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3章 王都救出絵巻
第69話 暴虎と智龍
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「まずは乾杯といこうじゃないか、マイヤーが世話になっていたようだね」
当主の言葉に恐縮しながらグラスを合わせる。
ここの家は平民に随分と分け隔てなく接するな。
マイヤーの態度はその反抗だったのか。
家督争いに器ではないと、ロクに競わせてもらえもしなかったと言う話は軽くは聞いていた。
親子関係というのは歳を重ねるほどに難しいものだ。俺が口を挟めることではない。
食事を済ませ、軽い談笑の後、今日見たルフォイの処刑と彼と顔見知りだったこと、そしてヴァイアージ家について話を組み合わせながら、それとなく聞いてみる。すると、
「夜風に当たりたい。少し、二人で庭先に出ないか?」
と誘われた。そこで
「君のいきさつは知らないし、あえて聞かないでおこう。だが、この家でヴァイアージ家を探るような真似はしないでくれ」
人払いの済んだ庭先で、先程とは打って変わって、深刻な表情で告げる当主。
彼もまた権謀術数渦巻く貴族の政争の中、家を護ってきた主なのだ。こちらの探りをすぐさま見透かし、警告してきた。
「すみません。ですが、そのヴァイアージ家に連ねる方と私の知人が近く婚約があるそうなんです。
その、直接顔見知りの処刑を見て心配になってしまって……… 。せめて彼女の家との取り次ぎだけでもお願いできませんか?
彼女に渡すものがあり、私は王都までやってきたのです」
当主の態度からヴァイアージ家の情報を聞くのは難しいと判断し、方向性を変えアプローチをする。
ララの件はもう少し、状況が見えてきてから話を持ち出したかったが仕方ない。
「その件か、これもはじめに言っておくが、この婚約には私も含めて誰も口を挟めない。
それをわかってくれているのなら多少の別れの手伝いはしてあげよう。そうか、確かに彼女はマイヤーのいる街にいたと聞いたな、そういうことか」
昨夜過ごしたという晩餐でそれなりに情報を得ていたらしい。しかし、この取り次ぎが当主にお願いできる最後のことになりそうだ。
後は彼女の家の人間で彼女のことを思い、婚約に反対している人間を見つけて協力を仰ぐほうが良さそうか。それもかなり厳しそうだが。
俺の思案顔を見て取り、当主が再度強く警告をしてくる。
「何度もいうがヴァイアージ家には絶対に逆らわないでくれ。もし何かあっても私は君を助けないし、知りもしないと答えるだろう。
探るような真似だけでも危険だ。今あの家には『鼻が利く聖獣』と『智慧をもつ龍』を飼っているという」
当主が俺を諌めるために説明を続けてくれた。
それはヴァイアージ家が誇る食客の中でも、抜きん出た二人の男を称えるために作られた言葉だそうだ。
曰く、『暴虎と智龍』
暴虎―ラディッツオ。
Sランク冒険者の肩書きをもつ「槍使い」の男で、歳は俺と同じく38歳。
冒険者として最高クラスのステータス、実戦経験を持つ筋骨隆々の偉丈夫で、鋭い「勘」を持ち、幾度も修羅場をくぐり抜けた本物の強者だ。
彼の名前や経歴などは知ってはいなかったが彼が持つ「伝説」だけは俺も噂で聞いたことがあった。
それは「地底古代文明ダンジョン」の巨大ミスリルゴーレムの腕を唯一、破壊した槍使いがいるという。尾ヒレのついた噂だと思っていたが、当主がいうにはこのラディッツオがそうなのだとか。
その冒険で仲間すべてを失ったが、戦意はいまだ衰えておらず、今はヴァイアージ家で出陣の準備をしているらしい。
そしてもう1人、智龍―――
俺は説明を受けた後、当主にララのいる伯爵家への取り次ぎをお願いし、その日を最後に子爵家の屋敷を後にした。
これ以上無理にお願いして、最悪売られでもしたらおしまいだ。そうなっても当主は家を護るために仕方のないことだし、マイヤーに迷惑がかかるだけだろう。そんなことはできない。
話を通してもらい、十日後に伯爵家を訪ねることが許されたが、まずララ本人とは会えないだろう。
婚約を控えている身なのだから他の男と会うことなどできはしない、ララ本人もそのつもりで記念の魔石を返してきたのだし。
俺はその十日の間に、王都近辺のCランクダンジョンへと籠もっていた。今の俺には圧倒的に強さが足りない。
ルフォイの件のすぐにでは、探りを入れるのも難しい。相手方にはこちらを知っているセルゲイもいるのだから。
何より、一度頭の中の情報をすべて忘れ、戦いに明け暮れたかった。
ルフォイの磔の後に心は定まったが、頭が混乱している。忘却の果てに情報を整理し、俺は今もう一度街の中心の広場を訪れていた。
俺は何があっても彼女のために約束を果たすと誓った。今目の前にいる男のように決意を変えない。
それは例え、この尊敬する男と相争うことになろうとも。
智龍―メイス。「軍事」を司るヴァイアージ家の食客となり、パンドラの森を消滅させるために動く、俺が知りうる最強の魔法使い。
当主の言葉に恐縮しながらグラスを合わせる。
ここの家は平民に随分と分け隔てなく接するな。
マイヤーの態度はその反抗だったのか。
家督争いに器ではないと、ロクに競わせてもらえもしなかったと言う話は軽くは聞いていた。
親子関係というのは歳を重ねるほどに難しいものだ。俺が口を挟めることではない。
食事を済ませ、軽い談笑の後、今日見たルフォイの処刑と彼と顔見知りだったこと、そしてヴァイアージ家について話を組み合わせながら、それとなく聞いてみる。すると、
「夜風に当たりたい。少し、二人で庭先に出ないか?」
と誘われた。そこで
「君のいきさつは知らないし、あえて聞かないでおこう。だが、この家でヴァイアージ家を探るような真似はしないでくれ」
人払いの済んだ庭先で、先程とは打って変わって、深刻な表情で告げる当主。
彼もまた権謀術数渦巻く貴族の政争の中、家を護ってきた主なのだ。こちらの探りをすぐさま見透かし、警告してきた。
「すみません。ですが、そのヴァイアージ家に連ねる方と私の知人が近く婚約があるそうなんです。
その、直接顔見知りの処刑を見て心配になってしまって……… 。せめて彼女の家との取り次ぎだけでもお願いできませんか?
