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1章 スキル覚醒、始まりの『退職』へ
第17話 景気づけ
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試験の契約が終わると、あくまで明日からなので業務に戻る。話が思ったより上手くいき、俺が勝てば今日が最後の出勤となる。
それでも、浮ついた気持ちにはならないよう気をつけ、最後までいい仕事をしよう。
あくまで勝ったらの話であり、絶対に勝つつもりとはいえ、退職の話は他言無用。
しかし、前世でも『退職決めた人あるある』なんてお題がSNSで話題になっており、普段からは人付き合いがいいやつはよそよそしくなる。
普段から人付き合いが悪いやつは急に良くなるなんて眉唾なことが書かれていたが、どうやら俺は後者だったらしい。
定時頃になると逆に絶対の勝利を確信するマイヤーが皆に聞こえるように、
「タナカ君は明日から特別業務(笑いで声が上擦
る)だろう、今日は定時で上がっていいぞ!」
と、大物ぶりやがるのでお言葉に甘えて定時に業務から離れ、最低一ヶ月は職場を空けるのでロッカーとデスクを片付ける。
ついでに周辺も清掃してから退勤する所でその皺寄せで残業していたララと帰りが同時となった。
そこで彼女には感謝の言葉が出そうになるが、あくまで退職の話は他言無用。すると口からは、
「残業すまないね、この間の件もあるし、お礼に1杯どうかな。」
なんて、すんなり出てきて自分でもビックリしてしまった。
この二十年、職員と飲みになど一度もなかったのに。歓送迎会も1人残って残業していたのだ、前世の方は流石にもう記憶がない。
「明日から特別業務って聞きましたけどいいんですか?」
「ああ、むしろだからこそ今日しか都合つかなくてね、急だったかな?」
「いえ、明日からタナカさんがいないと思うと気が重いですがそうですね、、。だったら今日飲んで愚痴を聞いて貰います!」
なんて可愛く返事をもらった。
さて、思いもかけず一周りも離れてる女性に声を掛けてしまったがまあ試験は明日からだし景気づけに丁度いい。
幸い、懐は暖かいし連日になるがグレイルと行ったレストランは流石の美味だったのと他のコースも気になったので連れていくことにした。
「えっ、いいんですか、こんないい所。無理しなくていいですよ。」
なんて殊勝なことを言ってくるララ。
「おいおい、大人に恥をかかせないでくれ。
っと、実はちょっと臨時収入が入ってね。」
カッコつけて大人の男性ぶるが、
「ふふっ、普段仕事缶詰のタナカさんが遊び人みたいなこと言ってる。」
と、笑われてしまった。
似合わないことはするもんじゃないな、と苦笑が出るがこれからもっと似合わないことに挑戦するんだ。今夜はできるだけエスコートしようと切り替えた。
「で、特別業務ってなんですか?」
お酒が入ると今日何度目かの質問が飛ぶ。
「すまないが上役二人との約束で内緒なんだ。」
俺も酒が入っているがスキル「強制証文」で試験が終わるまで他言無用の一文を盛り込んだため、口を滑らせる心配はない。
しかし、このスキル手に入れてから使い所が難しく、ろくに使わなかったというのに「スキルブック作成」を手に入れてからはむしろ俺の切り札となっている。
スキルは使い所とはよく言ったものだ。
「む~、何か私のこと子ども扱いしてません?」
彼女は確か今20歳前だったかな、この世界では15からお酒解禁である。
見た目は麗しいレディだがこんなセリフは子供っぽいなと思っていると
「まあいいです、問題はみんなタナカさんのことを過小評価してることですよ!明日からいないなんて私死んじゃいますよ~。」
結構酔ってるなこいつ。
「まあみんなってわけじゃないよ、ララさんもそうだけどギルドマスターも俺が入る前知ってるからね、一応不安がってた。」
あっ、職場の人間に俺って言っちゃった。俺もちょっと酔ってるな。
「ふ~ん、よくわかりませんけど信頼関係あるんですね。」
なんてわかったような口をきく、いやよくわからんて言ってるけど。
信頼関係とは全く別物だ。
俺はあの人のことを割と恨んでるし、コキ使われてたのもなかったことにはしていない。
ただまあ、憎みきれないというかあの人は20年一緒でも天然か狙ってるのかわからないが天性の人たらしと自己保身を両立させる天才で、現役の頃を知るユーリー曰くその才覚だけでAランク冒険者までなったとか。
その頃の彼の仲間に同情する。
「で、特別業務ってなんですか?」
振り出しに戻る。もうお開きかななんて考えていると、
「じゃあいいです、私の方が勝手に内緒話しちゃいます。実は私コネ入社なんですよ。」
何か勝手に始まってしまった。聞かない方が無難なんだが、酔っているので止められない。
つか、俺も酔っているため(10名もいる受付嬢で唯一真面目に働くのがコネ入社なのかよ)なんてどうでもいい感想が浮かぶ。
「私これでも実は伯爵家の次女なんですよ、驚きました?
