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第五章 砂漠の国
第25話 名を呼ばれて
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あたりはすでに黄昏に染まりはじめていた。
日中の砂熱が少しずつ引き、空には深い藍が滲み始めている。
王都の喧騒も、次第に夜の静けさへと移り変わっていく。
屋敷の影も濃くなり、外壁にしがみつく俺の姿を覆い隠すには十分だった。
そのまま俺はじっと身を潜め、時間の流れを待った。
昼の明るさが影を伸ばし、やがて完全に飲み込む。
しばらくして、空が漆黒へと沈みきった。
兵の巡回も幾度か見送ったが、リュシアのいる部屋にはまだ動きはない。
俺は静かに、足元の石を踏みしめる。
「……さて」
目を細め、窓の柵を越える。
垂直の壁面を這うように、慎重に移動を始めた。
痕跡は何一つ残さない。
ただ気配を殺し、影の一部になるだけ。
迂回して見張りの死角に入り、宮殿の上層へと忍び込む。
幾重にも張られた監視網をすり抜け、記憶した構造を辿っていく。
あの部屋に通じる回廊、西側の吹き抜けを挟んだ、第二塔の上層階。
窓の外から、再び視線を送る。
さきほどと同じ部屋。
リュシアはまだ、あの鎖のついた寝台の上で横たわっていた。
その瞳は閉じられている。
深く寝入っているようだった。
手足には当然鎖が繋がれているが、彼女の寝顔はどこか穏やかだ。
安堵が、ほんの一瞬だけ胸を満たす。
しかし寝台に這う冷たい鎖が視界に入り、その感情はすぐにかき消えた。
窓の外からゆっくりと、彼女の寝顔を見つめる。
あれほど強くあろうとしていた彼女が、今は無防備なまでに眠っている。
きっと今日も、無理をしていたのだろう。
その時、まつげが震え、ゆっくりと彼女の瞳が開いた。
その瞳がぼんやりと天蓋の陰をたどり、少しずつ焦点を取り戻していく。
香の煙が揺れる中リュシアは重たげに頭を動かし、そしてぽつりと、言葉を落とした。
「……クロアさん」
ガラスの窓越しに、しかし確かに、その声は届いた。
細く、かすかで、それでいて胸の奥に響くような声音。
まるで祈るように、名を呼んでいた。
その瞬間、何かが俺の中で軋んだ。
胸の奥が妙に締めつけられる。
痛みでも、熱でもない。
ただひたすらに、重く、静かに、心の奥を叩くような感覚。
リュシアは寝台の上で、ゆっくりと顔を伏せた。
だがその唇はなおも俺の名を紡ぎ続ける。
「……クロアさん、クロアさん……」
そのたびにまた一つ、何かが震える。
風もないはずの夜の空気が、微かに揺れた気がした。
名前を呼ばれているだけだというのに、どうしてこんなにも胸の奥が騒がしいのか。
その声が響くたび、俺の中で魂が何かを訴えるように震える。
「信じて、いますから」
そう、彼女は俺が来ると信じている。
その事実が、その想いが、まるで鋭利な刃のように心を貫く。
だがその確信の裏で、彼女の肩はほんのわずかに縮こまっていた。
細い肩が恐怖と不安に押し潰されまいと震えている。
「…………クロア、さん」
ああ、もう、十分だ。
「――呼んだか」
静かな問いとともに、窓の外から俺は姿を現した。
ガラスに反射する月の光の下、寝台の上でリュシアが瞳を見開く。
その目はただの驚きではなかった。
願いが現実に変わった瞬間の、純粋な感動。
「クロアさ……!」
しっ、と俺は自身の口元に人差し指を添えてジェスチャーする。
俺は足場の石造りの装飾を蹴り、窓の縁に飛び乗る。
反射的に身体を起こそうとした彼女は、すぐに鎖の存在を思い出し、きつく眉を寄せた。
