勤続5年。1日15時間勤務。業務内容:戦闘ログ解析の俺。気づけばダンジョン配信界のスターになってました

厳座励主(ごんざれす)

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第11話 無謀な突撃

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「左、壁沿いに三体! 囲まれないように注意!」

 香奈が叫ぶと同時に、アーマーオークが出現した。
 巨大な棍棒を振り回しながら突っ込んでくるその姿は、圧倒的な威圧感を放っている。

「うっ……らあ!」

 ケンタが前に出て盾を構え、こん棒の重い一撃を受け止める。
 香奈がその脇から斬りかかり、リサとショウタの援護射撃が分厚い鎧の隙間を狙う。

 彼女たちは、確かに強くなっていた。
 それは間違いない。
 連携も取れているし、敵の行動も読めている。

 だが動きが鈍くなってきた。
 ケンタの反応は一拍遅れ、簡単に弾かれるようになった。
 香奈の持ち味の俊敏さが無くなり、斬撃も軌道が甘い。
 後衛組のボウガンの狙いも、最初のころより精度が落ちていた。

「くっ……っ!」

 がくん、と香奈の膝が一瞬だけ落ちる。
 それでも踏ん張って立ち上がるが、額から汗が滲んでいた。
 なんとかオークを撃破したあと、彼らはその場に立ち止まって肩で息をする。

 :ちょっとキツそうじゃね?
 :さっきから動きが鈍いな
 :がんばれプリズム☆ライン!

 【視聴者数:213,812人】
 どんどん増えていく数字。
 観る者にとっては、きっと今が一番楽しい展開なのだろう。

 そんな中、俺は冷静に見極めていた。
 香奈たちは確かにこのダンジョンに適応している。
 けれど体力も集中力も、もうギリギリだ。

「ふーっ……ようやく来たよぉー」

 ついに、ボス部屋手前のフロアに到達した。
 長い通路の奥、重々しい金属の扉が鎮座している。
 そこから微かに漏れる空気が、まるでこちらを試すかのように張り詰めていた。

 香奈たちは、ぜーはーと息を荒くしながら立っていた。
 ケンタの盾は表面がひび割れ、リサは腕に浅い切り傷、ショウタは肩を回して疲労を誤魔化している。
 香奈の頬には汚れがつき、握る剣の手が小刻みに震えていた。

「よーし、がんばるぞっ!」

 香奈が無理に笑った。
 気丈に、いつもの調子で元気を出そうとしている。
 だがその笑顔の奥にあるのは、必死に誤魔化そうとする限界のサインだった。

「――いや、撤退だ」

 俺が口を開いた瞬間、全員の動きが止まった。

「え?」

 香奈が振り返る。
 続いて、ケンタ、リサ、ショウタも俺の方を見る。
 その表情には驚きがあった。
 けれどどこかで「そうなる気がしていた」という、うっすらとした諦めも混ざっていた。

「疲れで動きが鈍ってる。今の状態でボスに挑むのは無謀だ。
 それは、お前ら自身が一番わかってるはずだろ」

 俺は静かに、言葉を重ねた。

「もう十分だろ、ここまで来ただけでも大健闘だ。
 お前たちが無事でいることが、何よりも重要なんだ」

 香奈は唇を噛んだ。
 それでも反論はしない。
 ただ、ぐっと拳を握りしめていた。
 
 :え、撤退!? ありえない! 行け!
 :ちょw 大ニュースだろwww 神カメラマン喋ったwww
 :ニュースで顔も声も出てたぞ、にわかか?
 :いや撤退が正解。命かかってるんだから適当なこと言うなよ。
 :もし撤退したら見るのやめる
 
 コメント欄がざわめき始める。
 撤退派と続行派が画面の中で入り混じっていた。
 無責任なエンタメ視点と、まともな人命視点のぶつかり合い。

「でも……でもっ!」

 香奈の声が震えた。
 それでも彼女は踏みとどまらなかった。
 視線をまっすぐ扉の奥へと向ける。

「今しかないのっ……ごめん!」

「香奈、待て――!」

 叫んだ。
 だがその声は届かなかった。
 香奈が剣を構えたまま、金属の扉へ一直線に駆け出した。
 迷いのない足取り。
 震えていたはずの手が、真っすぐにドアを押す。

 ギィィィ……と重たく軋む音とともに、開かれるボス部屋の扉。

「すまねえ、零士さん! 俺たちも行かせてもらう!」

 ケンタが叫んだ。
 その横でリサもショウタも、頷くだけで言葉を交わすことなく走り出す。
 全員が迷いのない足で香奈の後を追っていった。

 ――くそっ、こいつら全員、バカだ!

 俺の足が勝手に動いていた。
 開かれた扉の隙間から、濃密な魔力の風が吹き抜ける。
 その瞬間、腹の底を揺さぶるような低い咆哮が響いた。

 ゴオォォォン――!

 空気が震える。
 音が壁に反射し、脊髄に嫌な寒気が走る。

「バカやろう……!」

 悪態と共に、俺も扉の中へ飛び込んだ。
 視界の右隅、配信のサブモニターに視聴者数が弾けるように跳ね上がるのが映る。

 【視聴者数:308,943人】

 だが、今の俺にとってカメラも評価も数字も関係ない。

 あいつらを、絶対に死なせない。

 それだけが、たった一つの目的だった。
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