嫁ぐまでに外に出る許可を貰ったら冒険者が見たいって私の我儘を父は
『冒険者には絶対にさせん!!』って。
色々あって父の知り合いのブライアンさんの所で受付嬢することになって。」
そんな裏事情を全く知らずに細かいことまで仕事を指摘してきた日々。
普通に怖くなって酔いが冷めてきた。
「でも幻滅したなー、冒険者には!だってもっと頼れるダンディみたいなの想像してたらただの学のない荒くれ者じゃないですか。」
取り敢えず近くに冒険者らしき客がいないか見渡す。彼女はご機嫌に続ける。
次があったらもうお酒は飲ませないと誓った。
「私年上好きなんですよ~、でもブライアンさんは普段はいいのに父の前ではおべっかばかりで台無しだし、マイヤーさんはホント論外、ダンディズムがないわ。」
熱く語るララ。マイヤーは賛同するがブライアンは若く見えるがそれでも60歳だぞ、どんだけ範囲広いねん。
「それでいうとタナカさんはちょっぴりダンディズムが足りないですけど、いい線いってますからね。
優しいし、忙しくても丁寧に応対してくれるし、なんだかんだ頼りになりますし。」
へいへい、小娘に批評される俺。後ダンディズム言いすぎ。どんだけダンディズム好きやねん。
「はいはい、ありがとね。酷い言い草だけど認めてもらえるっていうのは嬉しいもんだよ。
とっ、今夜はここまでね。帰るよ、ララさん。」
これ以上酔っぱらいの相手は勘弁だ。
会計を済ませ、酔ってもたれ掛かる彼女。
それを横目にホテルのキーをお釣りと一緒に置いてくる気が利く、もとい余計なことをする従業員を無視して外に出る。
伯爵家の娘に手を出せるかよ。夜風に当たると正気を取り戻したララが平謝りしてくるが、
「楽しい夜でした。しばらく留守にするけど無理しなくていいからね。全部副ギルマスが面倒見ることになってるから押し付けちゃえ。」
と本音を伝え、後にする。
さあ、若い元気も貰ったし明日から心機一転、冒険稼業だ!
それでも、浮ついた気持ちにはならないよう気をつけ、最後までいい仕事をしよう。
あくまで勝ったらの話であり、絶対に勝つつもりとはいえ、退職の話は他言無用。
しかし、前世でも『退職決めた人あるある』なんてお題がSNSで話題になっており、普段からは人付き合いがいいやつはよそよそしくなる。
普段から人付き合いが悪いやつは急に良くなるなんて眉唾なことが書かれていたが、どうやら俺は後者だったらしい。
定時頃になると逆に絶対の勝利を確信するマイヤーが皆に聞こえるように、
「タナカ君は明日から特別業務(笑いで声が上擦
る)だろう、今日は定時で上がっていいぞ!」
と、大物ぶりやがるのでお言葉に甘えて定時に業務から離れ、最低一ヶ月は職場を空けるのでロッカーとデスクを片付ける。
ついでに周辺も清掃してから退勤する所でその皺寄せで残業していたララと帰りが同時となった。
そこで彼女には感謝の言葉が出そうになるが、あくまで退職の話は他言無用。すると口からは、
「残業すまないね、この間の件もあるし、お礼に1杯どうかな。」
なんて、すんなり出てきて自分でもビックリしてしまった。
この二十年、職員と飲みになど一度もなかったのに。歓送迎会も1人残って残業していたのだ、前世の方は流石にもう記憶がない。
「明日から特別業務って聞きましたけどいいんですか?」
「ああ、むしろだからこそ今日しか都合つかなくてね、急だったかな?」
「いえ、明日からタナカさんがいないと思うと気が重いですがそうですね、、。だったら今日飲んで愚痴を聞いて貰います!」
なんて可愛く返事をもらった。
さて、思いもかけず一周りも離れてる女性に声を掛けてしまったがまあ試験は明日からだし景気づけに丁度いい。
幸い、懐は暖かいし連日になるがグレイルと行ったレストランは流石の美味だったのと他のコースも気になったので連れていくことにした。
「えっ、いいんですか、こんないい所。無理しなくていいですよ。」
なんて殊勝なことを言ってくるララ。
「おいおい、大人に恥をかかせないでくれ。
っと、実はちょっと臨時収入が入ってね。」
カッコつけて大人の男性ぶるが、
「ふふっ、普段仕事缶詰のタナカさんが遊び人みたいなこと言ってる。」
と、笑われてしまった。
