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第一章 伝説との邂逅
第1話 魔道人形との戦闘
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拳が振り下ろされ、土砂が盛大に巻き上がった。
荒々しく抉れた地面に土煙が舞い、視界がわずかに白く霞む。
続けざまに、二、三、四――連続する重い衝撃音。
俺はひとつ、ふたつと後方に下がり、極力無駄を省いた動きでそれらをかわした。
肩を逸らし、足元の岩を踏み込みに利用しながら、わずかな隙間を縫うように。
地面に目を落とすと、あちこちに巨大な拳の痕跡が残されていた。
めり込んだ土、砕けた岩、割れた骨の一部。
どうやら、先に来ていた連中はこれにやられたらしい。
威力は申し分ないが、動きに無駄が多すぎる。
単純で直線的、そして何より学ばない。
幾度も繰り返される打撃は確かに高速で、息もつかせぬ猛攻といえるだろう。
けれど、あまりにワンパターンすぎた。
だからこそ、動作の起こりを見れば、軌道が読める。
一万発放ったとて俺には当たらない。
ブオンッ!
風を裂く音が耳を打つ。
ひときわ大きく振りかぶった横薙ぎの一撃。
その巨腕が地面を薙ぎ払う寸前、俺は腰を落とし、風のように敵の懐へと滑り込んだ。
肉のようでいて、どこか泥めいた質感の胴体に、俺は拳を構えた右手を叩き込む。
――ドゴッ!
鈍い破砕音。拳が、肘までずぶりと沈む。
粘土質の肉体がいやな感触とともに凹み、振動が腕を通して肩まで伝わってくる。
本来ならばいくつかの内臓が潰れ、口から血を吐いて崩れ落ちるはずの衝撃だ。だが……。
敵は濁った眼窩の奥から感情のない光をこちらへ向けながら両手を組み、頭上高く振り上げる。
まったくひるむ様子無し。
鉄塊のような拳が、俺の真上へ迫る。
「チッ……」
咄嗟に腕を引き抜き、身をひるがえして横へ飛ぶ。
振り下ろされた両腕が地面を砕き、岩が粉々に砕ける音が轟いた。
その横合いから、今度は俺の蹴りが敵の膝へと突き刺さる。
「……よし」
鈍い破砕音。
脚部の関節が崩れ、敵の巨体がよろけて膝をついた。
重量のある体が傾いたその瞬間、俺は背後へと素早く回り込み、肘を振り抜く。
首元に渾身の一撃。
ゴキャッ。
骨のようなものが折れる音とともに、首がくの字に曲がり、やがて完全に千切れた。
地面へ転がり落ちる首。
……やったか?
一瞬、そう思った。
しかし敵は何事もなかったかのように立ち上がる。
「やはりな」
血も、息も、苦悶もない。
生き物じゃない。
肉体を模しただけの別の何か。
今まで対峙したことないタイプの敵だが、必ずどこかに突破口はあるはず。
俺は意識を集中し、気配を研ぎ澄ませる。
目に見えない魔力の糸が、敵の体内を流れる様を、視る。
「……ソコか」
肉体の中央、人間で言えば腰のあたり。
その奥にわずかな魔力の波動――核がある。
胴体を砕こうが首を飛ばそうがこいつは死なない。
ならばそこを破壊してみるのも良いだろう。
敵が体勢を整え、再び襲い掛かってくる。
俺は滑るように敵の懐に踏み込み、右手を構え、その五指に集中する。
全神経を指先に集め、狙いを定めて一突き。
――バキンッ!
乾いた音。
何か硬いものが砕けた感触が、掌の奥から伝わってきた。
直後、敵の体がぶるぶると震え、そして崩れ落ちた。
重力に逆らえずぼろぼろと土塊へと変わっていく。
溶けるように、泥へと還る。
「ふう……」
小さく息をついた俺は、周囲に目を走らせた。
地面には、白く風化した人骨がいくつも転がっている。
十体……いや、それ以上か。
「先遣隊の連中か」
魔力を中枢とするこの泥の兵士。
単純な損傷では止まらず、魔力の核を砕かない限り動き続ける。
しかも通常は眠っており、侵入者に反応して起動する仕組み。
そんなもの、魔力感知すらままならないアイツらに倒せるわけがない。
逆立ちしたって無理だ。
「……どうでもいいな」
俺の任務はこの洞窟の調査。
そしてボスに面白いモノを持ち帰ること。
そういう意味では、魔力核で動く自動防衛機構など最高の成果だろう。
俺自身、数々の遺物を奪ってきたが、こんな代物は初めてだ。
似ているものがあるとすれば、昔読んだおとぎ話に出てきた『魔道人形』。
魔法使いのお姫様を守る命無き兵士だ。
本当に存在していた、ということだろうか。
可能なら一体くらい持ち帰りたいところだが。
そのとき、不意に空気が変わった。
洞窟内に充満する湿った土の匂い。
苔むした岩肌が微かに光を反射し、闇の中にぼんやりと浮かび上がる。
静寂の底で、魔力の流れが微かに揺らいだ。
俺は洞窟の奥へと視線を向ける。
そこだけ、闇がうごめいていた。
――ガコンッ
重く、硬質な音。
先ほど倒した魔道人形と同じ姿形のものが、地面や岩壁から次々と現れる。
ひび割れた個体も混じっており、そこから魔力の光が淡く漏れている。
「……ふむ」
肩を軽く回し、息を吐く。
「一旦、全部片づけてからだな」
俺は、一体また一体と姿を見せる魔道人形の群れへ向かって、全力で駆け出した。
荒々しく抉れた地面に土煙が舞い、視界がわずかに白く霞む。
続けざまに、二、三、四――連続する重い衝撃音。
俺はひとつ、ふたつと後方に下がり、極力無駄を省いた動きでそれらをかわした。
肩を逸らし、足元の岩を踏み込みに利用しながら、わずかな隙間を縫うように。
地面に目を落とすと、あちこちに巨大な拳の痕跡が残されていた。
めり込んだ土、砕けた岩、割れた骨の一部。
どうやら、先に来ていた連中はこれにやられたらしい。
威力は申し分ないが、動きに無駄が多すぎる。
単純で直線的、そして何より学ばない。
幾度も繰り返される打撃は確かに高速で、息もつかせぬ猛攻といえるだろう。
けれど、あまりにワンパターンすぎた。
だからこそ、動作の起こりを見れば、軌道が読める。
一万発放ったとて俺には当たらない。
ブオンッ!
