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1 記憶の断片
ソウシツ
しおりを挟むぼんやりと体に感覚が戻ってくる。気がつくと、安物のスピーカーから流れてくるような電子音がけたたましく響いていた。
薄目を開けて、鬱陶しく目覚ましを鳴らすスマートフォンを手に取り、慣れた手つきでスライドして止める。
ふぅ。と息を吐いてもう一度仰向けになる。
正直あと30分は寝かせてほしい。しかしこの体は目覚ましが鳴るイコール起きるというプロセスが出来上がっているらしい。どんどん頭が冴えてくる。
仕方ない起きるか…。そう思って目を開けた。
目を開けると、知らない天井があった。
なんとなく規則性があるように思える木目の天井。そこから古くさいような天井照明が垂れている。壁には白い壁紙、緑色のカーテンから光が透けている。他には、机にテレビ、ノートパソコン、ゲーム機、本棚、そして今寝ているベッド。
これが今見えているワンルームの全容だった。殺風景とは言わないまでも、簡素な部屋だと思った。
…あれ?昨日誰かの家に泊まったんだっけ?…覚えてない。
…呑みすぎたかな?
そう思って体を起こす。俺は全身チェックの薄手のパジャマを着ていた。
「……………え…?……」
ーー
ーーーー
ーーーーーー『俺』?
その思考が、とてつもなく不安定な物に感じた。
…俺?俺って、なんだ?
まるで自分の足元が、根本がぐらつくような感覚に胸の奥で得たいの知れないモノが蠢いている。
途端に、『自分の体が自分のモノでないのではないか。』そんな考えが、頭の中を巡って拭えない。
俺って…?…俺ってなんだ?誰だ!?
今、『俺』であることを疑っている『オレ』は誰だ…!?…
………怖い。
気づけば、手が震えていた。
理解出来ない。頭が痛い。呼吸が浅い。
誰だ。誰だ。誰だ。誰だ。誰だ。俺は誰だ!?
…誰だ…誰だ……
……いや…分かる……知っている…
ーーー 『俺』は、新木 結人 (アラキ ユイト)。
そうだ。俺は…新木結人。
呼吸が落ち着いてくると同時に1つの疑問が浮かぶ。
ーーー本当に?
いや、俺は新木結人だ。それは分かる。確かなことだ。
だが、それがどうにも馴染まないでいる。自分が、産まれてからずっと、その名前で呼ばれてきた実感が湧いてこない。
そもそも簡単に思い出すことも出来ない名前が、本当に俺の名前なのか…?
…分からない。
いくら考えても、答えが出せない。自分は誰なのかも、昨日何をしていたのかも、今まで何をしてきたのかも、これから何をすればいいのかも。
混乱している。それが自分でも分かる。
また頭痛が酷くなるが、それでも思考を止めることが出来ない。
「ーーっ!?」
そんな俺を現実に引き戻したのは、またしても、安っぽい電子音だった。
テーテーテロテロ…と安っぽいなりに爽快感のあるメロディーが部屋に響く。
スマートフォンの画面には、着信の文字。
そしてその下に…
「……小野寺…茜……(オノデラ アカネ)」
……これも、知らない名前だった。
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