似合わないことはするもんじゃないな、と苦笑が出るがこれからもっと似合わないことに挑戦するんだ。今夜はできるだけエスコートしようと切り替えた。
「で、特別業務ってなんですか?」
お酒が入ると今日何度目かの質問が飛ぶ。
「すまないが上役二人との約束で内緒なんだ。」
俺も酒が入っているがスキル「強制証文」で試験が終わるまで他言無用の一文を盛り込んだため、口を滑らせる心配はない。
しかし、このスキル手に入れてから使い所が難しく、ろくに使わなかったというのに「スキルブック作成」を手に入れてからはむしろ俺の切り札となっている。
スキルは使い所とはよく言ったものだ。
「む~、何か私のこと子ども扱いしてません?」
彼女は確か今20歳前だったかな、この世界では15からお酒解禁である。
見た目は麗しいレディだがこんなセリフは子供っぽいなと思っていると
「まあいいです、問題はみんなタナカさんのことを過小評価してることですよ!明日からいないなんて私死んじゃいますよ~。」
結構酔ってるなこいつ。
「まあみんなってわけじゃないよ、ララさんもそうだけどギルドマスターも俺が入る前知ってるからね、一応不安がってた。」
あっ、職場の人間に俺って言っちゃった。俺もちょっと酔ってるな。
「ふ~ん、よくわかりませんけど信頼関係あるんですね。」
なんてわかったような口をきく、いやよくわからんて言ってるけど。
信頼関係とは全く別物だ。
俺はあの人のことを割と恨んでるし、コキ使われてたのもなかったことにはしていない。
ただまあ、憎みきれないというかあの人は20年一緒でも天然か狙ってるのかわからないが天性の人たらしと自己保身を両立させる天才で、現役の頃を知るユーリー曰くその才覚だけでAランク冒険者までなったとか。
その頃の彼の仲間に同情する。
「で、特別業務ってなんですか?」
振り出しに戻る。もうお開きかななんて考えていると、
「じゃあいいです、私の方が勝手に内緒話しちゃいます。実は私コネ入社なんですよ。」
何か勝手に始まってしまった。聞かない方が無難なんだが、酔っているので止められない。
つか、俺も酔っているため(10名もいる受付嬢で唯一真面目に働くのがコネ入社なのかよ)なんてどうでもいい感想が浮かぶ。
「私これでも実は伯爵家の次女なんですよ、驚きました?
嫁ぐまでに外に出る許可を貰ったら冒険者が見たいって私の我儘を父は
『冒険者には絶対にさせん!!』って。
色々あって父の知り合いのブライアンさんの所で受付嬢することになって。」
そんな裏事情を全く知らずに細かいことまで仕事を指摘してきた日々。
普通に怖くなって酔いが冷めてきた。
「でも幻滅したなー、冒険者には!だってもっと頼れるダンディみたいなの想像してたらただの学のない荒くれ者じゃないですか。」
取り敢えず近くに冒険者らしき客がいないか見渡す。彼女はご機嫌に続ける。
次があったらもうお酒は飲ませないと誓った。
「私年上好きなんですよ~、でもブライアンさんは普段はいいのに父の前ではおべっかばかりで台無しだし、マイヤーさんはホント論外、ダンディズムがないわ。」
熱く語るララ。マイヤーは賛同するがブライアンは若く見えるがそれでも60歳だぞ、どんだけ範囲広いねん。
「それでいうとタナカさんはちょっぴりダンディズムが足りないですけど、いい線いってますからね。
優しいし、忙しくても丁寧に応対してくれるし、なんだかんだ頼りになりますし。」
へいへい、小娘に批評される俺。後ダンディズム言いすぎ。どんだけダンディズム好きやねん。
「はいはい、ありがとね。酷い言い草だけど認めてもらえるっていうのは嬉しいもんだよ。
とっ、今夜はここまでね。帰るよ、ララさん。」
これ以上酔っぱらいの相手は勘弁だ。
会計を済ませ、酔ってもたれ掛かる彼女。
それを横目にホテルのキーをお釣りと一緒に置いてくる気が利く、もとい余計なことをする従業員を無視して外に出る。
伯爵家の娘に手を出せるかよ。夜風に当たると正気を取り戻したララが平謝りしてくるが、
「楽しい夜でした。しばらく留守にするけど無理しなくていいからね。全部副ギルマスが面倒見ることになってるから押し付けちゃえ。」
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