「待ってろ」
音を立てずに室内に降り立つ。
足音ひとつ無く、俺は寝台の傍に膝をついた。
「……来てくれたんですね」
リュシアは目尻を潤ませながら、かすれた小声で呟いた。
その顔は熱と疲労の影を残しつつも、何かを許されたように安堵している。
「遅くなった」
鎖の金具を確認し、小さく息を吐く。
仕掛けは単純。
短剣の柄を差し込み、ひねる。
カチリ、と音を立てて錠が外れた。
鉄の枷が外れる音に、リュシアの肩がかすかに震える。
腕に残った赤い痕を見て俺は一瞬だけ言葉を失い、すぐにその手を取った。
「立てるか」
問いに、リュシアは小さく頷く。
だが身体は思うように動かない。
立ち上がろうとするも、すぐに足元がぐらつき、俺の胸元に倒れかける。
「っ、ごめんなさい……!」
「気にするな。寄りかかってろ」
俺はそのまま彼女の肩を抱き、支えるようにして立ち上がった。
片腕に軽く体重を預ける彼女は、それでも自分の足で立とうとしている。
その意地が、逆に弱々しく映った。
室内を見渡し、開けた窓へと向かう。
周囲に警備の気配はない。
このまま、すぐに出れば――
「――ま、待って、ください」
リュシアが歩みを止める。
俺は毎度のパターンに何となく察しがつきつつも、いやまさかこんな場所でまで……とその思考を否定する。
が、しかし。
「……まだ、助けなければならない人がいます」
その言葉を聞いた瞬間、ふーっと深い溜息が漏れた。
こいつは本当に……。
振り返れば、リュシアは不安げな表情のまま、しかしいつもと同じように確かな意志を宿した瞳で俺を見つめていた。
「……誰だ」
「このお城の中に、檻に入れられた奴隷の人たちがいるんです。
女性ばかりで、中には子供や病気の人もいました。たぶん、全部で、その、ええっと……」
いつになく歯切れの悪い彼女に、俺は頭をかきながら続きを促す。
「全部で?」
「ご、ごじゅうにん、くらい」
「……は?」
日中の砂熱が少しずつ引き、空には深い藍が滲み始めている。
王都の喧騒も、次第に夜の静けさへと移り変わっていく。
屋敷の影も濃くなり、外壁にしがみつく俺の姿を覆い隠すには十分だった。
そのまま俺はじっと身を潜め、時間の流れを待った。
昼の明るさが影を伸ばし、やがて完全に飲み込む。
しばらくして、空が漆黒へと沈みきった。
兵の巡回も幾度か見送ったが、リュシアのいる部屋にはまだ動きはない。
俺は静かに、足元の石を踏みしめる。
「……さて」
目を細め、窓の柵を越える。
垂直の壁面を這うように、慎重に移動を始めた。
痕跡は何一つ残さない。
ただ気配を殺し、影の一部になるだけ。
迂回して見張りの死角に入り、宮殿の上層へと忍び込む。
幾重にも張られた監視網をすり抜け、記憶した構造を辿っていく。
あの部屋に通じる回廊、西側の吹き抜けを挟んだ、第二塔の上層階。
窓の外から、再び視線を送る。
さきほどと同じ部屋。
リュシアはまだ、あの鎖のついた寝台の上で横たわっていた。
その瞳は閉じられている。
深く寝入っているようだった。
手足には当然鎖が繋がれているが、彼女の寝顔はどこか穏やかだ。
安堵が、ほんの一瞬だけ胸を満たす。
しかし寝台に這う冷たい鎖が視界に入り、その感情はすぐにかき消えた。
窓の外からゆっくりと、彼女の寝顔を見つめる。
あれほど強くあろうとしていた彼女が、今は無防備なまでに眠っている。
きっと今日も、無理をしていたのだろう。
その時、まつげが震え、ゆっくりと彼女の瞳が開いた。
その瞳がぼんやりと天蓋の陰をたどり、少しずつ焦点を取り戻していく。
香の煙が揺れる中リュシアは重たげに頭を動かし、そしてぽつりと、言葉を落とした。
