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水城もいろいろやらかしてた話

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「えっ、え!?お前、そんなの一言言って行けよ!!」
「だって、いえるふんいきじゃ、なかったぁ…」
「そんなの、あーもー、さっさと行ってこい!」
じゅぃぃ…
「ぁっ、あっ、」
行ってこいっていうのはトイレに行ってもいいってことなのに。おしっこここでしていいよってことじゃないのに。膀胱は勝手に許しを乞うて出そうだそうと緩めてくる。
もはやソコから手なんて離せなくて、先をつまみながら走る。
「っは、はぁっ、おしっこ、」
息も乱れるし、心なしか足が濡れてるし。でも止まったらその場で力尽きてしまうことはなんとなくわかって、とにかく全速力で走る。
「っぅ、でる、でるでるでる、」
ばちゃっ、
青いタイルが見えた瞬間、床から嫌な音がたつ。けど気づかないフリをして、1番手前の小便器に駆け寄る。
「あっ、まって、マジでぇ、もうちょっと、」
じょわぁあああ…
足が確実に熱い。手が熱い。目の前に広がる水溜り。
「っひぃ、んんんんっ、」
いやだ、高校生だぞ。小学校でも中学校でもしなかった失敗を、今更になって。おしっこを我慢する筋肉にどれだけ力を入れても止まってくれない。
(せめてっ、便器にっ、)
両手をズボンにかけ、固い紐を解いていく。
手に溜まったおしっこが落ちてばしゃりとまた靴を濡らした。
じょっ、じょおおおおおおっ、
「んぁっ、ぁん、っ、」
(なんで、なんでとれないのぉ、)
そうやって画策しているうちにも水流はどんどん増していく。もうこんなのおちびりを超えている。地獄みたいな状況で、でも体は正直でピクピクと細かに筋肉が痙攣する。
「とれたっ、」
じょぉぉ…しょろろろ…
「っぁ、はぁっ、はぁっ、」
びちょびちょで張り付いているパンツをひっぺがして放出してもいい体制をとったのに、水流はみるみるうちに小さくなっていく。
「ぁっ、っふぁっ」
ぶるりと体が大きく震えた後、呆気なくおしっこはとまった。便器の中は少し色がついた程度しか溜まっていない。

ほとんど全部、服を着たままやってしまったってことだ。
「あーやっちゃったかー」
先輩の声が後ろで聞こえるけど、振り向けない。この一連の出来事を全部、見られた。
「あ…ぅ…」
ぼーっと水溜りを眺める。ぼんやりして、夢の中みたいだ。
「俺が呼び止めたからだもんな?わりぃ…」
「いえ、おれが、ごめ、なさ、…」
声が掠れてうまく言葉がでない。
「だ、大丈夫だからな?えーと…とりあえず監督には吐いたことにしといてやるから着替えるか。体操着は?あるか?」
「…ない、」
「俺ロッカーに予備置いてるから持ってきてやる。下着は?」
「かばん…あおい布…」
「わかった。とりあえず清掃中の札立てとく。体育館の奴らにも来ないよう言っとくから。ちょっと待ってな」




「片付けなきゃ…」
先輩がいなくなって、少し頭が覚醒してきた。とりあえず、この水溜りをなんとかしよう。手を洗って、掃除用具からホースとブラシを取り出し、流していく。
「さいあく…」
俺のであろう失敗のあとは、入り口までにおよんでいる。その事実に目が滲みそうになる。ちゃんと行きたくなった時に言えばよかった。そもそも、はじまる前に言っておけば。てか、トイレ管理もできないってヤバいだろ。先輩だって引いてた。なんで行かないんだって顔してた。
「…おーい…水城平気か?吐き気はどうだ?」
「え、なんで、」
「水持ってきた。お前、言えよなぁ。吐いても走れなんて昭和みてえなこと言わねえからさ」
流すものを流して奥に用具を片付けていた時だった。監督の声だ。
「あ、えっと、…これは…」
咄嗟にシャツを引っ張って、そこが見えないように隠す。でもシャツは真っ白で綺麗だし、どこも吐瀉物なんかない。そのくせ下半身は目も当てられないくらいにびしょびしょ。
「あー、そっちの失敗かー」
あ、バレた。
「…ごめん、なさい…」
だめだ、泣くな。泣いたらだめだ。
じわりと水が滲んで、息を吸おうとすると、引き攣った声が漏れてしまう。
「なおさら言えよなぁー…そういえば今日ずっとモジモジしてたな」
さっきの怒鳴り声とは打って変わった、優しい声。
「ごめ、なさ、」
「トイレで抜けても怒らねえから。な?」
骨張った手で優しく背中を摩られたらもう、ダメだった。
「っひ、っ、ぃ゛、」
「あーもー泣くな泣くな。気持ち悪いとかはないのね?」
「な゛い、」
「よかったよかった。あ、相川お前嘘ついたな?」
「あ、え!?監督!?」
「お前…部員が吐いてるって言ったら来るに決まってるだろ」
「すんませんっしたぁ!!」
「いいから。ここで着替えさせるのか?ちゃんとシャワー連れてってやれ」
「いや、でも誰かに見られたら…」
「んなもん、こーすればいいだろ」
バシャっ
「うぶぁっ、」
ホースを出してきたと思えば、徐に頭から水を思いっきりかける監督。
「これでわかんねーだろ」
「ちょっ、監督!!俺にもかかったんですけど!!」
「ハハッ。すぐ乾くすぐ乾く。じゃあ次のメニューあるから」
「あの人…笑うんだな…」
「そっすね…あと意外と適当」
「ぶはっ、それな。いっつもマジで怖ぇのに」
「先輩も、笑うんですね、」
「あ?そら笑うだろ。何お前、俺が無感情って言いたいの?」
「いやっ、ちがっ、先輩みんな怖ぇし」
「ほぉー?悪口かぁ?お前大人しそうに見えて案外言うよな」
「違いますよ、その、えっと…」
「ふはっ、じょーだんだって。ほら体冷えねえうちに入ってこい」

 その日は相川先輩にコンビニでアイスを買ってもらった。これが俺が先輩と仲良くなれるきっかけになった出来事。沸上がりそうなくらいに恥ずかしくて、そして嬉しかった思い出なのである。
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