義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子

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(まずいです…ヴィル兄さん、めちゃめちゃ怒ってます……)
さて、ヴィルヘルムが自身の感情に葛藤している中、レイナードはレイナードで葛藤していた。言いつけを守らず、勝手に出歩き、とじ込められ、謎の大人と埃と雪まみれになって、挙げ句お風呂まで入る羽目になった。そして自分はまだ何も知らない純粋無垢な子どものように振る舞ってしまっているが、内心冷や汗をかいていた。
(だって僕がスパイしようとしてたってばれたら、ヴィル兄さんの立場も、危うくなります)
そう思ったレイナードは必死に演技をした。その甲斐あってか、ヴィルヘルムはレイナードのことを疑っていないようだった。だがその代償として、過保護に拍車がかかったようだった。
「僕はレイが無事だったならそれでいいよ」
いつもキラキラした太陽のような兄の淋しげな顔を見ていると、レイナードは罪悪感を覚えずにはいられなかった。なのでつい勢いでキスをしてしまった。
「なっ…!」
レイナードの行為にヴィルヘルムは顔を真っ赤にして言葉を失っていた。
(うぅ…こんなつもりじゃ……)
レイナードは気まずさを感じながらも、ヴィルヘルムの腕の中で大人しくしていた。ヴィルヘルムの温もりを感じて胸が高鳴る。
(なんだか変な気持ちです……)
レイナードはヴィルヘルムの背に回していた手を放した。ヴィルヘルムの顔が少し寂しそうに見えたような気がしたが、きっと気のせいだろう。ヴィルヘルムはすぐにレイナードから手を離し、少し距離を取った。 
「……これからは勝手に出歩いちゃダメだよ?」
「はい。分かりました」
その返事にヴィルヘルムは目を細めて優しく笑う。
(うー…でも折角学園のことを調べるチャンスなのにー…)
そう考えると勿体ない気もしてきた。義兄を困らせたくない気持ちもあるけれど、レイナード本人の好奇心も抑えられない。久々に館以外の場所に出てきて、知的好奇心が疼き始めていたのだ。
(あのおじさんも帰っちゃったし、きっとバレないよね)
レイナードは心の中で小さく呟いた。するとヴィルヘルムが口を開いた。
「ところでレイ。さっきの男に何か言われたのか?妙に様子が変だったけど」
「え?」
「その……お前のことを……」
ヴィルヘルムはそこで言い淀んでしまった。どうやらレイナードに何を言いたいか分からなかったようだ。しかしレイナードはすぐに察した。おそらく自分の身を心配してくれているのだろうと思った。だから安心させるために微笑む。
「…悪いことしちゃダメって、言われました」
「はあ?レイが悪いことなんてするわけないだろう?アイツ本当適当なこと言うな……やっぱり通報するべきか……」
ぶつぶつと呟くヴィルヘルムにレイナードは苦笑いを浮かべた。
「…兄さん、悪い子の僕にお仕置きしないんですか?」
「えっ!?」
ヴィルヘルムは驚いてレイナードを見た。
「だって、クリス様がそう言ってました。悪いことをしたら、お仕置きだって」
レイナードの言葉を聞いてヴィルヘルムの顔がどんどん赤くなっていく。レイナードは首を傾げた。
「兄さん?」
「そっか……そうだよね……うん。僕がちゃんとレイナードを叱らないといけないね…」
「??」
レイナードはヴィルヘルムの態度がよく分からなくて頭上にハテナマークを浮かべる。
「でも…僕がレイに…そんなこと……できない……」
ヴィルヘルムは俯いて呟いた。
「???」
なぜかヴィルヘルムはもじもじとしている。
「ごめんね……レイ。僕にはまだ、無理だ……」
「??」
ヴィルヘルムは顔を赤くして口元を手で押さえていた。その様子を見てレイナードはますます訳が分からなくなる。
(なんでこんなに兄さん真っ赤なの……?)
「お仕置きはまた今度。大人になったらね」
ヴィルヘルムはレイナードの頭をポンポンと撫でた。レイナードはきょとんとした表情でヴィルヘルムを見上げる。
(どういうこと……?)
「後で僕が学園を案内してあげるよ。もう勝手に出歩かないくらい、いやってほど回ってあげる。それでいいよね?」
「え?」
レイナードは目を瞬かせた。ヴィルヘルムが優しく微笑む。
「それとも……他に気になることでもあるの?」
「……」
(兄さんと学園を回れるのは嬉しいですけど……でも……)
レイナードは目を伏せた。だがすぐに顔を上げてヴィルヘルムを見つめる。
(きっと僕が1人で回っても怪しまれるだけです……)
そう思ったレイナードは素直に頷く。
「分かりました。ありがとございます、兄さん」
レイナードは笑顔を作った。その笑顔を見てヴィルヘルムの頬が緩む。レイナードはその反応を見て心が締め付けられるような感覚になった。レイナードが微笑む度にヴィルヘルムは嬉しそうな顔をする。その度にレイナードは罪悪感を覚えるのだ。
(どうしよう……すごく悪いことをしている気分です……)
ヴィルヘルムの視線が刺さる。その瞳の奥に潜む感情に気付かないふりをしてレイナードはヴィルヘルムから目を逸らす。
(でも…これは僕が決めた道なんです。僕は父さんの期待を裏切れない)
レイナードはぎゅっと拳を握り締める。
(ごめんなさい……)
レイナードはヴィルヘルムに頭を下げた。
「レイ?」
ヴィルヘルムが不思議そうに声をかける。レイナードは顔を上げて笑顔を浮かべる。
「なんでもありません。兄さん、夕食の時間ですよね?その後で一緒に学園を見せてください!」
「うん、勿論だよ、レイ」
ヴィルヘルムはレイナードの頭を優しく撫でた。
「ねぇヴィル兄さん。僕が本当に『悪い子』になったら、兄さんが僕をちゃんと、叱ってくださいね?」
「レイ……?うん。勿論だよ。『悪い子』のレイナードを僕がしっかり躾てあげる」
レイナードはヴィルヘルムに抱きつくと頬を擦り寄せる。
「約束ですよ?」
レイナードはそう言って微笑んだ。ヴィルヘルムはレイナードの背中に腕を回し抱きしめ返す。
「うん。約束するよ」
そんなことは来ないと思っているのだろう。その義兄の思いが分かり、レイナードはまだ少し胸が痛んだ気がした。
***
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