「……クロアさん」
ガラスの窓越しに、しかし確かに、その声は届いた。
細く、かすかで、それでいて胸の奥に響くような声音。
まるで祈るように、名を呼んでいた。
その瞬間、何かが俺の中で軋んだ。
胸の奥が妙に締めつけられる。
痛みでも、熱でもない。
ただひたすらに、重く、静かに、心の奥を叩くような感覚。
リュシアは寝台の上で、ゆっくりと顔を伏せた。
だがその唇はなおも俺の名を紡ぎ続ける。
「……クロアさん、クロアさん……」
そのたびにまた一つ、何かが震える。
風もないはずの夜の空気が、微かに揺れた気がした。
名前を呼ばれているだけだというのに、どうしてこんなにも胸の奥が騒がしいのか。
その声が響くたび、俺の中で魂が何かを訴えるように震える。
「信じて、いますから」
そう、彼女は俺が来ると信じている。
その事実が、その想いが、まるで鋭利な刃のように心を貫く。
だがその確信の裏で、彼女の肩はほんのわずかに縮こまっていた。
細い肩が恐怖と不安に押し潰されまいと震えている。
「…………クロア、さん」
ああ、もう、十分だ。
「――呼んだか」
静かな問いとともに、窓の外から俺は姿を現した。
ガラスに反射する月の光の下、寝台の上でリュシアが瞳を見開く。
その目はただの驚きではなかった。
願いが現実に変わった瞬間の、純粋な感動。
「クロアさ……!」
しっ、と俺は自身の口元に人差し指を添えてジェスチャーする。
俺は足場の石造りの装飾を蹴り、窓の縁に飛び乗る。
反射的に身体を起こそうとした彼女は、すぐに鎖の存在を思い出し、きつく眉を寄せた。
「待ってろ」
音を立てずに室内に降り立つ。
足音ひとつ無く、俺は寝台の傍に膝をついた。
「……来てくれたんですね」
リュシアは目尻を潤ませながら、かすれた小声で呟いた。
その顔は熱と疲労の影を残しつつも、何かを許されたように安堵している。
「遅くなった」
鎖の金具を確認し、小さく息を吐く。
仕掛けは単純。
短剣の柄を差し込み、ひねる。
カチリ、と音を立てて錠が外れた。
鉄の枷が外れる音に、リュシアの肩がかすかに震える。
腕に残った赤い痕を見て俺は一瞬だけ言葉を失い、すぐにその手を取った。
「立てるか」
問いに、リュシアは小さく頷く。
だが身体は思うように動かない。
立ち上がろうとするも、すぐに足元がぐらつき、俺の胸元に倒れかける。
「っ、ごめんなさい……!」
「気にするな。寄りかかってろ」
俺はそのまま彼女の肩を抱き、支えるようにして立ち上がった。
片腕に軽く体重を預ける彼女は、それでも自分の足で立とうとしている。
その意地が、逆に弱々しく映った。
室内を見渡し、開けた窓へと向かう。
周囲に警備の気配はない。
このまま、すぐに出れば――
「――ま、待って、ください」
リュシアが歩みを止める。
俺は毎度のパターンに何となく察しがつきつつも、いやまさかこんな場所でまで……とその思考を否定する。
が、しかし。
「……まだ、助けなければならない人がいます」
その言葉を聞いた瞬間、ふーっと深い溜息が漏れた。
こいつは本当に……。
振り返れば、リュシアは不安げな表情のまま、しかしいつもと同じように確かな意志を宿した瞳で俺を見つめていた。
「……誰だ」
「このお城の中に、檻に入れられた奴隷の人たちがいるんです。
女性ばかりで、中には子供や病気の人もいました。たぶん、全部で、その、ええっと……」
いつになく歯切れの悪い彼女に、俺は頭をかきながら続きを促す。
「全部で?」
「ご、ごじゅうにん、くらい」
「……は?」
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