風を裂く音が耳を打つ。
ひときわ大きく振りかぶった横薙ぎの一撃。
その巨腕が地面を薙ぎ払う寸前、俺は腰を落とし、風のように敵の懐へと滑り込んだ。
肉のようでいて、どこか泥めいた質感の胴体に、俺は拳を構えた右手を叩き込む。
――ドゴッ!
鈍い破砕音。拳が、肘までずぶりと沈む。
粘土質の肉体がいやな感触とともに凹み、振動が腕を通して肩まで伝わってくる。
本来ならばいくつかの内臓が潰れ、口から血を吐いて崩れ落ちるはずの衝撃だ。だが……。
敵は濁った眼窩の奥から感情のない光をこちらへ向けながら両手を組み、頭上高く振り上げる。
まったくひるむ様子無し。
鉄塊のような拳が、俺の真上へ迫る。
「チッ……」
咄嗟に腕を引き抜き、身をひるがえして横へ飛ぶ。
振り下ろされた両腕が地面を砕き、岩が粉々に砕ける音が轟いた。
その横合いから、今度は俺の蹴りが敵の膝へと突き刺さる。
「……よし」
鈍い破砕音。
脚部の関節が崩れ、敵の巨体がよろけて膝をついた。
重量のある体が傾いたその瞬間、俺は背後へと素早く回り込み、肘を振り抜く。
首元に渾身の一撃。
ゴキャッ。
骨のようなものが折れる音とともに、首がくの字に曲がり、やがて完全に千切れた。
地面へ転がり落ちる首。
……やったか?
一瞬、そう思った。
しかし敵は何事もなかったかのように立ち上がる。
「やはりな」
血も、息も、苦悶もない。
生き物じゃない。
肉体を模しただけの別の何か。
今まで対峙したことないタイプの敵だが、必ずどこかに突破口はあるはず。
俺は意識を集中し、気配を研ぎ澄ませる。
目に見えない魔力の糸が、敵の体内を流れる様を、視る。
「……ソコか」
肉体の中央、人間で言えば腰のあたり。
その奥にわずかな魔力の波動――核がある。
胴体を砕こうが首を飛ばそうがこいつは死なない。
ならばそこを破壊してみるのも良いだろう。
敵が体勢を整え、再び襲い掛かってくる。
俺は滑るように敵の懐に踏み込み、右手を構え、その五指に集中する。
全神経を指先に集め、狙いを定めて一突き。
――バキンッ!
乾いた音。
何か硬いものが砕けた感触が、掌の奥から伝わってきた。
直後、敵の体がぶるぶると震え、そして崩れ落ちた。
重力に逆らえずぼろぼろと土塊へと変わっていく。
溶けるように、泥へと還る。
「ふう……」
小さく息をついた俺は、周囲に目を走らせた。
地面には、白く風化した人骨がいくつも転がっている。
十体……いや、それ以上か。
「先遣隊の連中か」
魔力を中枢とするこの泥の兵士。
単純な損傷では止まらず、魔力の核を砕かない限り動き続ける。
しかも通常は眠っており、侵入者に反応して起動する仕組み。
そんなもの、魔力感知すらままならないアイツらに倒せるわけがない。
逆立ちしたって無理だ。
「……どうでもいいな」
俺の任務はこの洞窟の調査。
そしてボスに面白いモノを持ち帰ること。
そういう意味では、魔力核で動く自動防衛機構など最高の成果だろう。
俺自身、数々の遺物を奪ってきたが、こんな代物は初めてだ。
似ているものがあるとすれば、昔読んだおとぎ話に出てきた『魔道人形』。
魔法使いのお姫様を守る命無き兵士だ。
本当に存在していた、ということだろうか。
可能なら一体くらい持ち帰りたいところだが。
そのとき、不意に空気が変わった。
洞窟内に充満する湿った土の匂い。
苔むした岩肌が微かに光を反射し、闇の中にぼんやりと浮かび上がる。
静寂の底で、魔力の流れが微かに揺らいだ。
俺は洞窟の奥へと視線を向ける。
そこだけ、闇がうごめいていた。
――ガコンッ
重く、硬質な音。
先ほど倒した魔道人形と同じ姿形のものが、地面や岩壁から次々と現れる。
ひび割れた個体も混じっており、そこから魔力の光が淡く漏れている。
「……ふむ」
肩を軽く回し、息を吐く。
「一旦、全部片づけてからだな」
俺は、一体また一体と姿を見せる魔道人形の群れへ向かって、全力で駆け出した。
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