彼女に渡すものがあり、私は王都までやってきたのです」
当主の態度からヴァイアージ家の情報を聞くのは難しいと判断し、方向性を変えアプローチをする。
ララの件はもう少し、状況が見えてきてから話を持ち出したかったが仕方ない。
「その件か、これもはじめに言っておくが、この婚約には私も含めて誰も口を挟めない。
それをわかってくれているのなら多少の別れの手伝いはしてあげよう。そうか、確かに彼女はマイヤーのいる街にいたと聞いたな、そういうことか」
昨夜過ごしたという晩餐でそれなりに情報を得ていたらしい。しかし、この取り次ぎが当主にお願いできる最後のことになりそうだ。
後は彼女の家の人間で彼女のことを思い、婚約に反対している人間を見つけて協力を仰ぐほうが良さそうか。それもかなり厳しそうだが。
俺の思案顔を見て取り、当主が再度強く警告をしてくる。
「何度もいうがヴァイアージ家には絶対に逆らわないでくれ。もし何かあっても私は君を助けないし、知りもしないと答えるだろう。
探るような真似だけでも危険だ。今あの家には『鼻が利く聖獣』と『智慧をもつ龍』を飼っているという」
当主が俺を諌めるために説明を続けてくれた。
それはヴァイアージ家が誇る食客の中でも、抜きん出た二人の男を称えるために作られた言葉だそうだ。
曰く、『暴虎と智龍』
暴虎―ラディッツオ。
Sランク冒険者の肩書きをもつ「槍使い」の男で、歳は俺と同じく38歳。
冒険者として最高クラスのステータス、実戦経験を持つ筋骨隆々の偉丈夫で、鋭い「勘」を持ち、幾度も修羅場をくぐり抜けた本物の強者だ。
彼の名前や経歴などは知ってはいなかったが彼が持つ「伝説」だけは俺も噂で聞いたことがあった。
それは「地底古代文明ダンジョン」の巨大ミスリルゴーレムの腕を唯一、破壊した槍使いがいるという。尾ヒレのついた噂だと思っていたが、当主がいうにはこのラディッツオがそうなのだとか。
その冒険で仲間すべてを失ったが、戦意はいまだ衰えておらず、今はヴァイアージ家で出陣の準備をしているらしい。
そしてもう1人、智龍―――
俺は説明を受けた後、当主にララのいる伯爵家への取り次ぎをお願いし、その日を最後に子爵家の屋敷を後にした。
これ以上無理にお願いして、最悪売られでもしたらおしまいだ。そうなっても当主は家を護るために仕方のないことだし、マイヤーに迷惑がかかるだけだろう。そんなことはできない。
話を通してもらい、十日後に伯爵家を訪ねることが許されたが、まずララ本人とは会えないだろう。
婚約を控えている身なのだから他の男と会うことなどできはしない、ララ本人もそのつもりで記念の魔石を返してきたのだし。
俺はその十日の間に、王都近辺のCランクダンジョンへと籠もっていた。今の俺には圧倒的に強さが足りない。
ルフォイの件のすぐにでは、探りを入れるのも難しい。相手方にはこちらを知っているセルゲイもいるのだから。
何より、一度頭の中の情報をすべて忘れ、戦いに明け暮れたかった。
ルフォイの磔の後に心は定まったが、頭が混乱している。忘却の果てに情報を整理し、俺は今もう一度街の中心の広場を訪れていた。
俺は何があっても彼女のために約束を果たすと誓った。今目の前にいる男のように決意を変えない。
それは例え、この尊敬する男と相争うことになろうとも。
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