ハウリング・ユー

KANAME(小僧)

文字の大きさ
8 / 14
2 五人の劇団

シャダン

しおりを挟む



家に着くと、どっと疲れが襲ってきた。
頭が重く、ボーッとする。あと、強い眠気。
実際体験してみて分かったことだが、創作活動というのは、思っていたよりも体力を使う。

たくさんのキャラクター達を動かして、1つの物語を創る。
その行為は、肉体労働とはまた別種の疲労を生むようだ。


「…ふぁぁぁ……」


欠伸が漏れる。
俺は、薄手のコートを脱いでクローゼットのハンガーにかける。
そして1つため息を吐いて、ついさっきコンビニで買ってきたハンバーグ弁当を取り出す。
キッチンに行き、到底最新式とは思えない電子レンジに入れて、500Wで1分。

その間に、鞄の中のUSBメモリを取り出す。今日大学から持ってきたものだ。
そう、またしても物語を完結させることが出来なかったのである。

考えれば考えるほどドツボにはまっていく感覚だ。
ただ、そのまま放置する訳にもいかず、こうしてデータをコピーしてもって帰ってきた次第だ。


俺は床にドカッと座り、ローテーブルに置いてあるノートパソコンにUSBメモリを差し込む。
ディスプレイ部分を持ち上げて電源ボタンを押したところで…


ーーチン


っと、電子レンジから呼び出しがかかる。
今さっき座ったばかりなんだけどなぁ…と思いながらも、ヨッコイショと立ち上がり、キッチンに向かう。


弁当は思いの外熱くなってしまっていた。「熱っ熱っ!」っと呟きながらパソコンの前に戻ってくる。
再び座り込む時に、このローテーブルには引き出しが付いているのか、と些細なことに気を止める。


実際、俺はまだこの家のことも良く思い出せていない。
何がどこにあるとか、どこにしまってあるとか。
そういったことすら曖昧だ。


ここには何をしまったんだったか?サッパリ覚えていないが、とりあえず開けてみる。
そこには数種類のペンと、コピー用紙のようなプリントが数枚。





「………ん…?」





そのプリントを見たとき、俺は胸がざわめくのを感じた。
まるで、自分がずっと探していた落とし物を見つけたような……いや、違う。それにしては、このざわめきはどうも心地よくはなかった。

俺はそのプリントを本能的に手に取る。
これを見れば、自分の中で失われたものが見つかるのではないか?そう思った。





…それはどうやら、書きかけの台本だった。その時点で書いた物をプリントアウトしたのだろうか?
パラパラとめくっただけだが、明らかに物語が途中で終わっている。


「………あ…」


俺は、最初から読んで見ようと、台本を最初のページに戻すとき、1枚目の裏に手書きでなにやら書いてあるのを見つけた。
どうやら、それは登場人物を箇条書きにしたものらしい。





「………赤松 レイジ、浜岡 タクミ、木崎 シュン、峰 カオリ、前園 ミオ、木崎 カナ…………っ!?…」





その箇条書きを読んだ瞬間、心臓のドクンッ!という音が聞こえた気がした。
気がつけば、鼓動は常時では考えられないほど早く脈打っている。

胸の奥で激しく引っ掛かっている違和感は、喉元まで出かかっているが、形にならない。
また、いつかのように頭痛が襲う。これ以上は考えるな。そう脳が警鐘をならしているような気さえしてくる。
だが反して俺は思考が加速していくのを止めることが出来ない。



何だ?何だ?何だ?この違和感は!?何がおかしい!?
何だこれは!?俺は、何に触れてしまったんだ!?

この台本はなんだ?俺の書いた台本だ。
何故?演劇を創るためだ。
なんの?チームハウリングの…



ドクンッ!!!



何だ!?何なんだ!?
これはチームハウリングの台本だ!
俺たち5人の!!






ーーー
ーーーー
ーーーーー5人………?




違和感が顔をだした。




「………ろく…に…ん…?」



台本に書かれているキャラクターは6人、チームハウリングのメンバーは5人。
その違和感を、どうしても見過ごすことが出来なかった。



俺は……俺は……………俺は…!……もしかして……何かを……

………誰かをっ!!

 

呼吸が浅い。視界がぼやけて、全ての境界が曖昧になる。
そのぼやけた視界の端に黒い物体。スマートフォンを見つける。



「…………!………!………」



震える思考で、1つの結論にたどり着き、それに手を伸ばす。
その手は想像よりもずっと激しく震えていて、一度スマートフォンを取り落とす。
今度は、しっかり両手でそれを持ち上げ、ぎこちなく電源ボタンを押す。
そこから、何故か今まで気にも止めてこなかったアプリ、アルバムをタップ。

無限とも思える起動時間。
その後表示された画面の左上『カメラ』を痺れきって思い通りに動かない体に鞭打って…タップした。







「ーーーーーーーーーーーッ!!!!」




鏡で見た、自分の顔と、ショートカットで軽い茶髪の女の子が、満面の笑みで写っていた。




「………ぁあ……っ!……………ホノ………カ………」



…俺は…俺は……………俺は………なにを…………








最後に見えたのは、木目の天井だった。

そこで俺は、必死で握っていた意識の糸を、手離した。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

処理中です...