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2 五人の劇団
シャダン
しおりを挟む家に着くと、どっと疲れが襲ってきた。
頭が重く、ボーッとする。あと、強い眠気。
実際体験してみて分かったことだが、創作活動というのは、思っていたよりも体力を使う。
たくさんのキャラクター達を動かして、1つの物語を創る。
その行為は、肉体労働とはまた別種の疲労を生むようだ。
「…ふぁぁぁ……」
欠伸が漏れる。
俺は、薄手のコートを脱いでクローゼットのハンガーにかける。
そして1つため息を吐いて、ついさっきコンビニで買ってきたハンバーグ弁当を取り出す。
キッチンに行き、到底最新式とは思えない電子レンジに入れて、500Wで1分。
その間に、鞄の中のUSBメモリを取り出す。今日大学から持ってきたものだ。
そう、またしても物語を完結させることが出来なかったのである。
考えれば考えるほどドツボにはまっていく感覚だ。
ただ、そのまま放置する訳にもいかず、こうしてデータをコピーしてもって帰ってきた次第だ。
俺は床にドカッと座り、ローテーブルに置いてあるノートパソコンにUSBメモリを差し込む。
ディスプレイ部分を持ち上げて電源ボタンを押したところで…
ーーチン
っと、電子レンジから呼び出しがかかる。
今さっき座ったばかりなんだけどなぁ…と思いながらも、ヨッコイショと立ち上がり、キッチンに向かう。
弁当は思いの外熱くなってしまっていた。「熱っ熱っ!」っと呟きながらパソコンの前に戻ってくる。
再び座り込む時に、このローテーブルには引き出しが付いているのか、と些細なことに気を止める。
実際、俺はまだこの家のことも良く思い出せていない。
何がどこにあるとか、どこにしまってあるとか。
そういったことすら曖昧だ。
ここには何をしまったんだったか?サッパリ覚えていないが、とりあえず開けてみる。
そこには数種類のペンと、コピー用紙のようなプリントが数枚。
「………ん…?」
そのプリントを見たとき、俺は胸がざわめくのを感じた。
まるで、自分がずっと探していた落とし物を見つけたような……いや、違う。それにしては、このざわめきはどうも心地よくはなかった。
俺はそのプリントを本能的に手に取る。
これを見れば、自分の中で失われたものが見つかるのではないか?そう思った。
…それはどうやら、書きかけの台本だった。その時点で書いた物をプリントアウトしたのだろうか?
パラパラとめくっただけだが、明らかに物語が途中で終わっている。
「………あ…」
俺は、最初から読んで見ようと、台本を最初のページに戻すとき、1枚目の裏に手書きでなにやら書いてあるのを見つけた。
どうやら、それは登場人物を箇条書きにしたものらしい。
「………赤松 レイジ、浜岡 タクミ、木崎 シュン、峰 カオリ、前園 ミオ、木崎 カナ…………っ!?…」
その箇条書きを読んだ瞬間、心臓のドクンッ!という音が聞こえた気がした。
気がつけば、鼓動は常時では考えられないほど早く脈打っている。
胸の奥で激しく引っ掛かっている違和感は、喉元まで出かかっているが、形にならない。
また、いつかのように頭痛が襲う。これ以上は考えるな。そう脳が警鐘をならしているような気さえしてくる。
だが反して俺は思考が加速していくのを止めることが出来ない。
何だ?何だ?何だ?この違和感は!?何がおかしい!?
何だこれは!?俺は、何に触れてしまったんだ!?
この台本はなんだ?俺の書いた台本だ。
何故?演劇を創るためだ。
なんの?チームハウリングの…
ドクンッ!!!
何だ!?何なんだ!?
これはチームハウリングの台本だ!
俺たち5人の!!
ーーー
ーーーー
ーーーーー5人………?
違和感が顔をだした。
「………ろく…に…ん…?」
台本に書かれているキャラクターは6人、チームハウリングのメンバーは5人。
その違和感を、どうしても見過ごすことが出来なかった。
俺は……俺は……………俺は…!……もしかして……何かを……
………誰かをっ!!
呼吸が浅い。視界がぼやけて、全ての境界が曖昧になる。
そのぼやけた視界の端に黒い物体。スマートフォンを見つける。
「…………!………!………」
震える思考で、1つの結論にたどり着き、それに手を伸ばす。
その手は想像よりもずっと激しく震えていて、一度スマートフォンを取り落とす。
今度は、しっかり両手でそれを持ち上げ、ぎこちなく電源ボタンを押す。
そこから、何故か今まで気にも止めてこなかったアプリ、アルバムをタップ。
無限とも思える起動時間。
その後表示された画面の左上『カメラ』を痺れきって思い通りに動かない体に鞭打って…タップした。
「ーーーーーーーーーーーッ!!!!」
鏡で見た、自分の顔と、ショートカットで軽い茶髪の女の子が、満面の笑みで写っていた。
「………ぁあ……っ!……………ホノ………カ………」
…俺は…俺は……………俺は………なにを…………
最後に見えたのは、木目の天井だった。
そこで俺は、必死で握っていた意識の糸を、手離した。
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