先輩と俺

ずー子

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「俺、お前のこと好きかも」
ふにゃふにゃした顔で1つ上の先輩は俺の前でそんなことを口走った。
売り手市場とはいえそれなりに狭き門を潜って入社した会社は、給与に見合うだけのハードワークさで、勉強だけ出来ていれば口下手だろうがコミュ障だろうがそれなりに上手く生きてこれた俺の心をバキバキにへし折った。水曜日は早帰り日だが、それ以外は残業デフォ。圧倒される日々だが、一つ上のこの人のおかげで何とか乗り切れてた。そんなこと言うと調子に乗るので絶対に口にはしないが。
可愛がってもらっているとは思う。都合の良い存在だった。
「メンターが俺でよかったな」とか「コイツ口下手なんで」と訳知り顔でフォローとかするのもちょっとムカついた。お前に俺の何が分かるんだと言いたくなるが、うまく言語化できない。
先輩はよく俺を飯に誘った。借り上げマンションが寮みたいなものだから、行きも帰りもなんだかんだ一緒で、そうなると自然に飯も一緒になる。趣味とか特にない俺と違って、先輩は色んな人にへらへら懐いてはうまく取り入って、色んな店を教えてもらっているらしい。
「恩恵にあずかっておいてお前その言い方」
「…事実じゃないすか。あ、ビール追加で」
「顔が良いからって何しても許されると思うなよ?」
そんな感じでほぼ平日は毎日顔を合わせていた時のことだった。
冒頭に戻る。
今日は2人とも内勤だったので私服だ。自分より背の小さく童顔な相手が年上とは思えない。大学生とか高校生みたいだなと失礼なことを考えている間に酒に弱いのか、耳朶が赤く染った先輩がテーブルに突っ伏し始めている。それで告白まがいのことを言い出したので俺は固まった。何が目的なのだろう。
「はあ」
「えーなんだよそのリアクションは!」
「まあ、いいんじゃないっすか。好きにすれば」
ぼそぼそ答えて伊達メガネをずらす。冬なのに暖房のせいで居酒屋の空気がこもってる。
「……お前、俺のこと嫌い?」
「嫌いじゃないです」
「ふーん。俺はお前のこと好きだよ」
「…さっきも聞いた」
「好きのままでいていいってこと?」
ふにゃふにゃした顔でそう言われて、俺は「はあ」とやる気なく答える。
「…好きにすれば」
少し目を逸らしてそう答えると、相変わらず嬉しそうに笑うので、俺は足元をあえて蹴ってやった。
「あははいてぇーもう今日はお前のおごりなー」
「は?」
酔った勢いで言われたが「あ、この人俺のこと好きなのか」と言うのは、悪い気はしなかった。
***
社会人の1日は会社で始まり会社で終わる。そうなると寮も一緒で職場も一緒の先輩とは朝から晩まで一緒である。狭い廊下を歩きながら少し下に見えるつむじを見下ろし、俺は口を引き締めた。
(この人俺のこと好きなんだな…)
ふふんと、顔には出さないけれど得意げな気持ちになる。どこにでもいそうだけど社交的だから先輩は色んな人に声をかけられる。俺はその少し後ろで親しげに声を弾ませるその横顔を覗き見ては、いつも面白くない気持ちでいた。
でも今は違う。好かれているという事実は、自分にこんなにも自信をくれる。
「どうしたぁ?」
「なんでもないです」
「ふーん」
なので、部内の飲み会であの人の同期に投下された事実はただの爆弾でしかなかった。
「え?彼女いるよアイツ」
「……は??」
「お前知らなかったの?しょっちゅう言ってるぜ?」
「……誰ですか」
「えーっとねー」
聞きつけた情報によると俺が入社する前に合コンで知り合ったらしい。
「…は?」
鈍器で頭を殴られた気分だった。だってあの人朝から晩まで毎日ずっと俺といるのに。
(は?彼女?なんで?だって)
俺のこと、好きって言ったじゃねーか。
正直その後の飲み会の記憶はない。味も覚えてない。先輩はいつも通りで、違うのは彼女がいるという事実だけだった。
***
「もーはげし…♡あはっ…♡」
今日は相手の部屋でする日だ。どちらの部屋でも隣同士だからいいと言えばいいけど、俺は先輩の部屋に俺以外の気配がないかつい探ってしまうクセができてしまった。
彼女がいる、と知らされた日の夜。俺は先輩を抱いた。酔っ払った俺を介抱して、そのままキスして気づいたら押し倒してた。恐ろしいことに、彼女持ちのはずなのに、ぐちゃぐちゃの感情の俺に襲われても、先輩はふにゃふにゃしたままだった。危機感なさすぎて心配した。
「…明日休みだから別にいいでしょ」
「も、そうだけどぉ…はっ♡お前前触んなし…♡」
突っ込まれておいて前を触られるとわかりやすくキレる。なんか恥ずかしいらしい。基準が分かんねえ。
「ぁ♡あ……っ♡」
首筋に唇を寄せて、そのまま赤い跡を残すと甘い声が出る。跡付けてやると「お前なー」と怒るけど、結局許してくれる。俺はこの人に、許されてる。
「……っ」
「あ、やべ……っ♡でかくなったぁ……♡」
「黙ってて」
「んっ♡」
キスして黙らせる。先輩も俺の背中に手を回してぎゅっとしてくるから、俺はいつも調子に乗るのだ。
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