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3章 王都救出絵巻
第70話 別れと出会い
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今から三十五年ほど前のことらしい。俺がこの世界にくる、十五年も前の話だ。
王都より北東に一つの街があった。他の街と同様に、アダマンタイトの城壁とその周辺はミスリルで描かれた魔法陣による、強力な魔物避けが施されていた。
しかし、長年パンドラの森の瘴気の影響か、はたまた外部の破壊工作かはわからないが、年々ミスリルの魔法陣の効果が弱まっていく中、その事件は起こった。
―パンドラの森の魔物達の一斉蜂起。
街の城壁には強力な魔物で溢れ、その中の一体の腕は、アダマンタイトを破壊できるオリハルコンでできていた異形のモンスターだったと、文献には残っている。
一夜にして滅んだその街の領主の息子だけは王都に留学していたため無事だったが、当然その男は身分を失ってしまった……… 。
俺には直接関わりのない、昔の話だ。
さりとて三十五年もの間、折れることなく本懐を遂げるために、あらゆる手を尽くしてきたこの男を、俺の言葉で説得など不可能だろう。
こちらからメイスへと近づく。心を固め、決して揺るがない思いで今日、彼に別れを告げに来た。
「メイスさん、今回も会えて良かったです。今日はお別れの挨拶に伺いました」
「おお、タナカ君。そうか、前に会って十日ほどになるからな。王都への滞在もそろそろ終わりかい?
ブライアンさんもこちらに来ているのかね?
まあ、会う必要もないが」
「いえ、前回話しそびれましたが、私はこの度、職場を辞めて王都に出てきているのです。
次にやりたいこともあるのですが、その前に一つ、王都で『約束』がありまして。
いつ、ここを離れるかも決まっていませんので、先にご挨拶にだけ伺いました」
「そうだったのか、まあいい機会だったのかもしれないな。
力になってやりたいが、私の方もようやく動き出せそうでね。お互い、落ち着いたらまた会おう」
―動き出す。
婚約による兵站の確保とプラスして、ルフォイの一件から軍資金も調達しているのだろう。
大家とはいえ、あんな強引なやり方は続かない。
それらの不満を軍による成果ですべて洗い流せると踏んでいるからこその強行策なのだ。
この婚約が終われば、動き出すのは本当に近いのかもしれない。
これ以上の長居は無用だ。こちらの思いを悟られてはイケない。『お互い落ち着いたら』か……… 。
そうなれば本当にいいな。
今は踵を返し、違う道を歩もう。
一度王都中心部で取ってある宿屋へと戻り、夕刻に指定された、ララのいる伯爵家の別邸での面会まで心を落ち着かせる。
迷うことはもうない、それでも感情はどうしても濁ってしまう。そんなときはただ目を閉じ、呼吸を整えて瞑想をしておく。
そう、それだけでいい。余計なことは考えなくていいんだ。まずはララの屋敷でどう応対されるか出方を伺おう。
時刻通りにララの家の別邸を訪れる。
面通しをしてから、一人の女性騎士が現れた。
「遠路はるばるご苦労、用件は私が聞こう。私はララ様の身辺を預かる護衛の騎士、エレイシアだ。
そちらのことも知っている、確かタナカと呼ばれていたと記憶しているが」
歳の頃はララと同じくらいだろうか。愛嬌のあるタイプのララと違いクールというか、澄ました面持ちの美女だった。
全身鎧姿だが身のこなしも軽やかだ、これはそれなりにレベルを上げていそうかな。
「私を知っているのですか? 口振りから聞いたというより見たことがあるようですが、失礼ですがお会いした記憶がなく………」
「私は幼少の頃よりララ様の護衛として側にお仕えしている人間だ。
お忍びで平民の暮らしをしたいと言い出したときは困ったものだが、その近辺で危険因子がないか、陰ながら見守ってきたのだ。
あなたがララ様に仕事を教える立場だったのも見ていた。世話になったな。それで、今日は何用だ。
言伝ではララ様が何か忘れ物をしたようだが?」
護衛の騎士か、全然気づかなかったな。
幼少の頃より、乳母の娘が一緒に育てられ、危険の身代わりとして側に置かれる風潮があるとは聞いていたが、それか。
クールな印象を受けるが、ここまでの話しぶりを見ても礼儀正しく対応してくれているし、何よりララと幼少期から一緒で本当に心配している人間だと伝わってくる。
ここは賭けに出る所ではないか?
このまま協力者を得られずに、この婚約からララを救うのが困難なのは目に見えている。
現状、ただのギルド職員と思われている俺が話を持ち掛けて協力してくれるとは思えないが、やるだけやってやる。
「こちらです。彼女…いえ、ララ様に返されたものですが、これは『約束』の証として預かっていただいたものです。
いずれまた、私の方から返していただくかもしれませんが、今ではありません。
もう一度持っていてもらうように渡していただけませんか?」
宝石箱ごと、記念の魔石を彼女に託す。すると大きく目を見開き驚いた後、こちらに強い怒気を見せ、
「その宝石箱は………そうか、貴様か、ララ様を誑かした男は。覚悟を決めねばならないララ様の心中をかき乱す悪漢めっ!
