わらせるのに手間取って、遅くなってしまった。玄関を開けて綾瀬の靴があることに気づく。今日は飲み会に行っているはずだけど、もう帰って来たのだろうか。
「綾瀬?」
明かりは付いていない。リビングにも、洗面所にも、綾瀬の部屋にも。
「…綾瀬?いるの?」
綾瀬の部屋のドアだけが閉まっているのに違和感を覚え、何度かノックするけれど返事はない。
「…開けるよ?」
ソーッと扉を開ける。
「寝てる?」
囁くような声で聞くと、起きてると掠れた声が響いた。
「体調悪くて…途中で帰って来た」
布団の上に、スーツのままで。俺が行事などで着ている時は、シワになるから早く脱げと怒るくせに。
「熱は?測った?」
おでこを触るとじっとりと熱い。ああ、この状態には覚えがある。
「着替えれそう?ご飯は食べれた?」
「…いい…いらない…このまま寝る…」
よく見ると目元も赤い。
「やなことあった?」
綾瀬は精神的にしんどくなると良く熱を出す。
何度か頬をムニムニと触る。一瞬目を伏せた後、ジワリと涙が滲んで垂れた。
「飲み会で何か言われた?」
「いわれて、…っ、ない、おれが…」
ボロボロと涙を流し、スンスンと鼻を鳴らす綾瀬。何があったのかと聞いても何も言わないまま。
「よし、とりあえず着替えちゃおう。綾瀬いっつも俺に言ってるでしょ?シワになるからって」
髪の毛を何度かすいて、何度かくるくると指に巻き付けていると、上半身がのそっと起き上がる。
「ご飯も食べてないでしょ」
「…たべた」
「何食べたの。言ってごらん」
「……えだまめ…」
「それだけ?」
「………えっと、唐揚げ…と…」
「うどん食べる?綾瀬の好きなふわふわ卵にしたげる」
「…いらない」
「椎茸とネギもいっぱい入れて、かまぼこも入れるよ?」
タイミングよく鳴るお腹の音。真っ赤な顔をした綾瀬は黙ったままベッドを降りた。
「…5分したらいく…」
「ん。ゆっくりおいで」



「…おれ、またやっちゃった」
いつもより静かな夜ごはんを終え、食器も片付け終わった時。ソファでぐったりとしていた綾瀬が突然口を開いた。
「隣の人、が…女の先輩で、酔ってて、で、太もも触られて、びっくりして、はたいちゃった、」
「謝らなかったの?」
「あやまった…けど…お金もはらわずに、にげちゃって、…」
「そっかぁ…」
「空気…ぜったいわるくした、」
「ラインとか持ってるの?」
「ある…」
「じゃあそこで一旦謝って、明日もう一回謝れば良いよ」
「…許してくれると思う?」
「多分向こうも綾瀬が怒ってるんじゃないかって心配してると思うの。だーいじょうぶ!ちゃんとできるよ」
「ん…ありがと先生」


 翌日の夕食中。少し豪華なラインナップから、綾瀬の機嫌が良いってことが分かる。
「せんせ、おれ、今度女性とご飯行く…」
「…え?」
「今日朝謝って、女の人に触られるとびっくりするって言ったら…、俺ともっと話してみたかっただけって言われて…こんなの初めてで…」
綻んだ顔で、それでも少し照れた顔で唐揚げを頬張る綾瀬は首まで赤くなっている。
「…おっ、良いじゃん良いじゃん、あーそっかぁ…綾瀬にもついに春が来たかぁ…」
「もう秋じゃん」
 あれ、なんだこれ。いつもだったらここで笑えるはずなのに、笑顔が引き攣る。ちゃんと笑えない。
 本当に女と付き合えるのか?手が触れただけでパニックになるような人間なんだぞ。そんな人間がセックスなんて出来るのか?無理だろ絶対。
(あれ、何で…)
「その人はどんな人なの?」
「…優しい。いっつもお菓子くれる」
「そっかぁ…楽しんでおいで。あ、お酒は飲んじゃダメだよ?未成年なんだから」
「分かってるって」
モヤモヤする。これは心配、なのか。傷つかないか、しんどい思いしないかっていう。口に出かけた言葉を飲み込む。いや、これは喜ばしいこと。ちゃんと喜んであげないと。

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