年甲斐も、身分の差も弁えない恥知らずの男は、私がこの場で斬り伏せる!」
と吠え、剣を抜くエレイシア。
全くもって俺には不釣り合いなシチュエーションとなったが、ただ誤解を解いて平謝りをして、この場を去っても何も解決はしない。
腹を括り、彼女を挑発してでも俺のことを認めさせ、協力を仰ぐしかないのだ。
彼女に味方になってもらうための戦いが始まる。
王都より北東に一つの街があった。他の街と同様に、アダマンタイトの城壁とその周辺はミスリルで描かれた魔法陣による、強力な魔物避けが施されていた。
しかし、長年パンドラの森の瘴気の影響か、はたまた外部の破壊工作かはわからないが、年々ミスリルの魔法陣の効果が弱まっていく中、その事件は起こった。
―パンドラの森の魔物達の一斉蜂起。
街の城壁には強力な魔物で溢れ、その中の一体の腕は、アダマンタイトを破壊できるオリハルコンでできていた異形のモンスターだったと、文献には残っている。
一夜にして滅んだその街の領主の息子だけは王都に留学していたため無事だったが、当然その男は身分を失ってしまった……… 。
俺には直接関わりのない、昔の話だ。
さりとて三十五年もの間、折れることなく本懐を遂げるために、あらゆる手を尽くしてきたこの男を、俺の言葉で説得など不可能だろう。
こちらからメイスへと近づく。心を固め、決して揺るがない思いで今日、彼に別れを告げに来た。
「メイスさん、今回も会えて良かったです。今日はお別れの挨拶に伺いました」
「おお、タナカ君。そうか、前に会って十日ほどになるからな。王都への滞在もそろそろ終わりかい?
ブライアンさんもこちらに来ているのかね?
まあ、会う必要もないが」
「いえ、前回話しそびれましたが、私はこの度、職場を辞めて王都に出てきているのです。
次にやりたいこともあるのですが、その前に一つ、王都で『約束』がありまして。
いつ、ここを離れるかも決まっていませんので、先にご挨拶にだけ伺いました」
「そうだったのか、まあいい機会だったのかもしれないな。
力になってやりたいが、私の方もようやく動き出せそうでね。お互い、落ち着いたらまた会おう」
―動き出す。
婚約による兵站の確保とプラスして、ルフォイの一件から軍資金も調達しているのだろう。
大家とはいえ、あんな強引なやり方は続かない。
それらの不満を軍による成果ですべて洗い流せると踏んでいるからこその強行策なのだ。
この婚約が終われば、動き出すのは本当に近いのかもしれない。
これ以上の長居は無用だ。こちらの思いを悟られてはイケない。『お互い落ち着いたら』か……… 。
そうなれば本当にいいな。
今は踵を返し、違う道を歩もう。
一度王都中心部で取ってある宿屋へと戻り、夕刻に指定された、ララのいる伯爵家の別邸での面会まで心を落ち着かせる。
迷うことはもうない、それでも感情はどうしても濁ってしまう。そんなときはただ目を閉じ、呼吸を整えて瞑想をしておく。
そう、それだけでいい。余計なことは考えなくていいんだ。まずはララの屋敷でどう応対されるか出方を伺おう。
時刻通りにララの家の別邸を訪れる。
面通しをしてから、一人の女性騎士が現れた。
「遠路はるばるご苦労、用件は私が聞こう。私はララ様の身辺を預かる護衛の騎士、エレイシアだ。
そちらのことも知っている、確かタナカと呼ばれていたと記憶しているが」
歳の頃はララと同じくらいだろうか。愛嬌のあるタイプのララと違いクールというか、澄ました面持ちの美女だった。
全身鎧姿だが身のこなしも軽やかだ、これはそれなりにレベルを上げていそうかな。
「私を知っているのですか? 口振りから聞いたというより見たことがあるようですが、失礼ですがお会いした記憶がなく………」
「私は幼少の頃よりララ様の護衛として側にお仕えしている人間だ。
お忍びで平民の暮らしをしたいと言い出したときは困ったものだが、その近辺で危険因子がないか、陰ながら見守ってきたのだ。
あなたがララ様に仕事を教える立場だったのも見ていた。世話になったな。それで、今日は何用だ。
言伝ではララ様が何か忘れ物をしたようだが?」
護衛の騎士か、全然気づかなかったな。
幼少の頃より、乳母の娘が一緒に育てられ、危険の身代わりとして側に置かれる風潮があるとは聞いていたが、それか。
クールな印象を受けるが、ここまでの話しぶりを見ても礼儀正しく対応してくれているし、何よりララと幼少期から一緒で本当に心配している人間だと伝わってくる。
ここは賭けに出る所ではないか?
このまま協力者を得られずに、この婚約からララを救うのが困難なのは目に見えている。
現状、ただのギルド職員と思われている俺が話を持ち掛けて協力してくれるとは思えないが、やるだけやってやる。
「こちらです。彼女…いえ、ララ様に返されたものですが、これは『約束』の証として預かっていただいたものです。
いずれまた、私の方から返していただくかもしれませんが、今ではありません。
もう一度持っていてもらうように渡していただけませんか?」
宝石箱ごと、記念の魔石を彼女に託す。すると大きく目を見開き驚いた後、こちらに強い怒気を見せ、
「その宝石箱は………そうか、貴様か、ララ様を誑かした男は。覚悟を決めねばならないララ様の心中をかき乱す悪漢めっ!
年甲斐も、身分の差も弁えない恥知らずの男は、私がこの場で斬り伏せる!」
と吠え、剣を抜くエレイシア。
全くもって俺には不釣り合いなシチュエーションとなったが、ただ誤解を解いて平謝りをして、この場を去っても何も解決はしない。
腹を括り、彼女を挑発してでも俺のことを認めさせ、協力を仰ぐしかないのだ。
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